慕情

作・輝様




「なぁ、訊いてもいいか?」


「なに、祇孔さん・・・じゃなくて!今の゛さん"ヌキ!」


「ちゃんと呼べ」


「う〜・・・祇、孔・・・」


「イイ子だ。な、、お前俺のこと好きか?」


「うん。好き」


「じゃ、先生は?」


「お兄ちゃん?好きだけど?」


「・・・じゃ、蓬莱寺は?」


「蓬莱寺さんも好きだよ?」


「・・・・・・そうかよ」


 テメェで訊いといてなんだが、やっぱり萎えた。
 今俺の目の前でにこにこと微笑う少女――の言う『好き』は「優しいから」「面白いから」なんて馬鹿みてェな前提がつく『好き』で。

 ―――つまり。

(俺に対する気持ちもそれくれェしかねェってことかよ?)

 鈍感にも程があるってもんだ。

 ちょこまかとよく気が付くクセにこういった恋愛面だと鈍感で、好きと惚れてるの違いがわからなくて、その上先生の妹。落としにくいことこの上ない相手。

(なんでこんな面倒臭ェ女、惚れちまったかね・・・)

 苦りきった想いを溜息で紛らわせながら、胸ポケットの中の煙草に手を伸ばす。
 が、なんとかそれを思いとどまると冷めきった珈琲を無理矢理流し込んだ。


「それがどうかしたの、祇孔?」


「なんでもねェよ。それよりよ、


「なァに?」


「こっち来いよ?」


「んー、うん」


 膝を叩くと、がカップを置いて俺の膝の上に座る。
 その猫のような動作に笑みがもれる。と、自分が「先生」と呼んでいる男の顔が脳裏を過った。

(こんなトコ先生に見られたら、手加減ナシの黄龍を食らわせられちまいそうだ)

 そんなことを思いながらも、を膝の上から下ろすつもりはない。
どうしたって自分の欲望には逆らえない。
それこそ半殺しの目に遭ったとしても、惚れた女に触れたいと思うのは当たり前。

(恋に狂っちまった男ほど、手に負えねェモンはねェ。なァ、先生?)

 自分を膝の上に座らせる男の気持ちを毛の先ほども気付こうともしないの細い腰に腕を回しながら、思わず自嘲の笑みがもれた。


「それにしてもさ、今日はエアコンにホットカーペットもついてるんだよ?」


「だから、なんだよ?」


「祇孔ってよっぽど寒がりなのね?」


「そうか?」


「そうよ。それに私が乗っかったって、ちっとも暖かくないでしょう?」


「性能のいいエアコンよりホットカーペットより――他のどんなモンより、オマエが一番温けェよ」


 惚れた女の肌より温かいモンがあったら教えて欲しいぜ。


「できればの躰で暖めてくれるとありがてェんだけどな」


 更に欲を言わせてもらえば、何一つ身に付けてない、その躰で。


「ん?なんか言った?」


「・・・別になんも言っちゃいねェよ?」


 ヘンなの、なんて言いながら笑うの声を聞きながら、その柔らかい髪に唇を落とす。

 本当ならよ
 こんな面倒臭ェこと抜きにして手っ取り早く俺のモンにしちまいたいんだぜ?
 無理矢理にでもくちづけて、どこぞの反吐が出る恋愛映画みてェな甘ったるい台詞を吐いて
 零れた涙を舐めとって
 何度も何度も俺のモンだと印をつけて
 俺しか見えねェように快楽で縛り付けてやりてェんだよ。

 そして好きだ、と。
 馬鹿みてェな前提ナシのその言葉を言わせてみてェ。


「祇孔、珈琲冷めちゃったから淹れ直そうか?」


 でもよ
 出来ねェんだな、コレが。
 想像するだけでとてつもねェ罪悪感にかられちまう。
 こと女に関しちゃ、引く手数多のこの俺が
 の前だとなけなしの理性が働いちまう。
 傷つけたくなくて
 泣かせたくなくて
 何時も微笑っていて欲しくて
 テメェの気持ちを無意識にセーブしちまう。

 そんなに嫌われちまうのが怖ェのかよ?
 情けなくて嗤っちまう。

 なんて面倒臭ェ女
 男の薄汚ェ欲望やら男女間の駆引きやら自然に抱く恋慕やら――ちっとも理解してねェ女相手にだぜ?
 無駄だと知りつつも俺は逢う度、甘い言葉で、時にはあからさまなそれで誘っちまう。


「珈琲なんて、ンなもんいらねェよ」


「でも、」


「俺がこうしてを抱き締めてる時はおとなしくじっとしてろ」


「私ってば人間カイロ?」


「くくっ」


 なんて面倒臭ェ女
 それでも目が離せねェ
 腰を抱いている腕を離すことが出来ねェ
 どうしたって惹き付けられる

 だから時には本気で口説かせてもらう





「んん?」


 理解できねェなら俺が理解らせてやる。


「好きだ」


 何度も何度も何度も何度も
 それこそ
 が望むなら100回でも1000回でも
 数え切れねェくらい言ってやるよ。


「俺のモンになっちまえよ?」


 なァ、
 何時だってオマエの耳元で囁いてやるからよ。


「祇孔?」


・・・」


 ピンポーン♪


「あ、お兄ちゃん来たね」


「・・・・・・俺が出る」


 取りあえず、今日はコレで許してやるよ。
 続きはまた明日、な?



「よぉ、先生」



 恋にトチ狂っちまった男ほど、手に負えねェモンはねェ。
 だろ、先生?



 終わり?




2001・05・09 UP

ぎゃーーーー!!(絶叫)
輝様、いつもいつも迷惑かけてるのに!
「開設祝いに何にします?」と言われて「魔人!」とねだっていただいた物!!
ありがとう〜〜〜〜!!

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