小ネタ/出だし

「Fate→LOG・HORIZON」



―――閉じよ満たせ閉じよ満たせ閉じよ満たせ閉じよ満たせ閉じよ満たせ。――

恐らく周囲から聞こえてくるその声は、フィルターがかかったように途切れ途切れに聞こえてくる。
最近になって大地人の妖術師や付与術師がともに受けた<神託>によってもたらされた魔法陣の中央に自分がいることは解っている。
その<神託>がいったいどんな神様とやらから受けたことなど聞いてはいないが、自分の≪死≫という行為が大地人達の何かしら為になるのであれば否とは言えない。
この声は十数人のその術者たちの詠唱だ。
最初は大勢の声であったのに、最後になる頃には一人の声にしか聞こえない。
いつもとは違う…否。これが本当の「死」という感覚だと思い出し、どうして己がそれを知っているのを理解する。
走馬灯のように思い出されるのはこの世界の酷似したゲームをしていた時の記憶と、そしてはるかな以前―元の現代社会ではなく、前世ともいうべき魂の記憶。
(思えば、きっと、最初から覚えていたんだろうなぁ)
パソコンおたくとも取れる父親の影響から幼いころからいじることを許されたそれで始めたMMORPG。
月額制のそれは自分の小遣いから費用を捻出できた。
バイトのできない年代であれば 最初のアカウントで作成したキャラクターは、メインもサブも今から思えば前世の記憶に登場する親友に酷似していた。
赤毛のヒューマンの男性。弓使いでサブ職業は職人。お人好しで頼まれたことはあまり嫌とは言えない正義感のある少年を演技ロールしていた。
サブアカウントで作成したのは付与魔術師。サブ職業は錬金術師。こちらはどちらかと言うとプライドが高い分、高みに上がるための努力を惜しまない。規律を守り、不公平を嫌う演技ロールしていた。
髪の色は紫でやはりヒューマンだった。
どの職業も最大値のLv90まで上げたので、今はもう使用していない。
この身体も新しいアカウントで作成した者だった。
ゲームがまさに現実になった今、地道にレベル上げをしていたのだが。
(あぁ、呼吸が苦しくなってきたな)
ぜぇ、と息を吐く。
もう詠唱の声がまともに聞こえない。
膨大な魔力とも呼ぶべき何かしらの見えない力に圧迫されている。
それでも楽観視している自分に、心のどこかで嗤った。
儀式の代償に命―HPとMPを奪われてしまうが、冒険者プレイヤーは大神殿で甦る。
気楽な≪死≫。何度も受けても生き返るはずの≪死≫。
それを自分は何度も何度も経験して理解していた。
おかげで現世ともいうべき、元の世界の記憶がひどく曖昧になって前世らしき魂の記憶が噴き出してきているが。
(≪死≫には慣れているだろう。痛みにも)
この世界だけではなく、自分の中に出現した前世の記憶に鮮烈に焼き付いているのは己が死ぬ場面だ。
脳内にその映像が展開していく。
白いベットの上で半死人だった自分が誰かに語りかけて、そうして死んでしまった記憶。
好きな女の子と大事な親友が命がけで戦ってるなら、彼らを守るためならと進んで命を落としてしまった自分の姿。
不思議なことにいろんな場所で、しかし確実に最後は殺される自分がいた。
0と1で構成された青い電子の海で溶けた自分を追いかけて来た奴の姿を拒絶するように瞼を落とした。
どれも知っているはずなのに、けれど知らないという感覚が溶けて消える。


―――抑止の輪より来たれ、――よ!!!!―――

強い衝撃が降り注ぐ。
不思議と苦しさが抜けていく。
呼吸が楽になると同時に、自分以外の周囲に赤い何かと光の奔流が生まれた。
あまりの強い光に瞼を閉じる。
急激な体力HPの低下に身体の力が抜けていく。
何かが自分の体を通り、何かを奪っていく感覚。
何かが自分を変えていく感覚。
それだけのことが起きたが、≪死≫は訪れなかった。
「…ようやく」
振り絞るようなその声は、確かに震えていた。
大きな手が自分を支えているのが解る。
「捕まえたぞ…!」
ゆっくりと瞼を押し上げて、声の主を見つめ、そして己もかすれた声で返してしまった。
「なん…でさ…」
その存在は、先ほどの走馬灯に出現した記憶の住人だったからだ。





それはこの世界における<大災害>から三週間後。
アキバよりも遠く離れた場所で起こった<森羅変転ワールド・フラクション>の中心での≪再会≫だった。








Fate/HORIZONE はじまります


Page Top
SEO [PR] !uO z[y[WJ Cu