02 



不動家と牧村家の親同士はあっという間に仲良くなった。
父もあちらのお父さんも、仕事の内容がかぶるらしくて二人してお酒を飲みに行くようにもなって、そこで難しい話をしているみたいだ。
私と明くんの関係性は、なんだか一度目・二度目の私達と逆になってしまった。
一度目・二度目の彼と同じだけど違う存在のはずだ。
初対面時の時に聞こえた、あの彼の言葉はきっと私の願望が聞かせた幻聴だろう。
そう思ってまごまごしていると、気が付いたら彼の方から私の手を引いて遊んでくれている状態が続いている。
勿論、学校は違うのでもっぱら休みの日に限られるけれど。
それと苗字で呼ぶと少し微妙な顔つきをされ、終いには「名前で呼んで」と乞われてしまった。

「僕が名前で美樹ちゃんのこと呼んでるのに、僕が不動くんのままだと不公平でしょ?」というのが彼の言い分だった。

一度目・二度目の彼の気持ちをそのまま三度目の彼に向けかねない私は、心の中で「私の明くん」と「今の不動くん」と分けて考えたいのに。
彼と言う存在が嫌いなわけはないけれど、私はもう一度目・二度目の彼が愛した行動力も明るさも持てない状態なのだ。
困った。最近は強行手段としてか名前で呼ばないと返事をくれないし、私の母を味方につけ始めている。
母は私が幼稚園からの幼馴染の男の子を、他の幼馴染と一緒に名前で呼んでいるのを知っているから余計だ。
なんとなく恥ずかしいんだもん、と誤魔化してはいるが。



あまり気にしていたからだろうか、私は変な夢を見た。



――――――――――――――――――私は白詰草が群生している場所にいた。
これが夢だというのはなんとなく自覚している。
…花言葉で後々考えると怖いものが付けられてるけれど、クローバーの方には関係ないよね? と幼馴染に聞いたばかりなのだ。
一度目・二度目の感情や記憶と同化して、少なくとも子供なのに大人の思考をしている私よりも博学な幼馴染の男の子は少し得意げに教えてくれた。
結局のところ「怖い花言葉を示すのだがそれは一般的に知られてないからいいんじゃないか」という結論が出たのはもう一人の女の子の幼馴染とだ。
あぁ、彼のことは呼び捨てで呼んでいるのに三度目の彼は呼んでいない。
そのこともこの夢を見ている原因の一つなのだろうか?
花自体も今日の夕方、土手で見かけた群生が踏み荒らされていたのを気にしていたから夢の中に出てくるのは仕方ないかもしれない。
座ってもきっと汚れない。
私は確信して座り込むと、四葉を探しながら大きくなっている花も摘み始める。
私の夢なのだから、四葉以上の葉もきっとあるだろう。
少し大きくなった花も摘んで、花冠を作ってみるのも手だ。
現実ですると服が濡れるか汚れるかしてしまって、母を困らせるかもしれないから滅多にできない。
私は夢中になって探し始めた。
だから、彼が来たのに気が付いたのは本当にその時だったのだ。
ばさり、と何かの羽音が聞こえたのでそちらに顔を向けると。

「美樹」

そこには明くんがいた。
ただ三度目の、今の彼じゃない。
一度目・二度目の彼を思わせる大人の姿だ。少なくとも高校生には見えない。
身体がやけに大きく感じるのは、今の私が子供だからか?
身に着けているのは上も下も黒。
眼の下にある隈が今よりも濃くなっていて、それは一度目の彼や二度目…好戦的になった後の彼と姿が重なる。

 明くん。 

思わずそう呼んでしまう。
この明くんは私の夢の産物なのかな? それにしては服が黒一色なのはどうしてだろうか。
二度目の彼が良く好んできていた服の色が黒だから?
そういうことなら、私がそう思い浮かべても自然なのかな?
私は首を傾げていた。
なぜその明くんが今、ここで出てくるんだろうか? 
明くんはきょとんとしたが、その後嬉しそうに笑いながら近づいてくる。

「良く今の俺が不動明って気が付いたな」
  …違うの? 

そう聞くと、慌てて「不動明だよ」なんて言っている。
私が自分の想像の産物を間違える訳ないんだけど。
いや、私って今の彼が大人になったらこうなると想像したことあっただろうか?
深く考えようとしたけれど、そうしたらなぜかいけない気がして考えないことにする。


「なんで夢では素直に呼んでくれるのに、現実では呼ばないんだよ」


私の想像の産物であるはずの彼はそう悪態をついた。
え? なんで? と思っていると乱暴に座り込む。
彼の身体は大きくて、今の私の倍はある。
明くんだからか、大きな身体の大人の人でも恐怖を感じない。
それはこの明くんが私の想像の産物だからだろうとも思うけど。

けど、なんだ。

私の想像の産物なら私の複雑な乙女心と言うか、弱くなってしまった私の心を解ってもいいのに。
…。
無視しよう。今の私は四葉のクローバーを探すのに忙しいのだ。


「みーき? …美樹。美樹ちゃん。美樹姫……俺の話、聞いてる?」
  聞いてません。


私が思わず伝えると彼は「聞こえてるじゃねぇか。意地悪すんなよ、美樹」と言いつつ私の手元を覗き込んだ。
タイミングいいなぁ。
ぷちん、と私は見つけたその茎を折った。
夢だからなんの躊躇いもない。
私はようやく見つけたその一本を彼に見せる。


「四葉のクローバー?」
  そうよ。幸運のお守り。本当は違う花言葉もあるけど。


私は迷わず彼に差し出した。
違う花言葉は「私のものになって」だ。そんな希望すら抱いてはいけない相手だ。
私は強く「幸運」だと言い聞かせる。彼にも、そして自分にも。


  明くんにあげるね。
「美樹」
  だから、幸せになって。
  …現実でもあげれたらいいけど、探しても見つからないからあげれないんだもん。ごめんね。


彼は四葉のクローバーを受け取ってくれた。
私はそれに満足して今度は花冠を作る。

明くんは四葉をじっと眺めてから、私を見ているようだ。
花冠が出来たので、明くんを見あげるとなんというか…ものすごく幸せそうな笑みを浮かべていた。
よいしょ。
冠をもったまま立ち上がると、ちょうど私と同じ目線だ。
どれだけ身体が大きいんだろうか。


  はい。


私が花冠を乗せると、彼はちょっと困ったように笑った。


「これは美樹がかぶればいいと思うぜ?」
  私のはあとでも作れるもの。白詰草の花言葉はね、約束って言うのがあるのよ。
  本当はもうちょっと違うのもあるけど、そっちじゃなくて「約束」の方ね。


私は強くそう主張して笑う。
白詰草のもう一つの花言葉は「わたしを思って」だ。これまた希望をもってはいけない、そんな感情を意味している。
花冠を持っていた彼の動きが止まった。

 「幸せ」になって。「約束」よ。

「…美樹が俺の傍で、笑ってくれさえすれば…俺はそれでもう幸せだよ」


何それ。と、言おうとすると明くんの顔がくしゃりと歪んでいた。
泣きそうなのを無理やり笑顔にさせている。
私の想像の産物の彼は、本当に無理なことを言う。


  ずっとは、無理だよ。


解ってるはずなのに口に出す私の想像上の明くんに、私はそう言ってしまった。
うつむいて、私が創った創造の産物であろう明くんの顔さえ、私は見れなくなる。


「…なんで?」
  だって私、明くんが好きな牧村美樹じゃないもん。


私の言葉に明くんは少し黙ってから、それから怒ったような気配を仕出した。
なんで怒るんだ。解ってるくせに。
私は一度目・二度目の私よりも精神的に弱い女の子になってしまっているのだ。
それにそんなに怒ったところで大人の男の人達は怖いけれど、明くん…しかも私の作り上げた虚像の彼だから怖くないぞ。


「美樹」
  不動明が好きな牧村美樹は、あんまり怖い物がなくて男の人に負けないで強い女の子だもん。
  私は、もう違う。


きっぱりとそう言ってしまう。あぁ、口に出して言ってしまった。
自分で言って自分で傷ついているバカな私。


「…違わないよ」


明くんは私の頭に花冠を乗せて来た。
驚いて顔を上げる。
彼は四葉のクローバーを押し付けてきたかと思うと、その大きな腕で私を抱きしめた。
夢なのに抱きしめられている感触があるって、変な感じ。


「弱かろうが、強かろうが。俺の美樹だ。優しくて、綺麗で、俺のことを想ってくれる…俺が大好きな牧村美樹なんだよ」


私の都合のいい想像だからこその彼の言葉は、甘くて強くて現実を考えると悲しくなる。


「俺が…美樹の魂を間違えるわけないだろ」
  何それ、わかんない。

「美樹はわかんなくていいんだ。俺が解ってるから」


私の想像の産物である明くんは、そういうと顔を寄せてくる…!
え、なんで。やめろ。何をしようとしている。
私はばたばた動いた。
夢なのに額に唇が当たる感触がする。
ついで瞼のあたりに降り出してきたそれを、素直に私は受け入れたくない。
こんなの私は望んでない! 
止めて、止めて、止めて…!
四葉のクローバーを握りしめているから、つっかい棒のように腕を伸ばすこともできない。
片手でなんとかやめさせようとすると、小さく笑われた。
私の心の奥底では、明くんとこんなことしたいと望んでいたのか? いや素直に認めればそれは一度目や二度目であって今じゃない。
今、三度目の私じゃないんだ!
泣きそうになっている私の様子に気が付いて、その明くんはようやく過剰な接触――キスだとは認めない。絶対。――を止めてくれた。


  私の想像の明くんのくせして、なんで私のいやがることするの!
「…本当にいやだった?」
  ダメなの! めっ!

「誰がダメって決めた?」
  私が決めたの。明くんの為にもならないし、私がつらいの。


きっと嫌われるだろうから、それなら最初からもう好きにならないという私の自分勝手な言い分だ。
今の私にふさわしい子供の拒絶の言葉に、明くんは抱きしめる力を強くしてきた。


「…ごめん、美樹。君がつらくても悲しくても俺が見つけてしまったから」


優しい声音で彼は続けた。


「ずっと探してた魂をようやく見つけたんだ。もうどこにも行かせない。誰にもやらない。
 俺の為にならないって勝手に決めつけないでくれよ、美樹。俺は今の君も愛しいよ」


今の君と過ごしている時間なんて関係ないんだよ、と言ってくる私の想像の産物を、本当にどうしてくれようか。
そんな言葉なんて自分の夢で聞きたくないのだ! 夢と言うのは本人の願望なんだろうが!
…でも待って、本当にこの明くんは、私の想像の産物だけなんだろうか?
奇妙なことを考えてしまったからか、私は思わず抵抗する力を弱めてしまった。

そうしたら、嬉しそうに彼は唇を今の私の唇に寄せて来て――――――――――――――――――――――――。





入れられた舌の感触に飛び起きた。
生々しいそれは一度目にしかなかった行為であって、いや私は何を考えているんだ。
あんなことをされたいと、妄想にふけるには年齢は早すぎます。今の私は小学生! 小学生だから!!!

ふーふー、息を荒くさせて隣を見ると。


にやけた顔の、今の明くんがいるのはなんでだろうか…。


明くんはふにゃり、と笑うと手を動かして私の身体に触れようとしてくる。
待て、小学生と言えども男の子と女の子を一緒に寝かすなんて…いやなんでいるんだ。そこが問題。
窓を見ると夕暮れだ。
そうだ、今日は遊びに来るって言っていたが、ものすごく眠くて母に言って横になっていたのだ。
来たら起こしてね、と伝えた筈なのだが。


「美樹…美樹ちゃん…」


寝言でそう言っているのを聞いて、思わず私は枕にしていた柔らかいクッションを持ち上げ。
ばふ、とそれを彼の顔に向かって振りおろした。
彼が起きて「美樹ちゃん、びっくりした? ごめんね、ごめんね」というまで私はぽかぽかと枕で彼を叩いていた。
あんな夢を見てしまった自分が恥ずかしかったのと夢の中の彼の言葉を具体的に思い出さないようになるまで、その日私は彼を避けまくることにした。









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明くんのお母さんのお名前「須弥子」さん。お父さんは「礼次郎」さん。
美樹ちゃんのご両親は「耕三」さん「亜樹子」さん。弟のタレちゃんは「太朗」くんに統一します。(漫画版では違うお名前ですが)
全て小説版:デ/ビ/ル/マンの設定です。(ウィキさん参照)。
今後このお話でタレちゃん以外はお名前そんなに出てこないけどね。
あとこのお話の中に出てきた大人の明くんの姿と口調(及び性格)は 「AMON」時の彼か、K談社ですが漫画「D.E.V.I.L.M.A.N vs H.A.D.E.S」時の明くん想像しながら書いてます。

立ち読みしました。1・2巻。絵がきれいでした。


現在、書きたいシーンをずんどこ書いてますよ。


四葉のクローバーの話は明くんに花冠する美樹ちゃんを想像したらネタが湧いて、それからちゃんと花言葉調べました。
「わたしを思って」「わたしのものになって」→からの「復讐」という花言葉が恐ろしかったわ。実は怖い花だったんだな。
本当は上の花言葉に気が付く話にもっていこうとしたのですが、どうもまとまらないのでこんなお話になりました。


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