作・リア様



ハッ、ハッ、ハッ。

走っているだけで息が切れるなんて、一体何年ぶりだろう。



サスケが消え、ナルトが自来也様と旅に出た後すぐに、俺、はたけカカシは暗部に戻った。
ま、実はもともと辞めてないんだーよね。皆が知らないだけで。

で。本格的に復帰した初任務が、木の葉の里から往復一月以上かかるここ、月の国の王族暗殺だった。
月の国の王族達はまさしく暴君と言うに相応しい野郎達で、自分達が良ければ民はどーでもいーなんて感じで。
飢饉で飢えてる国民を見捨て、城で贅沢三昧。かつ、見目麗しい人間は男女問わず無理矢理囲い、反抗した奴は奴隷として売り飛ばし、老人は役に立たないからと姥捨山にて野垂れ死にさせているとか。


はい、即死決定。


人手不足らしく、一人でやれとの暖かいお言葉を綱手様、いや、五代目火影様から賜った。

「…あの。俺久々の現場なんですがー」
「ん?一人が嫌ならガイなら」
「イエダイジョウブデスヒトリデヤラセテクダサイ」

ガイは、まあ腕も立つ。頭も回るし、頼りになる。人間的にも悪い奴じゃないし、一応呑んだりもする、所謂ダチだ。

だけど。

約二月あの熱苦しさを相手し続けるのは俺にはムリデス。(涙)




「うちの、情報部に、帰ったら、文句、言わなきゃなぁ」

…帰れたら、か。

俺は、感覚の無くなってきた左腕で、出血の止まらない左腹を押さえ付けた。





忍者はいない。
軍はあるが脱走者が続出している為役立たず。
うちの情報部からそんなデータを貰っていた。
まぁだから綱手様も俺一人で充分だと思ったんだろうし、事実俺も下手すりゃ中忍でもイケルんじゃないかと思った。

所が。
着いて忍び込んだら出るわ出るわ忍者の嵐。

投降を呼び掛けたんだか案の定無意味で。

くそっ、と舌打ちしつつ、出来る限り急所を外して動きを止める。
無意味なコロシは、ねぇ。

何とか100人位いた忍者達を全員行動不能にして城の外に放り出した時には、俺の左腕は使いものにならなくなっていた。
いやー流石にうちの上忍クラス一気に10人はキツイでしょ。もー写輪眼使いまくりました。
左一本で済んだ自分をちょっと誉めてやりたい。

まぁ、それで王族さん達をさくさく殺して。使用人さん達に金銀財宝全部早く運び出し、早く城から離れるよう指示して。
最後の一人。

サクラを黒髪にして、ちょっと大きくした感じの、お姫様だけが残った。

任務は『皆殺し』。
とゆー事は、この子も殺らなきゃならない。

うわぁ。どーしよ。

今までなら、何のためらいもなく殺れた。
でも、あの子達と過ごした時間が確実に俺を変えた。

あー。
どーしよ。
どうしてもサクラがかぶる。

「…殺さないのか?」

いきなり声をかけられたので死ぬほど驚いた。

強い光を放つ漆黒の瞳。
お揃いの色をした、背の半分までの長く美しい黒髪。
鈴を鳴らしてるような声。

そんな場合じゃないと判ってるけど、綺麗だと思った。

「…逃げなさい」

気が付くと、俺はそんな言葉を放っていた。

お姫様は目を見開いた。
そりゃそーだろう、今まさに目の前で家族皆殺しにした男がそんな事言ったら。

「…そうか、殺してはくれないか」

お姫様は呟くと、いきなり懐から短刀を取り出し、自分に突き立てようとした。

「何するんだ!」
「放せ!私は生きていてはいけないんだ!」
普通なら易々と取り上げられるんだが、血を流し過ぎあーんど右手一本の為なかなか取り上げられない。

「何で死にたがる!」
「止められなかった!私に力がなかったから!もっと、もっと私に力があれば!」

一瞬、サスケを止められなかったと泣いたサクラの顔が浮かんで、動きが鈍った。
で。

「ぐっ…!」
「…え!?」

奪い合っていた短刀の切っ先が、調度死角にあたる左脇腹に深々と刺さった。

お姫様の動きが止まる。

「あ、あ、あ」
「大丈夫、だーよ。」

本当は全然大丈夫じゃなかったけど、それでもこの顔に泣かれたくない。
俺はお姫様の頭を撫でた。


「す、済まない、私は」
「大丈夫だーよ。わざとじゃないし」

まずい。
この深さは、多分致命的。
でも。
この子の前で死にたくない。

「…名前」
「え?」
「名前、教えてくれる?」
「…
ちゃんか。可愛い名前だーね。いーかい、これから俺が言う事を良く聞いて。」

俺はちゃんに、出来るだけ地味な着物に着替えるよう指示し、ちゃんの着ていた着物をずたずたに引き裂いた。

「ごめーんね、ちょっとだけ切るよ」

謝って、美しい黒髪を一房だけ切り、短く刻んで着物に振り掛ける。
そして身代わりの術の要領でちゃんの身代わり死体を作りあげた。

「これで、よし。」

最後の仕上げに取り掛かる前に、ちゃんにその辺の宝石や高い着物を包むよう指示した。

「どうするんだ?これ」
「売り飛ばしてちゃんの当面の生活資金にするに決まってるでしょーが。」
「なっ…!?」

ちゃん。多分、今死んだ方が楽なんだ、君的には。でも俺は君に死んで欲しくない。」
「…どう、して?」
「…君とね、似た子を、教えてたんだ」
「先生、だった?」
「そ。忍者のね。」

サクラ。
ナルト。
サスケ。

俺は、お前達を守れなかった。
だから。
せめてこの子は。

「苦しいと思う。肉親全てを奪った俺が言えた義理じゃないけど。だけど君なら大丈夫だと思う。」

負けないで。

俺の言葉にちゃんは絶句した。

「なぜ、貴方は・・・」
「自分でもよくわかんな〜いんだな、これが。でもね。殺したくないし死んで欲しくない。」

依頼した人には怒られるかもしれないから、証拠はきちんと消さないと。

そう呟くと。

「・・・依頼したのは私だ」
ちゃんが凄い言葉を吐いた。

「うそん」
「嘘じゃない。これ以上、狂っていく皆を見たくなかった。民を、友を守りたかった。だから依頼した。」


本当は自分の手で殺すのが筋だろうが、自分にはその技量がない。だから自分を含めた皆を殺して貰う事にした。
民を苦しめる政は、正されなくてはならない。それが王族の責任だから。
彼女はそういって微笑んだ。

・・・出会ったのがこんな場所じゃなきゃ口説いたんだけどなぁ。いやマジで。

良い女だ、ちゃん。


「ごめーんね?望みどおりにしてあげられなくて。」
「いや。私が安易な考えで死を望んだのが間違いだったのだろう。これからは、王族の立場ではなく、一人の人間として影からこの国を立て直して行こうと思う。」

いやマジで良い女だ。どうしよう連れ帰りたい。

でも、ちゃんは俺一人が独占しちゃいけないんだろうなぁ。

ちゃん。これからこの城に火を放つ。ちゃんが生きている証拠を残せないからね。取り合えず忍者達は全員外に放り出したし、使用人達に金銀財宝は一切合財運び出させた。この国を再建するのには十分だと思うよ。」

「な・・・!?忍者達も殺さなかったのか、貴方は!」
「怪我はしてるけどね。・・・大事な物を守る為に必死になってる方々を殺せないでしょーが。」

大方、人質がいるんでしょ?

「気付いていたのか・・・」
「地下牢も開放してきたよ。もうこの城にいるのは俺とちゃんだけ。」

これも置いて行かないとね。

俺は、腹に刺さったままの短刀を抜いた。持ち去る訳にはいかない。
血が吹き出そうになるのを、腹筋を閉めて防ぐ。短刀の血を懐紙で拭って痕跡を消すと、ちゃんの身代わり死体に突き立てた。うう、違うと判っててもやーな感じ。

その辺にあった白帯で、腹をぐるぐると押さえると、俺はちゃんを城から出した。

「うちの里につなぎを頼んだ人がいるでしょ?その人に頼めば当面の暮らし位は世話してくれる筈だから、尋ねてみて。」
「ああ、わかった。・・・済まない。ありがとう。」

せめて傷の手当てをしたい。
そう言ってくれたちゃんの好意を丁重に断ると、俺は駆け出した。
身体の限界が、近づいていたから。





ハッ、ハッ、ハッ。
息が、かすれてきた。
もう少しで、月の国から出られる。
ちゃんの国で、死なずに済む。

この国で死んだら、優しいあの子は苦しむだろうから。

『・・・依頼したのは私だ』

そう言った時、眼が赤いのに気付いたよ。
泣いてたんでしょう?
本当は生きていて欲しかったんでしょう?
それでも、皆の為に君は決断した。


本当、良い女だ。

そういえば昔、自来也様が
「殺されるなら美女が良い」
なーんて言って、綱手様や師匠に笑われてたなぁ。あまりにもらしいって。

今まで何人も、いや、何十何百何千と殺してきた。そんな俺の死に方にしては、上出来かもしれない。あんな『良い女』に殺されるなら。

ほんの少し、里の皆の顔が浮かんだ。

ナルト、怒るだろうなぁ。

サクラは泣いてくれるかな。

綱手様は、影で自分を責めるんだろう。

自来也様に、あの本新刊出たら墓前に供えてくれって言っておけばよかったなぁ。

ガイ・・・結局決着つかなかったな。怒るなよ?

先生、オビト、リン・・・もうすぐそっち、行きますね。





忍者は、死ぬ時、自分の遺体を残すような死に方をしてはならない。
異能がある身なら特に。

月の国を抜け、ようやく辿り着いた滝壺に、俺は身を投げた。

どこからか遠く、俺の名を呼ぶ声がした気がした。





眼が覚めたら。
周りを人が囲んでいた。

「・・・あ、生きてた」
「何が『・・・あ、生きてた』よこの馬鹿っ!!!」
「どれだけ心配させるんですかカカシ先生の馬鹿―!!!」

俺怪我人ですよね五代目火影様もとい綱手様。
殴りかかるのはヤメテ下さい。

なんで助かったのか聞いてみると。
俺が出発して5日程たった頃、早馬で月の国の状況が一変したとの連絡があったという。
忍者を大量に城内に配置し、何かの襲撃に備えていると。
・・・たぶん依頼がバレたんだろうな。
上忍クラスも大勢居るとの情報に、慌てた綱手様は大急ぎでガイとゲンマを救援に向かわせたそうだ。
で、二人がもうすぐ月の国に入るという時に。
血塗れになった俺が、滝壺に飛び込んだのが見えたそうだ。

「わー、間一髪」
「何が間一髪だ愚か者!後数分遅ければ、お前は、お前は」
「ん。ありがとう、ガイ」

あれ?なんで皆固まるの?

「カカシが・・・礼を言ったよ、ガイに」
「熱でもあるのかしら」
「カカシ先生がおかしいー!」

君達普通に失礼だーよね。
俺だって礼くらい言いますって。

ぴくりとも動かない身体。
でも何とか生きている。

もし。
もし、ナルトやサスケの事が全部片付いて。
その時生きていたら。

ちゃんに逢いに行くのもいいかもしれない。
きっと、もっと良い女になっている筈だから。

ほんの少しだけ、取っておいたちゃんの黒髪を入れたお守り袋を。
何とか手を動かして、そっと握り締めた。



2008.06.10に頂きました!!


いつもWEB拍手で感想をくださいますリア様からの創作です!!

うわーんありがとう、リア様!!

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