男には惚れた女が出来たら避けては通れない道がある。
そんな道を、あえて通らずに行こうとすると何かしら後々になって災難が襲ってくるものだ。
一足飛びにしては道を困難なものにするだろうし、順序良くこなした所で居心地が良くなるわけでもない。
時間をかけてゆっくりと道がなだらかになるのを待つか、それともなだらかになるように努力していかなくてはいけない。
それが男の『責任』というものである。
その『責任』の第一歩の一例としてこんな言葉がある。
「お父さん、お嬢さんを僕に下さい」
市井の男が同じ身分の親に対してはこんなところだろう。
これがやれ貴族だの、召喚師の家系だのが加わるととんでもない時間が加わる。
金の問題。
名前の問題。
相手の身分。
その他諸々の手続きが必要になるが、何はともあれ女の身内に自分の意志を伝えるのは必要不可欠である。
それが例え、エルゴの守護者が相手だったとしても。
VS(バーサス)!!
「カイナ。ケイナを俺にくれないかな」
ぱちぱちと焚き火の炎が燃えるのを見ながら。
そしてそれを挟んでフォルテは言い切った。
はっという息を呑む気配と視線を、フォルテは静かに受け止めた。
話の重要な役割を持つ相棒は、今夜は静かに眠っている。
「そ、それは………」
突然のフォルテの言葉に、少なからずも動揺の色を隠せないカイナは自分の姉の方を向いた。
小さな寝息を立てながら、安心しきった顔で眠っている。
目を閉じる。
フォルテの言葉の真の意味はわかっている。
それでなくても彼は姉の恩人だ。
この世界に召喚された時点でかそれとも何かしらの事件に巻き込まれた記憶喪失の姉を保護し、この世界で生活できるように守っていたのは彼だった。
「もしかしたら記憶が戻るかもしれない。だからできれば一緒に旅をしてくれないか?」
そう持ちかけてくれたのも彼だった。
姉自身も少なからず、彼に好意を寄せていることを知っているが、いきなりそんなことを言ってくるとは思ってもいなかった。
「いったい、どういう意味でしょう?」
しらばくれて、カイナはそう言ってみた。
「あー」とか「うー」とかごにょごにょと小さく言ってから決心したように、強い瞳でカイナを貫いた。
「俺、あいつとこの先ずっと生きていきたい」
「……結婚、したいって意味ですか?」
カイナの言葉に、フォルテはがしがしと乱暴に自分の頭をかきむしった。
「うん、まあ、つまりは」
カイナは眉根を寄せた。
通常、巫女は結婚を良しとしない。
巫女とは神に捧げられた乙女なのである。いわば、神の花嫁として神に仕え、その純潔と信仰によって御神力…つまりは召喚能力のような力を得るとされていた。
宗派によっては巫女も結婚を許されているのもあるが、それはまさしく神官のような、やはり神に使えているもの同士のものとなる。
もしも巫女が婚姻する場合は巫女を辞めなければならない。
シルターンにおいての巫女としての定義ではあるが、カイナは幼い頃から叩き込まれているそれを強く意識した。
確かにここは自分達が生まれたシルターンの世界ではない。
しかも姉のケイナはシルターンのことをすっかりと忘れてしまっている。
あんなに男性を寄せ付けようとしなかった姉。
厳格で、しかし優しかった姉は柔らかな理性と柔軟性を持つ姉に変貌している。
それが悪いことなのか良いことなのか判らないが、カイナが最初に戸惑ったのは間違いがない。
ようやくそんな姉も受け入れ、自分のことを思い出して欲しいが、今の姉との関係も悪くない。
そう考え始めていたのに。
この人は私から奪うつもりなのだろうか?
「そのことを、姉に言いました?」
「………………いや、まだだ」
「?」
「一応、あんたはこの世界でたった一人のケイナの身内だ。その身内に黙ったまま、あいつを口説き落としちゃ、その……悪いだろ?」
「……それって、まだ姉様には…………?」
「言ってないし……まだ付き合ってもない。好きだって伝えたこともない」
びっくりしたようにカイナはフォルテを見る。
「けれど、そういうのって普通、お付き合いしてからのお話なんじゃないですか?」
「巫女さんが軽軽しく男と付き合ってもいいっていうわけでもないだろ?」
「ええ……そのとおりです」
「だから我慢してる。いや、してた」
初めて出会ったときには『巫女』という言葉も知らなかった。
だが雰囲気からして神聖なものを感じた。
だからうかつには自分の気持ちを話すことはできないとフォルテは思った。
仲間として、相棒としてならそばにいられることを許される。
笑いあうことができる。軽口を叩けることができる。
だから今まで我慢した。
だが。
「そろそろ、俺の理性も限界なんだな、これが」
静かに言い切る彼に、カイナは困った。
「好きで好きでたまんねえんだわ、こいつのこと」
ケイナの寝顔を見つめる瞳は、男のぎらついた欲望とかそういうのはまったく感じられない。
彼の言い分も気持ちもわかってしまう自分がいて。
彼の言葉に反発したい自分がいて。
カイナは言葉に詰まった。
「だから、こいつをもらってもいいか?」
しばらく黙っていたカイナは、ようやく口を開いた。
「そういうことは、姉様にご自分の想いを話されてからにしてください」
「あ、じゃあ、俺が口説いてもいいんだな?」
「はい、精一杯邪魔させていただきます」
「へ?」
フォルテの気持ちもわかるが、それでも自分の愛する姉を横から奪おうとするのは我慢ならない。
永遠に会えないのだと思っていた人物を、第三者に渡してなるものかと思ってしまう。
「……口説くのはかまわないが、まずお前さんっていう障害を取り除かないと、口説けない。そういうことかな?」
「はい♪」
マジかよ。
フォルテの唇はそう動いた。
ライバルは男でもなく、一番近しい、しかし力ずくにしてももしかしたら負ける可能性もあるエルゴの守護者。
「…………負けねえぜ? 俺」
「私も、全力を尽くします」
とりあえずケイナを巡る戦いは、本人そっちのけでこうして始まることになる。
この勝負の結果は………………また別のお話。
2001・10・26 UP
密かに「Atelier Moon」の里子様に捧げていた創作。
まサモンナイト2。フォルテVSカイナ (消してカップリングであらず)。
フォルテ×ケイナは荊ですか?
オフィシャルなのに荊ですか〜〜〜〜!!!(涙)
ブラウザでお戻りください(えぐえぐ)
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