お父さんと一緒






「聞いていますか? お父さん」

「聞いてます、聞いてます」

若干12歳の若き結城グループ時期総帥は、自分の実の父親を凝視する。

黒いジャケットにスラックス。

一見、大正時代の小さな紳士風である自分とは対照的に、あまりにもみすぼらしい姿。

たとえ、姉がブランド物をディスカウント・ショップで買ったものだと偽って着せているとはいえ、洗練された自分とはかなり違う。

…確かに素材自体はいいのだが。

「ええっとぉ…これはこういう処理でいいのかな。樫緒君」

「拝見します」

目が書類に走る。

その間、父親は頼んでおいたアイスコーヒーに手を伸ばした。

場所は某所にある24時間営業のレストラン。

静まりかえったその場所は、空気さえも気品が漂っているかの錯覚を起こす。

樫緒は、一つ溜息をついて書類の束を父親に渡した。

「間違えてます。三箇所」

「ええっ!?」

とほほ〜と、父親はずれた眼鏡を直しながらまたその書類に目を通していく。

「まだ大学卒業してないんで…」

「それは理由になりません。貴方は僕の父なんです。そろそろしっかりとした帝王学を学んでください。お父さん」

きっぱりと息子に言われて、若い父親…草刈鷲士はまたとほほと頭をかいた。


父親・草刈鷲士は現役の大学生。
信じられないようだが、実の親子関係である。




数日前。

「樫緒!」
ばんっ!! と勢いよく叩かれた机が多少揺れる。

叫んだのは自分の片割れであり、愛すべき姉の美沙だ。

「なんでしょう、姉さま?」

「なんでしょうじゃないわよ! 鷲士くんに何教えてんのかって聞いてるの!」

「経済学全般です」

「結城が鷲士くんに何のようよ!」

「僕の独断です」

「…………樫緒?」

「姉さまのお怒りもごもっともだとは思いますが」

いろいろな言い訳が樫緒の口から出される。

そして最後に樫緒は言った。

「僕にだってお父さんに会う権利はあるはずです」

「うっ。そりゃあ、そうだけどさぁ…」

ごにょごにょと何か言う姉に対して、密かに樫緒はまた溜息をついた。

(それに、姉さまはお父さんを独占しすぎる)
と、そんな事があった。



「君と樫緒君は特に一番の宝物だ」
その言葉を襖越しに聞きながら、胸の中が温かくなるのを感じた。



それなりに理想があった。
笑う母。傍にいる姉。そして堂々と自分を見つめる、父。
そんな家族を想像していたけれど。


けれど。


「樫緒君、これでいいかなあ?」

へろへろで、みすぼらしくて父親の威厳なんてものは…少ししかない。

「拝見します」

書類を通す。

「樫緒君」

「はい?」

「こんど皆で紅葉狩りでも行こうか」

樫緒は顔を上げた。

にっこりと眼鏡の向こうの瞳が笑う。

優しい。
とてつもなく優しい瞳。

「そうですね」
かすかに微笑みながら、樫緒は返事を返した。

こんな表情は、鷲士自体見たことがなくて、それが嬉しくてまた笑い返す。

とたんに。

バリバリバリバリ!!
ヘリの音がレストランの窓を叩くように鳴り響く。

姉の美沙が怒った顔で二人を見ていた。

「ぶっ」

「うっ」

「なあに親子で見詰め合ってんのよう!」

「み、美沙ちゃん?!」

ひー、何言ってんの? とか、ほらさっさと乗って! 次は…なんていう姉と父の言葉を聞きながら樫緒は思わず呟いた。


「………お父さん、紅葉を見に行くのは当分無理のようですね」


結城樫緒。
結城グループ時期総帥にして、来訪者の血を色濃く受け継ぐ少年。
最近になって、ようやく父に心を開き始めた超天才児は、問答無用に姉に父と共に拉致される。

理想の家族とは程遠いが。
(これもこれでまだいいか)と、思う樫緒君がいたとかいなかったとか。


終わり









2001・10・18 UP


相方・秋山ナオミさんが「20000ヒットしたら書いてくれ」と、言ってきた
電撃文庫「DADDY FACE」の二次創作。
お勧めです。
第三弾の「深海の人魚」では不覚にも泣いてしまいました。(大マジ)
三作とも娘と父親がメインなので息子で書いてくれといわれて頑張ってみました。



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