変わらない『空』
気がついて彼を見ると、いつも空を見上げていた。
「バトル・オールオーバー! バトル・オールオーバー!! ウイナー・チームブリッツ!!!」
ジャッジマンの判定を聞くと、ほっとしたようにレジーナとジャックは顔を見合わせて微笑を交わした。
数回目の時空転移によって来たこの時代、野性ゾイドはいなくなり、全てのゾイドは人間の手によって生み出され、あるいは管理を受けていた。
そんな中、ゾイド乗りは『ゾイドウォリアー』と名前を変えて世界に対応していた。
バトルフィールドという場所を作り上げ、一定のルールの中で戦うのだ。
最初それを聞いたときにはお遊びにしか聞こえなかったのだが、今では彼らの誇りとも言うべきものが判るようになってきている。
所詮は命のやり取りをしないスポーツなのかもしれないが、彼らは縛られた規則内でいかにゾイドを巧みに操れるかを競っていた。
自分の愛機のポテンシャルをどれだけ高めて、戦えるか。
それがゾイドバトルの魅力というのかもしれない。
『皆さん、お疲れ様でした』
『やるじゃないか、ジャック。レジーナ。アトレー』
通信が開いて、トロス博士が満面の笑みをこぼしている。
その隣には、今回のバトルには不参加という形になったジェミーという少年が手を振っていた。
この時代に来たとき、彼らのバトルを邪魔してしまったのが縁で、チームにエントリーさせてもらった彼らは一様にしていい人間だった。
「博士の整備のおかげですよ」
アトレーと呼ばれた少年は笑いながら博士達に答えている。
彼の名前はアトレー=アーカディア。
この時代ではない。遥かな過去に存在する小さな国《アーカディア》の王位継承者である。
「アトレー…ここにいたの?」
レジーナは、いまだに外にいる自分の主君となるべき少年に声をかける。
三獣士。
代々、王家につかえる三人の従者。
一人は共和国、一人は帝国から選ばれてそれぞれの国の教育を受けさせる。
そして最後の一人はアーカディアの歴史を教える人間が選ばれる。
レジーナは古代ゾイド人の血を引く少女であり、三獣士の一人でもあった。
初めて彼に会ったのはそんなに昔のことではない。
(でも最初に出会ったときは…すごくやんちゃな子供、だったのに)
王子という自覚があまりない少年は、時間さえあればゾイドを眺めたり、城を抜け出して町で子供達と遊んだりしていた。
やがて一国を、そしてアーカディアの運命と重荷を背負うということ知らずに。
(だけど、今は違う)
皇帝軍と名乗る兵士達に扇動され、アーカディアは陥落した。
国王、王妃。
そして数十人の家来達がとらわれの身になっている。
「レジーナ?」
漆黒の瞳が彼女を見ていた。
慌ててレジーナは要件を口にする。
「トロス博士が、ライガーの整備をしたいんだって」
「うん。でももうちょっと」
そう言って少年王子は、空を見上げる。
かつて空と同じ色をしていたゾイド…シールドライガーMK2のコクピットの上に座っている少年の表情は、もう見えない。
仕方なく、レジーナも空を見上げた。
すがすがしいまでに蒼く澄み切った空。
「僕達の世界の空も、同じだったよね」
「え?」
「空の色だよ」
「ええ、そうね」
「バンの時代もそうだった」
「…」
いつもなら先読みできるアトレーの考えがわからずに、レジーナは内心驚きながらも黙って彼の言葉を静かに聞いていた。
「時々思うんだ。国が滅んでも、滅ぼされなくても、この空のように本当は何一つ変わらないんじゃないかって」
「アトレー?!」
「バンの時代も僕たちの時代も、そしてこの時代においても人の本質は変わってない。相変わらず、ゾイドを道具扱いしている人間が多いし」
それに反応するかのように、アトレーの足場になっているシールドライガーMK2は声をあげた。
金属生命体特有の唸り声に、研究所になっているトロス・ホームの中に収容されているレジーナたちのゾイドも声を出す。
それに驚き。
レジーナは自分の主君を見つめなおした。
感受性の高い少年の心の声を、ゾイド達はすんなりと受け取り始めている。
勉強不足だからと、彼にずっともたせている、ゾイドコマンダー(思考をゾイドに伝える装置)が影響を及ぼしているがこれほどまで成長しているとは思っていなかった。
「ああ…でもだからっていって全部を全部投げ出そうとか思ってはいないよ」
大人びた表情になった主君が自分を見返してくる。
「父上や母上、それにとらわれた皆を救わなきゃ」
圧倒的な力とゾイドで自分達を襲ってくる皇帝軍の四天王たち。
負けられない、というようにシールドライガーが一声ほえた。
グルルアアアア!!!!
「あはは…うん、そうだね。王家はともかく」
少年の瞳に決意の炎が宿るのを、彼女は知った。
「人とゾイドを救おう。そしてこの変わらない空を皆で見るんだ」
「はい、王子」
レジーナは心の中で彼に膝をおった。
彼は王の道を歩みだしたのかもしれない。
ぼんやりと彼女はそう考えていた。
二人で、変わらない青空を見上げながら。
アトレー=アーカディア。
後に伝説のゾイド、トリニティ・ライガーのゾイド乗りとして、そして圧倒的武力を誇る皇帝軍をやぶり、小国アーカディアを立て直した少年王として深く人々から愛される人物として歴史に名を刻む事となる。
END
2002・04・03 UP
10歳の少年の肩にかかった世界。
よくよく考えると暗くなりがちなゲームだった気が(苦笑)。
個人的に主人公はバン(アニメ主人公)やビット(/ZEROの主人公)と同じようなライガー使いです。
…。
つーか、訳わかんない話になりました(ざんげ)
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