加山VS花組?



「加山はんの手帳やったの? それ」

ぽろろ〜ん♪ とギターの音色が響く。

「ありがとう、レニ君」
「い、いや」

咄嗟にどう判断していいか判らないレニは、素早い手つきの加山に手帳を奪われた。

「で、時に聞くが…中を見たのかね」
「見た見た♪ お兄ちゃんの写真♪ ねぇ、加山のお兄ちゃん…」
「駄目だ!!」


それ頂戴。という言葉を待たずに加山が強く言ってのける。
ねだろうとしていたアイリスの笑顔が不機嫌な顔に変わっていく。

「けち! いいじゃない。アイリス、お兄ちゃんの恋人だよ!」
「フィルムは残ってんのやろ? せやったら何枚でも現像できるやんか」
「駄目といったら駄目だ!」

手帳を背広の内ポケットにしまいながら、加山はいつになく強い口調で言い切った。

「これは男の友情の歴史だ! その歴史を他人に明かすだなんて俺にはできない!」
「そな、おおげさな」
「では諸君、また会おう!」
「あ、ちょい待ち!」
「加山お兄ちゃん!!」
「ふはははははは…ん?」

本来ならばギターを抱えて高笑いをして去るのだが、今回は相手が違った。かつての戦闘シミュレーターがその分析能力を発揮して彼の逃走経路を塞いでいたからだ。

「レニ♪」
「レニ、加山はん捕まえて!!」

紅蘭とアイリスの言葉にレニは目を細めて、加山を睨んだ。

「任務、了解」
「くっ!」

だが加山もただの人間ではない。
帝激隠密部隊・月組の隊長である。
執拗なレニの攻撃(?)に様々なフェイントと素早い動きでそれをかわして逃げ続けていく。
しかもギターを背負ったまま!

「さすが月組隊長。物凄いフットワークや」
「紅蘭、感心してる場合じゃないよう」
「せやった。フント! 出番やで!」

ワンッと一声鳴いて、白い小さな犬が加山に向かって突撃していく。
しかし月組隊長はそんなことも物とはせず、さらりとそれをかわした。

「あかん、うちも加勢する!」
「! それならば!」

紅蘭の声に加山は素早く反応した。懐に手を突っ込むと、何かを地面に向けて叩きつける。それは、もくもくと白い煙を上げた。

「煙幕くん?」
「では諸君。今度こそ、また会おう!」

白い煙の中、加山の気配は消えていった。

「なんで加山はんが煙幕くん持ってんねん!」

げほげほと咳き込みながら、紅蘭が吠える。

「何の騒ぎですの?」
「アイリス? レニ? そこにいるの?」
「煙〜い。また紅蘭さんですか〜?」
「みんな、大丈夫?」
「怪我とかなさっていませんか?」

騒ぎを聞きつけたマリア達五人が紅蘭たちと合流し、ほどなく真実を知るのは時間の問題であった。


華撃団・月組隊長は追い詰められていた。
焦りのためか、汗が頬をつたう。
いつもなら軽いギターが今日に限って重い。
とにかくこの建物から脱出しなくては。
レニと菊乃丞がシミュレーションして自分の居場所を突き止めると、アイリスがテレポーテーションでやってくる。それをなんとか脱出すると、今度はさくら&織姫、マリア&すみれの二組が追いかけてきて、とどめとばかりにフントと紅蘭が発明品などを使って自分の足を止めようとするのだ!

「そこまでするか!」と叫べば。
「そこまでして逃げるか?」との言葉が飛んでくる。

「加山さん。写真のネガさえいただければ私達はこうまでしません!」
「冗談じゃない! 君は友情を差し出せというのか!」
「何を言ってるんです? 私達をだしにして撮った写真もあるんじゃないですの? さっさとお出しなさい!」
「うぐっ!」
「図星ですね! 中尉さんの写真、早く出してくださ〜い。そのほうが貴方の為で〜す」

冷静なマリアが、いつも落ち着いているすみれが、騒ぎが起きるとさも馬鹿にした様な様子で見ているだけの織姫がばたばたと足音を立てて走り回っている。

「さすが月組の指揮官」

 レニが密かに口の中だけで呟いた。
 花組のほとんどが、こうまで作戦を組んで捕まえようとしているのに決定的に彼を捕まえられない。
 戦闘能力や統率能力は劣るが、この素早い身のこなしは大神以上のものを持っている。

「だけど」

 隊長の写真がかかっている以上、僕は負けない。
 一階のロビーで腕を組み、レニはひたすらその瞬間を待つ。

二階では壮絶な戦いが繰り広げられていた。
ごうを煮やしたすみれが掃除用のモップを取り出したのである。

「そこになおりなさい!」

すみれの技が飛ぶ。しかも霊力を込めた物だった!
内心、必死になって加山はそれを避けた。当たったら骨が折れるだけではすまないそれは、案の定、壁をえぐる!!

「すみれ! お家を壊したら駄目だよぅ」
「えぇい!」

アイリスの言葉を彼女は聞いてはいない。
もう一撃、とばかりにモップがうなる。

「てやぁ!」

さくらが竹刀を振るった。こちらも霊力を込めたものだ。それがすみれの霊力がこもった一撃の威力を相殺する。

「加山さん。大人しく写真を渡していてくれたら、こんなに騒ぐことはないんですよ?」

 ぴたり。加山の足が止まった。
 それを見て、花組と菊乃丞の動きも止まる。1mくらい離れて、加山を取り囲む形でだ。
 加山の背中は、一階のロビーへの階段がのびている。

「確かにその通りだ、真宮寺君」
「じゃぁ」
「駄目だ、それだけは」

 沈痛な表情で、加山は黒い手帳を見せた。その分厚いことからかなりの写真がそこに収められているのが判る。

「確かに君達が望む大神の写真がここにある! しっか〜し、君達が決しては見てはならない大神の写真もここにあるんだ!」
「え」
「耐えられん」

 加山はそう言いつつ、黒い手帳を抱きしめた。

「大神の、あ〜んな場面やこ〜んな場面を、君達には見せられない」

大神隊長の、あんな場面や、こんな場面?

ぷつっと、何かの糸が切れた。

「見たいで〜す♪」

顔を真っ赤にした織姫が歓声を上げた。
さくらとすみれはちょっと頬を染めてそれに同意を示し、マリアは軽く額を抑えた。

「い、いつ、そんなものを撮ったんです………!」

アイリスはきょとんとしているし、紅蘭は眼鏡をキランッと輝かせた。
加山は小さくした打ちした。

「逆効果だったか」
「当然じゃないですが」

 菊乃丞が呆れたように、じと目で加山を睨む。
それでなくても大神の私生活の部分をさくら達は知らない。
彼女達が気がついた時には『大神隊長』という確固たる存在がそこにあるのだ。
ちょっとぐらい自分達にも気を休めて欲しい。
というのが彼女達自身、気がついていない本音だろう。
 それがフィルムにされている。と、明言されたら見たいに決まっている。

 ワンワンワンワン!

 彼女達の興奮がうつったのか小さな子犬ははちきれんばかりに元気一杯にぐるぐると走り回った。

「言ったはずだ! これは大神と僕との友情の歴史!!」
「本当に友情か、怪しいものですね」

 菊乃丞はぼそりと呟く。
 加山の踵が階段にかかる。

「そう簡単には見せられないのだ!」

 トオォゥ! のかけ声よろしく、加山はそのまま背中を向けたままトンボを切った。階段の上を器用に、そして軽やかにステップで階段を下りていく。

「すごーーい……って見とれている場合じゃないでーす!」

 織姫の言葉に全員が我に返った。ばたばたと駆け足で階段を下りていく。
帝劇から出られたら、今度はいつやってくるか判らないのだ。少なくとも彼女達とは顔を合わせないようにするだろう。
月組は厳密に言えば米田長官か藤枝副指令に報告する義務はあるが、花組達とはあまり関わらない。

「加山さん!」
「ふははははは。また会おう! 諸君って……なにー!」

 ロビーにレニが立っていた。
 買い物から帰って来たかえでと、それに付き合う形で出ていたカンナまでそこに立っていたのである。

「?」
「カンナさん! 捕まえてください!」

 すみれの切羽詰った声にカンナは無意識に反応していた。
 すなわち、加山が走りのけようとした瞬間、その長い足を出したのである。

「!」

 類まれなるバランス感覚を持つ加山は、とっさに体勢を整えようとしたが今度はレニが足を引っ掛けた。

「わわわわわわわわ!」

 ずってーん! と、勢いよく加山はすっ転ぶ。
黒い手帳が懐から出て床に転がり出る。
 倒れこんだ瞬間に、レニは素早く彼を羽交い絞めにした。

「レニー♪」
「レニ、ようやったで♪」

 紅蘭とアイリスが笑顔で駆けつける。二人を見て、レニはめったに見せない会心の笑みを見せた。

「任務完了」

 わん! と、フントがレニに寄り添う。

「ははーん。このせいね? この騒動は」

 かえでが手帳の中を見ながら、くすりと笑った。

「かえでさん、すみません」

 マリアがすまなさそうに、謝った。
振り返ってみて本来こういう状況になったとき、皆を止めなくてはならないというのに、率先して加山を追いかけ回していることに気がついたのだ。
 そんなマリアを見て、かえでは微笑んだ。

「いいのよ。いい気晴らしにはなったでしょう?」
「気晴らしも何もないで〜す、かえでさん。早く見せてくださ〜い」
「かえでお姉ちゃん。それお兄ちゃんの写真なのぉ」
「そうみたいね、アイリス」

 かえでは中の数枚を見て確認する。

「隊長の写真か? へぇ、欲しいな。あたい」
「そーですよね。それなのに加山さんが…」
「なーにが男の友情や! うちらかて、大神はんとは深い絆で結ばれてんねやで」
「まったく。素直に出しさえすればこんなことにはならなかったというのに、加山さんは何を考えていらっしゃるのか!」
「もう離してもいいの?」
 レニの言葉に苦笑して、かえでは彼を医務室まで運んでやるように指示を出す。まだ騒いでいる花組達に静かにするように言いつけ、手帳を見せてから笑いかけた。
「焼き回しするように言っておくから、皆で遊びましょう♪」
 女の子の歓声が、この日帝劇を支配した。
大神の写真騒動はこれにて一件落着した。
 この後、加山はかえでから私的な行為で月組の物資を無断で使用した罰として、大神の写真の焼きまわしを命じられた。
彼はこともあろうに、月組の一部隊員達に命令してまで大神を隠し撮りしていたのである。

「減俸五ヶ月と、どっちがいいかしらぁ」

 こう言われれば、従うしかない。
 上司からの命令、という圧力も加わったためとも言える。
 花組と菊乃丞は、自分が欲しいと願っていた大神の写真を手に入れられて大変喜び、またその場にいなかった風組と薔薇組もその恩恵を受けられることとなる。
 また、加山が言っていた大神の「あんな場面やこんな場面」の写真は残念ながら、公には花組の目に触れることはなかった。
マリアやカンナはともかくとして、アイリスの教育上よろしくないと判断された写真はネガもろともかえでに没収された。
どんな写真だったかは、今となってはかえでと加山しか判らない。
 また花組達は知らないが、月組の一部隊員達、そして乙女組の一部にこの写真が広く販売されることが藤枝かえでの一存で決められた。
売上は全て花組の維持に回されているとの事。
毎月かなりの売上記録をのばし、財政を潤している。
 大神一郎がこの騒動のことを知るのは、日本に帰国し、帝劇に再び足を踏み入れて、しばらく経ってのこととなるだろう。


 帝都は至って平和である。

2001・04・24UP

これ、本当に悩みました(苦笑)こっちにおくかって。この程度なら友情…? ゆうじょう…?



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