即席大司祭様は、引きこもりたい

こんなはずじゃなかったんだと、叫びたい




思えば遠くまできたもんだなぁ。
たんなる一般人で、まぁしいて言うならライトなゲーマーだったんだが? という言葉を、私…は飲み込む。
現実逃避をしてもどこにも逃げ場はない。
周囲の人間達のことを配慮しつつ、身の安全を確保するために護衛だって雇ってきているのだから、逃げるつもりは毛頭ないが。
いくら、人生においてやる気のない、どこかサイコパスな私(自覚は多少ある)でも空気は読む。
今から自衛隊の特殊部隊、関東だけではあるが民間に出現した、というか請われるまま私が作ってしまった戦闘集団『冒険者』達との共同作戦が始まるのだ。
迷彩服の上から近代的な装備の方かにナイフや剣、あるいは杖を持っている人の数が多い。
私もハンマーの意匠―ブラキ神のシンボルだ。―が入った服装に騎士のベルト、腰には投げ斧が一振り刺さっている。
一応、容姿を深く知られるのは勘弁だった…たとえ、ご近所や知人にそうと知られているけれど、一応、配信者の撮影では顔も隠したしボイスチェンジャーで声も変えた。…のでフードを深くかぶってマスクをしている。
切実に帰りたい。
寝たい。
だが、許されない。
良い大人が何を言ってるんだよ。と、言われそうだが、本当、待ってるだけで疲れた。
大人数の作戦すると、毎回こうだ。
何歳になっても、子供扱いしてくれる両親がいないおかげで、と呼んでくれる人はここにはいな…「!」くもなかったな。

「ウェーイ」と片手をあげると、父経由で知り合った動画配信者の三人組やその友人、知人が一塊に集まっているのが見えた。
「ウェーイ」と片手をあげてくれる。
弟のような年代の彼ら。
…あの子らが見てると、休めないんだよなぁ。
いや、あの子ら以外も見てるからこそ、なんだが。
結構、有名どころの動画配信者である彼らは自分たちの生活を守るために積極的に『冒険者』になり、その様子を自分たちの動画としてサイトにUPした。
友人知人が全国各地にいるので、そんな友人達や家族を守るために会社も辞め、配信と国からの補助金、そしてこうした冒険活動で金銭を得るようになったらしい。
まぁ、私も人の事、言えないが。
今回の作戦は「日本人はこんなに頑張ってるんだよ。」と世界に配信するために呼ばれたそうで、もしかしたらもうカメラを回しているかもしれない。
…現代兵器が全く効かないのに、映像を映したり音声を流したり録音する機器は使えるから、中の映像の記録も兼ねるんだそうだが。
表情が分らないように、フード付きの服装で良かった。
近寄らないでおこう。
すっかり私付になってしまった、若い自衛隊員から報告を受けつつ、自分たちの装備を確認している。
東京、スカイツリーを中心として生まれてしまった巨大なダンジョン。
その攻略だ。
地上の入口は東西南北に口を開けている。
そして、最上階らしい上からも口が開いている。
上下から同時攻略しないと次の階層に行けないとか、そんな感じのダンジョンじゃね? くそが。
呪われた島でも大陸の方でも、そんなギミック付きのダンジョンってあったけ? みたいなの、普通に出現するしな。
常に最悪のことを考えて行動していかなくては。
そんな私達の感想を何枚ものオブラートに包んで、丁寧な言葉に直した報告を自衛隊のお偉いさんにあげて今回の作戦が開始された。
最上階からの攻略はできないんじゃない? と思われるだろうが、つい先日に最上階から沸いて出てきた空飛ぶモンスター倒し済ではある。
一応、もうモンスターは沸いて出てきていないので、あとは最上階に小さな拠点を作ってあり、そこに冒険者を運べばよい状態だ。
空への移動の手段は確保もしている。
…今回のこの大掛かりな攻略に関しては、言い出しっぺの法則らしいので、私も参加しないといけないらしい。
一日では決して終わらないので当然宿泊。
なのでダンジョン近くの安全確保と中に入る自衛隊や冒険者たちのバックアップをするために、ここいらにちゃんと休める拠点をつくるのだ。
当然、他のダンジョンがあふれて出てきている妖魔やモンスター達も跋扈している。

とほほ…。
引きこもりたい。
仕事なんかせずに、自分の研究だけで生きていきたわー。

「大司祭様。」
「はい。」

反射的にそう返事をする。
いつかテレビ画面の向こう側でしか見たことがなかった政治家さんの顔が見え隠れした。
うがぁ、くっそ面倒くさい。

こんなはずじゃなかった。
さっさと引きこもりたい。

私はマスクとフード越しで、表情が見られないことを再度安心しながらそちらの方向に顔を向けた。

本当、どうしてこうなった。

私は脳裏に、モンスターだらけになった最初の日のことを思い返しながら、お偉いさんに向き直った。


Page Top
SEO [PR] !uO z[y[WJ Cu