サクラ大戦SS 

平静を装いながら、内心かなり慌てていた。
 親切心から夜の見回りを引き受けたのだが。その時に一番大切なものを落としてしまったらしい。

 一生の不覚。

(誰かに見られでもしたら…)

 何を言われても大丈夫だが、もしそれを他人が「欲しい」と言い出したら! いや、きっと言われるに違いない!

(断じてそれだけは許せん!)

 あれ、は自分だけの心のオアシスである。何人たりともそれを侵す事は許さない。
 上から順に一つずつ丁寧に一部屋、一部屋確認して探していく。時間はかかるが何度も同じ場所を探すよりはましだ。珍しく、気合と気迫が行動であった。

 一方その頃、中庭では。

「きゃは♪ おいで、おいで〜。こっちだよ、フント♪」
「わんわんわんわん」

 アイリスと白い小犬が戯れていた。
 それを優しい瞳で見つめながら笑みを交わし、菜園や花に水をやる紅蘭とレニの姿もあった。

「レーニ♪ 一緒に遊ぼうよ」

 帝都は至って平和である。
 優しい日差しの午後、花組の隊員達が休日を満喫するには充分な日だ。
 親愛なる大神隊長が欧州へ出発してから数日間、火が消えたように花組の全員は落ち込んでいた。特にアイリスは二日間、部屋に閉じこもりっぱなしで最後にはマリアに諭されて出てくるほどだったのだ。
 理性では判っているつもりでも、感情はそうはいかない。

「もう、一週間やなぁ」

 とてつもなく寂しい。花組だけではなく、いまだに地下室に陣取っている薔薇組の連中にしろ風組である事務の二人と売り子達も影のある表情を時折見せる。

「隊長、今頃何してはるんやろ?」
「手紙、書いているかもしれないね」
「そやな。大神はん、あれで結構マメやさかい」

 ふんわりとレニと紅蘭はまた微笑みあう。

「レーニ♪ フントが何かを見つけたみたいなの」
「何を?」
「手帳かなぁ?」
「え?」

 くんくんと白い小犬が黒い手帳らしきものの匂いを嗅いでいる。

「どないしたん、フント?」
「わん!」
「これこれ。見てよ、紅蘭。レニ」

 アイリスの白い両手から、ちょっとはみだすサイズのそれはかなり分厚いもので、中の物が見られないように裏表紙から表紙にかけて釦付きのバンドがしてあるものだった。

「厳重やな〜? 誰のやろ」
「男物だね」

 レニは注意深くそれを受け取ると開けるためにバンドを外した。
 他人の物を見るのには少し抵抗があったが、手帳自体に所有者の名前が見て取れない以上、中を見るしかない。
 誰の物か調べるためには仕方がないだろう。
 中を開けると、そこには…。

「隊長!」

 はにかんだ表情をした大神一郎の写真がそこにあった。
 レニの言葉に思わず紅蘭も覗き込む。
 はにかんで少し照れくさそうな笑みを浮かべた大神一郎が、海軍式の敬礼をしてみせている。視線は勿論真っ正面でカメラ目線。白い海軍の軍服が良く似合っていて、それでいて凛々しい。

「いや〜うち、これ欲しいわぁ」
「お兄ちゃんだ! お兄ちゃんだ!」

 嬉しそうに言うアイリス達をちらりと横目で見て、レニは難しそうな顔をした。
 一体これは誰のだろう?
 物自体は黒くて装飾もない、見るからに男物だ。中庭に落ちていたという事は帝劇関係者に間違いはない。
 花組の中だとして男物を使うとなると機能性を重視して使うマリアだろうか?
 いや、それにしてはおかしい。
 マリア本人は一人ではあまり中庭にこない。
 いつもカンナか織姫と一緒に時々花を見に来るだけのようだし、その時こんな物を持ってここに来る必要はない。そしてそういう話題も彼女から聞いた事がない。
 機能性だけを見ると携帯用に写真を入れる手帳など、今まで聞いた事も見た事もなかったので特別に作らせた可能性も高い。と、するとすみれの可能性も出てくるわけだが。

 レニは無意識にページをめくった。

「またお兄ちゃんだよ、レニ」

今度は花組の隊長服に身を包んだ大神だ。光武・改から出てくるところで疲れてはいるが帝都を守り抜いたという充実感がその笑みから窺い知れる。これはカメラ目線ではなかった。
 どちらかというと隠れて撮影したような感じだ。

「もしかして、これ全部隊長の?」

 分厚いページ全てが大神の写真だろうか? と首をかしげる。

「ほんま、これ誰のやろう」

 うっとりと写真に見とれながら紅蘭がそう言った時。

♪ポロロロ〜ン♪

「とう!」の掛け声よろしく、白い背広にいつものギターを持ってその人物が三人の前に飛び出してきた。

顔色は…なぜだか少し焦っている。

「いやぁ中庭はいいなぁ。清々しい陽気に花の香り」
「加山はん」
「やぁ、花組諸君。僕の手帳を拾ってくれてありがとう」
「えぇぇぇぇっ!」

 三人の声が見事にはもった。

 この手帳の持ち主は誰あろう月組隊長・加山雄一だったからである。




2001・04・24UP
一番古い作品で、一番長い創作ですのでいくつかに分けました。
書いていた当時3はキャラが違う(女の子)と聞いて卒倒しそうになってたかな?
次で(この話の)本当のタイトルが明かされますが…すまん、加山。オイラが悪かった!

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