プレゼント・フォー・ユー




なんだかなあ。

俺様はひどい虚脱感をここ数日味わっていた。

寂しい?

違う。

悲しい?

馬鹿言うな。

何かこう、忘れてはいけないものを無理やり忘れちまったような。

「郷愁の想いという奴ではないのかな?」

「郷愁ねえ」

蒼の派閥のじー様にそう言われて、俺様は想いを巡らせる。

ロサンゼルスの町並み。

俺様の女房。

俺様のガキ。

「それにも関係してるような、関係してねえような」

「君らしくないな」

笑われて、俺様も自嘲気味な笑みを作った。

一言断って、一服吸った。

この世界に来て何がありがたかったってーのは、やっぱり『言葉』と『タバコ』だ。

「あれじゃない? 今月って確かあなたの世界の一大イベントがある日」

「はあ? なんだそりゃ」

「くりすます」

くりすます。

クリスマス。

すとんと、胸の中の何かが落ちて、俺様は一瞬、目を見開いて目の前で茶をすする女を見つめる。

「ミモザ、あんた何でそんなこと知ってる?」

「あたしの友達、忘れたの?」

ああ、違う街にいる日本から召還されたあの女の子のことか。

「年はとりたかねぇよなあ」

ぎゅっ。

指に力をこめて灰皿にタバコを押し付けた。

「あら、どこ行くの?」

「散歩だ、散歩」

俺様はそう言うと、ギブソンとミモザの家から出て行った。

「そうか…もうそんな時期か」

この世界に召還されてから、もう何ヶ月すごしたと思ってるんだ、俺様は。

自分で自分をあざ笑った。

毎年毎年この時期になると、はしゃぎすぎたバカどもが事件を起こしては俺様たちを忙しくさせた。

今年こそはクリスマスを一緒に祝おう、なんていう苦労のし甲斐のある約束を何度させられか。

女房に泣かれて、ガキにせがまれて。

「プレゼント買いに走らされたっけな」

言葉に出して、また笑った。

それを忘れちまっていたのだ。

足は勝手に商店街の方に向いた。

買ってどうする。

渡せる術がないくせに。

そんなことは、わかっちゃいた。

わかっちゃいたんだ。

「けど、な」

商店街で買ったのは、あいつが喜びそうなペンダントと指輪。

ガキには、時計を買った。

デジタルなもんは当然、こっちの世界にはありはしねえが。

今年は渡せもしねえプレゼントを、俺は抱えてまた歩いた。

酒を飲む気分でもない。

歩く。

歩く。

さすがに疲れて公園に座ると、もう空には星が瞬いていた。

懐に入れていたタバコを取り出す。

火をつける。

目が空に向かった。

手元には今はまだ渡せないプレゼント。

そう、いまはまだ。




(はぐれになった召還獣は元の世界には戻れない)

「そんなの俺様の知ったことかい」

必ず帰る。

そしてこのプレゼントを俺様の家族に。

俺が吐き出す白い煙の向こうで、星が一筋流れて落ちた。



「メリークリスマス」

俺様の小さな呟きを、誰も聞いてはいなかった。

















と、思ったが。

どうやらケーキ屋の姉ちゃんにしっかりばれていたらしい。

後日、他の連中とバカ騒ぎすることに、このときの俺様は小指の先ほども思っちゃあいなかった。

まったくこっちの世界の連中と来たら、少しもセンチメンタルに浸らせてくれねえと来たもんだ。

まあ、それが俺様にとっては唯一のクリスマスプレゼントになったわけだが。

…嬉しいような、情けないような…。

これも俺様の家族への一つの土産話という形の、サンタクロースからのクリスマスプレゼントなのかもしれない。


END




2001・12・25 UP

「Atelier Moon」の里子様に捧げさせていただいたクリスマス創作。

本当は甘いものを作ろうかと思ったんですが、急に出てきたんですよ。

レナードの旦那が。(笑)

よって彼にしました。せつな系でGO!


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