終末世界でダイスを転がせ!

キャラクターメイキング




最初のきっかけはその作品が【30周年】だというサイトを見てからだ。

中古ショップで買ったファンタジー作品が、アニメ化したりしてその原作を買いあさったことを思い出した私は不思議な夢を見た。
自分がドワーフの女性になって、その島で生活しているものだった。
名前は
くしくも私のゲームの時に使う名前と同じだった。
少し気になって、アニメを借りるところから始めてのめりこんだ。
新装版よりも出ていた小説、 呪われた島―【ロードス島戦記】。
その前身である(けれど、後に出た)【伝説】。
MMOの方も覗いてみたが、あいにくその時は追加サーバー待ちだったので断念。
テーブルトークRPGのルールブックが一新された、というので前のバージョンを探しに古本屋をめぐるのをやめて電子版に手を出した。
そして【彼女】を作成したのが運の尽き。
気が付いたら遊んでみたくて、オンラインセッションできる無料サイトを探して遊びつくした。
嬉しかったのは疎遠になった幼馴染とか、他のゲームも一緒にできるようなネット友達が増えたこと。
殺意が高いゲームマスター(物語の進行役のこと)だったが、キャンペーンという長い話をちゃんと固定のパーティで何回か一緒に遊べたこと。
どうも聞くに彼女たちも、彼、彼女の姿を夢で見たことがあったらしい。
奇妙な一致にその時は「不思議なこともあるなぁ」の一言でお互い済ませたてしまったのは、今から思えばなんでだろうと思う。

そんな偶然、ありはしないのに。

夢の中の【彼女】と連動するような冒険を一つ一つそれらしく行動したら、どんどん回を重ねるごとにLvも上がっていった。
話の流れで出てきた、リスに化けた妖精のプーカをそうだと知っていたのは、夢で知った私だけ。
ゲームマスターもまさか私がそう知っていたなんで思いも知らないし、私が夢の通りにリスを癒して森に助言をして返したらその存在をゲーム中ではサブとして使ってもいいとしてくれた。
夢の中でも、ゲームの中でも二人一組で行動していてほっこりするシーンはそのままゲームで演じてみたりもした。

Lv6で上級職の斥候になった時に、多少嫌な予感はした。

きな臭い魔神戦争、百の英雄、原作小説でも過酷なのはわかった戦乱時代。
夢の中の彼女も、変わり種はそれでも一族の仲間の為に住処の村から出て戦っていた。
彼女の設定上は後の原作小説に出てくるドワーフ、ギムの実姉。
六英雄の内の、大地母神の娘と呼ばれた人間の司祭・ニースの姉のような母のようなそんな存在。
避難民の一部を村に移送中に夢の中のは魔神に殺害されてしまった。

嫌な予感はピークに達したが、それを押し殺してゲームに参加し…そして案の定、ゲーム上かつてない大惨事をゲームマスターとプレイヤーの間で引き起こしてしまった。
パーティーメンバー中、三人が魔神の奇襲(ダークエルフ込み)によって死亡。
自分が出してしまった判定結果のダイスの目を何度も確認した。
10面ダイス2つは「99」を示していて、これはゲーム的に大失敗ファンブルを示す。
妖精プーカは悲しみのあまりに暴走した描写が、殺意の高いゲームマスターの口からこぼれはじめる。
そうだよなぁ、家族同然の彼ならそうする。
その後のプーカを操作して、魔神の先兵のようなもの一体は殺害したが、プーカ自体もその後ダイス運は振るわず悲しみにくれて の遺体にすがりついて泣くだけになってしまった。
残った三人がなんとか蘇生費用を工面できたのは一人分のみ。
借金してでも蘇生させたい、と申し入れたが世の中そんなに甘くない。
判定で神殿側からOKが出るのか出ないのかの判定処理が行われて―――そこで、ゲームは終了した。

「判定で三人が連続ファンブル出すとは思わないし、私に至っては三回連続失敗だしなぁ…。」

これは、もう、しょうがない。

三人の内の他二人はやはり、というか想像通り幼馴染と、一番仲良しのプレイヤーだった。
ダイスの女神サイコロ運がどうあがいても蘇生を許してくれなかったのだから仕方ないよね。と三人で話している最中に私たち以外のプレイヤーからは多少の文句が上がった。
、 普段通りの殺意の高いゲームマスターでも思うところあったようだし、私たちも自分のダイス運まで人に押し付けるのもなんなので 取り急ぎ即興ではあるが三人の遺言やら彼、彼女たちの死によって保護していた少年魔術師が覚醒した云々の描写を入れて他のプレイヤーたちを泣かしてみた。
私たちがするこのオンラインセッションの卓(という)を囲む面子は想像力豊かで感情移入してくれるから好きだ。
キャンペーンだったので、私達はまったく別のキャラクターで合流することになった。
ただし、設定上は死んでしまった三人の関係者で作るようにと言われた。
プーカという精霊魔法の使い手は今後は三人の墓守で忙しいので参戦しない。
ただ、今後のメンバーの救済措置で全プレイヤーをLv10に引き上げ、魔法の武器、防具、道具の中から二つ追加OK。
NPCとして彼女たちが保護していた少年奴隷が覚醒し、Lv5程度の魔術師として参戦。
今後は迷宮の最寄りの拠点を中心とした冒険に移行するので、そのルール内にある「傭兵チーム」運用も視野に入れたものとすることが事前情報で得られた。
ようは自分たち以外の別の冒険者を金で雇う形で行動させることが可能になった、とのこと。
「三人はLv分の傭兵を運用管理できることにするね。」と大盤振る舞い。
条件は自分のLv以下のNPCの雇用が資金なしで運用可能になった。

「ということは、もっと殺意の高い何かしらのミッションが来るってことかな?」

その言葉にゲームマスターは乾いた笑いを立てたのでパーティメンバーは戦慄していた。


これは、そんな日の夜に見ている夢だ。――そのはずだ。


夢の中で机に向かって6面ダイスを三つ転がしている自分にはっとするけれど、身体はキャラクターシートに数字を入れていた。
名前、種族、年齢は空欄。
周囲にいるのは女ドワーフ……ドワーフとしては大変魅力的な容姿の持ち主だが人間的に見れば少し筋肉のついた子供に見えるだけ。ただ旧ロードス島戦記RPGの設定そのままだったら髭も生やしていただろう。……と小さな半透明のグラスランナーにみえる妖精プーカがいる。
あぁ、夢で死んでゲーム上でも死なせちゃったからだな、と思った。

「次はどうしようか。」

職業の欄でペン先が止まっている。

――魔法が使えるのがいいんじゃないか。【そっち】だと何かしらを直接手にかけるのは気分が悪いことなんだろう?

の言葉に、私の身体がうん、と頷く。
【そっち】というのに妙な引っ掛かりを覚えるが口にはできない。
言っている意味が解らないが、自分が使うとしたらと考えた。

精霊魔法?
いいかもなぁ。プーカは墓守になからもうキャラクターとしては使用できない。
原作小説に出てくるハイエルフもこの魔法を使うのだ。
一考の価値はある。

古代語魔法?
知的な感じがして憧れるけれど、どうしてもウォートの姿を思い出す。
娘のように、妹のように思っているニースといい感じの青年魔術師だ。
将来的にはくっつかないことは原作を知っている私はわかってるので少し世話を焼いてやりたい気もあるが、【彼女】からして「うちの娘たぶらかしやがって。」という相反する気持ちが沸くのだ。
あぁ、魔法には関係ないけれど。
これじゃないな感もある。
頭が賢いのは良いことだけど知的ことよりも力イズパワーな人間なので。
それに少年魔術師がいるんだっ
神聖魔法?
が信仰を捧げていた鍛冶神ブラキなら良い。
覚える神聖魔法の中の一つは、生産系にも大変便利な魔法ではあるがあのロードスではめったに見ない独特な戦闘技術を使わなくては生かせない。
またゲームマスターを泣かせる可能性も出てきたが。
そう考えたところでプーカが私の目の前に来た。
ゲーム上ではLv7で精霊魔法Lv2まで使ってくれる小動物の姿をずっとしていた彼。 …確かに、新しくキャラクターを作るのは簡単だけど。
夢の光景とゲーム内で自分が演じた彼女達を見つめる。

「君たちを忘れたくないなぁ。」

も、プーカもその存在を忘れたくない。
呪われた島のあの時代では、きっとどこにでもあった悲劇でしかなくて、ゲーム内の後々英雄と言われるだろう彼女や、弟の中にはいるだろうが原作小説には当然、いなくて。

――【アタシ】としちゃあ、神聖魔法を押すんだがね。
  それに、アタシ達はいつだって一緒さ。【アタシ】は【私】でもあるんだからね。
「【アタシ】が使いたいの?」
――あぁ、ぶっちゃけて言えば、使いたい。神の声をずっと聞いてみたいと思ってた。そうだろ?
「そうだったねぇ。」

私はキャラクターシートの職業の欄に【司祭】を記入した。
【神官戦士】も考えたけれど、の言葉を素直に受け取ったらこうなった。

――勧めといてなんだけどいいのかい?
「だって聴きたいんでしょう? 私も聞いてみたいし。」

戦闘技術は今の自分の能力で限りなく、 を連想できるようなものを頭に入れておく。
まだまだ初期段階だけど、成長はそれを選択できるように。
身長ほどではないけれどそこそこに使いこなれた斧と弓が彼女の武器だが、人間の私には重すぎる。
せいぜい短剣系と弓を含めた飛び道具、特に弓がメインになるかな。
あぁ、でも神聖魔法を考えたら武器なしの近接戦闘が生きる場合もあるのか。
特技系を考えないと。
初期特技とそこから連想した特技、そして上級職なのでそこから得られる特技を選択していく。
と、いうか勝手にプーカがペンを取ると文字を知っているよう書きだした。
キャラクターの名前の欄に、しっかりと【私】の名前を書くと、笑いながらの体の中に消えていく。

――【私】が【アタシ】である限り、大丈夫さ。
  世界に意思を示し、奇跡を起こしな。【アタシ】なら、そうする。
なんと言って返していいかわからない。
私はただ、頷くだけしかできない。
から差し出された手を取った。
不思議なことに握手している感触が、夢なのにある。

――そっちも大変になるが、まぁ頑張りな、【私】。

いろいろと疑問は浮かぶが全て飲み込んで、言葉にした。
「ありがとう【アタシ】。」
そういいあった時だ。

幸、あれ。我が子よ

そんな声が聞こえたかと思うと何かしらが吸い上げられた感覚が私を襲い……… そうして花房 は、その記憶を粉微塵に吹き飛ばしてから目を覚ました。



「は?」
【▷花房  Lv1 司祭(ブラキ)】
まるでゲームのステータス表示のような画面を寝起きに見ることになるとは思わなかった。


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