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わたしに前世の記憶がある、と人に言えばきっと精神科の病院を紹介されるだろう。
小説か漫画にあるような「神様に選ばれて世界に転生した勇者」や「何かしらの事故で突然異世界に来てしまった現代人」のような、そんなことではない。
わたしはただの女の子だった。
ただ好きになった人が少し変わっていただけ。
そんな私は都合三度目の人生を歩んでいる。

一度目。
私が好きになった男の子は、乱暴な男の子だった。
同い年のいとこだ。
最初はおとなしい子だと思っていたのに、再会したらもう暴れん坊になっていた。
そんな彼が家にやって来て同居人になって笑って、喧嘩して、私から謝って仲直りして。
そのうち化け物…悪魔と思える存在が街を襲撃して来ていろいろあったけれど、私は幸せだったんじゃないかと思う。
私達は最終的には両想いになったから。
ちゃんと、恋人同士として結ばれたから。
その一度目の人生で思い残すことがあったとしたら、私は結局彼を置いて死んでしまったということ。
それも結婚式の前の日だったことを覚えている。
交通事故でも病気でもない。
悪魔がやって来たのだ。
あの後彼とその悪魔がどうなったか、私は知らない。

だって死んでしまったから。


二度目も同じ名前の「私」だった。
一度目のの記憶はほとんど思い出さなかったけれど。
一度目と同じ名前の人に好意を持った。
それだけは心のどこかで理解していたんじゃないかと思う。
彼もまた同居人になった。
いとこではなくて、父の親友の息子さんという関係性だったけれど。
心優しい男の子だったのに、ある日突然変わってしまって本人に問いただしたこともある。
その乱暴な一面に、一度目の彼の面影を見たのかもしれない。
だけど彼とは最後まで友達以上恋人未満の関係だった。…限りなく恋人に近い関係だったかもしれないけれど。
二人で自然に良く出かけていたけれど、告白なんて受けてなかった。
それでも私の心の拠り所は彼だった。
それは間違いなくて、私は最後まで彼のことを信じていた。

二度目の私自身の最後。

家に来た味方と共に最後まで頑張ったけれど、でもダメだった。
笑う大人の男たちの気配と炎と血の赤。
そんな最後を覚えているけれど、……どうしてか夕暮れの教室で泣いて謝ってくる彼に自分からキスした記憶があるんだけど、どういうことだろうか?
そうして三度目の「私」は、やっぱり同じ名前でこうして生きている。
幼稚園に入るか入らないかの時期に大火事…放火魔によるもの…に巻き込まれた私は、その時のショックで前世の記憶を思い出した。

一度目も、二度目も、全部。

三度目の「私」にはテレビにあるような魔法使いや超能力者のような不思議な力を持っているわけではない。
一度目も二度目も勝気で行動的だったと覚えているが、今の私には怖いものが多すぎてそこまで積極的になれない。
頭がすごく良い、というわけでも運動が得意というわけでもない私が前世(二つも!)のことを覚えているというのはなぜなのか、私にはわからない。
両親は怖がりの私の様子を火事のトラウマだと思っている。
自分よりも大きな男の人の集団を怖がるのは、火災当時に野次馬で取り囲んできた近所の人の姿と放火魔の姿をごっちゃにしてしまったこと。
コンロとか小さなものは大丈夫だけど、キャンプファイヤーとか大きな火になると身体が強張るのは火事の炎への恐怖。
そう両親は思っているし、私自身がそう思わせて仕向けた面がある。
だって前世の最後を思い出したから、なんて言えない。
両親は私の為とご近所のことを考えて引っ越ししてくれた。
火事でショックを受けている幼児、と見てくれているうちに離れた方がお互いの為だろうと判断してくれたのがありがたかった。
ずっと怖がっていることで、不審に思われて何かしら陰口を言われてしまったら、私は兎も角母に申し訳ない。
カウンセラーの先生にも少しの間だけ通った。
だけど完璧に治るものではないのは、本人の私がよくわかっている。
両親に心配させたくなくて、ずっと私は自分に言い聞かせて我慢する様になった。
新しい幼稚園にはすぐに馴染めた。
親しい女の子の友達が増え、その子の友達の男の子とも自然に接することができるようになった。
ただ以前の私と違って、消極的な女の子になってしまった。
もしも一度目と二度目の「私」を知っている誰かと再会したら、きっと驚くだろう。

……今のところ、そんな人いないけれど。

小学校に上がってからしばらくして、弟が生まれた。
私はようやく自分の家族を取り戻したような気分になった。


ただ、三度目の今、彼とは再会していない。


もしかしたらこの世界には、彼はいないのかもしれない。
一度目は同い年のいとこだった。生まれた時からの顔見知りだった。
二度目は父親同士が親友だった。やっぱり幼い時からの顔見知りだった。
今はそんな子は私の周囲にいない。
父方にも母方にも。


もしかしたらこの三度目の「生」には彼は存在していないのかもしれない。



喪失感と安堵とごっちゃになっている私がいる。
私の記憶の中にある感情は、今の私と完全に同化しているのだ。
一度目、二度目に感じて育んだ愛情は消えていない。
彼に対しては会いたいのか、会いたくないのかと聞かれたら…少し迷う。
今の私は一度目や二度目の「私」と根っこは同じだけど、弱い人間になっているから彼にはきっと好かれないだろう。
それが悔しいと思うし彼に「覚えていたのと違う」と失望されたらと思うと怖くて仕方がない。
再会して喜ぶ気持ちよりも以前に、私は彼に対してそう思ってしまった。
…全くもって私は臆病者だ。
このまま私の中の愛情は凍り付いて、違う誰かに恋したり、愛したりするようになるのだろうか?
「人生は一度しかない」というのに三度目を経験している私はそんな思考になると、いつも小さく息を吐く。
今度の人生で、好きな人と結ばれたら、お互いがおじいちゃんおばあちゃんになるまでゆったりと生きて優しい世界が続けばいいのに。
〔好きな人〕というところで彼の姿が脳裏をかすめたが、私はその姿を心の奥底に沈ませた。
臆病者に彼を思う資格とか、ないから。
けれど、彼にはずっと笑っていてほしいとは思う。



夕陽の赤色に背中を押されるように小学校から帰ると、お客様が家に来ていた。
そんな話は両親から聞いていないけれど、でも弟の声と大人たちの笑い声が良く聞こえて来た。
「ただいまぁ」と小声で玄関で言ってから、靴を脱いでいると「お帰りなさい」と母が来てくれる。

「今、お母さんのお友達が来ているの。ご挨拶、できるかしら?」

やんわりと母がそう聞いてくる。

「できるよ」

私のことを心配して、断っても良いように聞いてくれる母に私はそう返す。

「こんにちは」

ランドセルを置いて、私がリビングに顔を出すとすぐに目が合った。
知らない人…ではなかったけれど、今は私たちは初対面なのだから。
ちょっと気後れして、言葉が小さくなる。
眼を少し下げて、合わないようにしてから母の友達の大人の人に顔を向けた。


「初めまして、牧村美樹です」

「まぁご丁寧にありがとう。初めまして、美樹ちゃん。小母さんはね、不動須弥子っていうの。こっちはね、私の息子の」


「明」



彼、がいた。

一度目と二度目の時の彼の姿がダブって消えていく。


「僕、不動明。美樹ちゃんって呼んでもいい?」



優しい男の子の声だけのはずだ。
私としては三度目だけど彼にしてみれば初対面のはずだ。
だけどなぜか私はその彼の言葉の後にこう聞こえた気がして、驚いたまま頷いてしまった。



「ようやく会えたね、美樹」と。






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てなわけで 「009 VS 」映画公開記念…でもないか、デ.ビ.ル.マンの美樹ちゃん主人公のお話でした。
原作がK談社さんですが、アニメ版主軸ということで。あと当たり前のように違う作品とクロスオーバーします。そのうち。
「TV版→OVA版(AMON+に若干、舞台)→現在」と三度目の人生をはじめた牧村美樹ちゃん。
あれだけのことがあって、それを少しなリにも覚えてたらいくらもともとは勝気な女の子でもこうなるよね、的に書いてます。
もう完全に別存在になってしまっていますが。
テレビ版の最後は勝手に捏造しました。
話的に勧善懲悪なんですが、あのお話もどうやら「漫画版に劣らない悲惨な最後」であるらしいので(ウ.ィ.キ.ペ.デ.ィ.ア様参照)悲惨ってことなら、こうだろうと。
本当は成代わりみたく考えた方がいいかなぁと思ったんですが、ふいにこんな感じになってしまいました。

もう漫画や後編的な「ジャック」やパラレルな「レディ」とか考えたら、ここで書くにはちょっと的な発言入れてしまいそうなんで、何も語らず、うちの二次創作(この物語以外でも)では
「明くん⇒⇒⇒←美樹ちゃん」世界のお話になりますとだけ。

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