ハート トゥ ハート
(2)
BPシリーズ。
警視庁のブレイブポリス開発スタッフが精魂込めて作った、超AIを搭載したロボット刑事シリーズ。
このシリーズの完成体は現在、全て警視庁ロボット刑事課に所属している。
なぜならば偶然の産物とはいえ、一番最初のBPシリーズであるBP−110・デッカードに感情を与えた友永勇太少年が、冴島総監の意向によって特例として主任を務めているその場所は、ロボット刑事達にいい『環境』を与えているからだと開発主任はかつてあたしに言った。
第二次ブレイブポリス計画の実験として、ハイウェイパトロールにいた問題児・ガンマックスもブレイブポリス所属となってからはそうそう大きな問題も起こさなくなった(所属当初はいろいろとあったそうだが)し、イギリスから来たデュークもデッカード達と交流することによってより感情豊かなロボットになったと言う。
そのBPシリーズの中に、それこそ特殊な存在がいた。
隠密回路を導入した、三段階変形可能な実験用BPシリーズ。
シャドウ丸の影…というよりも、兄弟のような存在。
その名前を、カゲロウ。
エクセレント社に勤務していた元ブレイブポリス開発スタッフの一人、新庄ケンがその超AIを強奪した、唯一のBPシリーズ。
元の超AIは、シャドウ丸を助けるために海のそこに沈んだと報告を受けていた。
だが。
「間違いねえ。こりゃあ、カゲロウのシステムプログラムだ」
墨東署の交通課から連絡を受けた藤堂主任は、ノートパソコンの前でそう言った。
「なぜ言える」
「カゲロウやシャドウ丸の二体には、他の連中の超AIとはちょっと違うのさ」
藤堂主任はそう言うと、データを見るのを止めて、ノートパソコンの電源を落とした。
「あいつらの変形は三段階・五段階のパターンがある。デッカード達が使ってる超AIのシステムだけじゃあエラー起こしちまうから多少は手を加えてあるんだよ。冴島のだんな」
「むう…では間違いはないのだな?」
「ああ…武器の密輸グループがこれを持ってたって話しだが」
「その件につきましては墨東署の徳野警部から報告書が提出されています」
「ああ、見よう」
冴島総監に書類を提出しながら、あたし、は藤堂主任に向き直った。
「以前、藤堂主任から超AIのシステムについて教えていただいていましたので…見てすぐにわかりました」
「ああ、お前さんもブレイブポリスのメンバーならシステムぐらいは教えておかないといけないと思ったからな。教えてて正解だったぜ」
「墨東署の方には?」
「緘口令を強いてもらっています。マスコミ各社にも情報はもらしていません…ディスクの存在は明らかになっているので、それは裏ルートに今後入るだろう武器リストのディスクだということにしてもらっています」
「情報操作したってことか?」
「この場合は…仕方があるまい」
冴島総監は眉根を寄せた。
超AIの構造は極秘になっている。
「カゲロウの超AIか…ブレイブポリスにとってはつらい事件だな」
「勇太君たちには?」
「まだ報告しておりません」
できるわけがない。
「…墨東署との合同捜査について東君と相談してこよう。このことは…友永警部たちには内密に。刑事」
「はっ」
「ってことはお前さんがブレイブポリス代表ってことになるな」
「全力を尽くします」
あたしが敬礼すると、総監たちは重々しく頷いた。
あたしがデッカールームに顔を出すと、友永警部がもう来ていた。
「さん、怪我のほうは大丈夫だった?」
「ええ、たいした事はなかったですよ」
なんて手をひらひらさせると、友永警部はあからさまにほっとした顔を作った。
「さん、無茶ばっかりするから」
「はい、すみません」
あたしがそう言うと、にっこりと子供特有の無邪気な笑みが広がる。
「ボス。全員が揃った所で、昨晩のテロリスト達の報告をしたいんだが」
「あ、うん。頼むよ、マクレーン」
「了解」
ぴんっという細かな音を立てさせて、大きなスクリーンに昨日逮捕したテロリスト達の顔が浮かぶ。
「刑事の迅速な行動のおかげで被害が少なかったこの事件ですが……」
マクレーンの報告に耳を傾けながら、あたしの頭は違うことを考えていた。
昨日のこの事件と全く同じ時刻につかまった武器密輸グループ。
関連性はないのか、あるのか。
つかまった場所と、あの開発公団の建物の距離を後で調べてみよう。
それから犯人達の事情聴取も読まなくてはならないかもしれない。
「装備の種類は……正直、防衛軍並です」
「よく武装解除させれたよなあ、」
「え? あ、はい」
パワージョーに、いきなり話を振られて、あたしは少し慌てた。
「まあ…暗視用スコープを連中が持っていなかったのが勝因ってことでしょうね」
あたしの言葉にデュークがなるほど、と頷く。
「逆を言えば、それを持っていられたら危なかったということでありますか?」
「そういうことみたいですぜ? ダンプのだんな」
シャドウ丸がここぞとばかりに言って。
「刑事はすこし自重するように」
デッカードの注意に、苦笑いであたしは答える。
「でも、あいつらはどうやって武器を持ち込んだんだろう」
「そりゃあな、おちびさん。欲しい奴がいれば売っちまう奴がいんのさ。この世の中には」
口の端を上げながら、ガンマックスがそう言った。
「武器を?」
「昨晩、同時刻で武器密輸グループが逮捕されている…。連中はおそらく彼らか、もしくは彼らのような所から武器を調達したのでしょう」
デュークがそう報告すると、友永警部は眉根を寄せた。
「今後のこの事件の捜査は?」
「一応、警視庁刑事部の人間が事にあたっているようです」
「もしも報告が必要ならば、その旨を申請できますが。友永警部」
「あ、お願いします。さん」
「僕達の超AIを要求した連中なのに、僕達が捜査できないなんてなんかやだなあ」
「ぼやくな、ドリルボーイ。適材適所という言葉がある」
「はーい」
デッカードが諌めれば、それはわかっているけどさあ、とかドリルボーイの小さな言葉が聞こえて来る。
「さんの方からなにか報告は?」
友永警部の言葉に、あたしは即座に返した。
「ありません」
「んじゃあ、この事件は要請があり次第即座に行動できるように、ってことでいいかな? 皆」
「「「「「「「「了解」」」」」」」」
綺麗にロボット刑事たちの声が揃った。
そこに冴島総監と藤堂主任、そして東副総監がやってきた。
「…事件ですか? 冴島さん」
「うむ…君」
「はっ」
あたしは背筋を伸ばす。
「勇太君、昨日武器密輸グループがつかまったことは知っているかね?」
「あ、はい。さっきマクレーンから聞きました」
「そいつら、ちょいとおかしなディスクを持っていてな。その解読にをかりてえってさっき要請があったんだ」
「さんを、ですか?」
「ああ。他の連中は違う事件で手一杯でなあ…科学捜査班の連中も動きがとれねえ」
「そんなディスクの解析なら、シャドウ丸ならすぐに…」
「シャドウ丸には別件がある」
東副総監が重々しく口を開いた。
「未確認情報だが、近年急成長した武器密輸組織の一つが動き出した。市場を日本にするべく大物幹部達が集まっているらしい。ブレイブポリスのシャドウ丸、ドリルボーイ、ガンマックス、デュークはパトロールルートの変更をする。今夜から非常警戒態勢に入れ」
「!」
「武器密輸組織って…」
「例の事件にも関係あるかもしれないな」
うんうんと、四人は頷きあった。
「他のものは通常パトロールルートだが、警戒態勢を忘れるな」
「了解しました」
代表でデッカードが敬礼をした。
「君は本日からブレイブポリスの代表として、捜査本部がある墨東署に向かってくれたまえ。本庁のスパコンに入る場合の緊急用システムコードはこれだ」
あたしは藤堂主任から小さなFDケースを受け取った。
「捜査指揮は蟻塚警視正、ならびに木下警部補が行っている。今後は彼らの指揮下に入るように」
「はっ」
「以上だ。長期戦が予想される。頑張ってくれたまえ」
了解、と全員の声が揃う。
…打ち合わせ通りの展開になった。
もしもディスクの内容を彼らが知れば、絶対に動揺する。
特にシャドウ丸は。
嘘をつくということははっきり言って心苦しい。
だがこの場合は仕方がない。
ディスクの存在は報告書にも提出されているが内容まではまだされていないので、適当な理由をつけるのはもってこいだ。
「じゃ、友永警部。行って参ります」
「はい、いってらっしゃい」
敬礼すると、友永警部は子供特有の無邪気な笑みを広げた。
「ちゃんと帰ってきてよ! さん、もううちのメンバーなんだからね。例え、昔の職場でもさんはどこにもあげないんだから」
「あ、そっかー。墨東署って前、が勤務してたんだったよねー」
「ディスクの解析、でしたら早く決着がつくかもしれませんよね」
ドリルボーイの言葉を聞きながらマクレーンが言い出した。
「そうですね」
そう願いたい。
あたしは切実にそのとき、そう考えていた。
墨東署は独特の雰囲気がある。
口の悪い本庁の古株連中は総じてこう言った。
「警視庁の独立愚連隊」
「警察内の梁山泊」
個性が強い連中が揃っているとか、そういうのでもないだろうが。
昨日とは違い、制服を身につけたあたしは会議室に入る。
友達の二葉葵巡査や小早川美幸巡査、そして辻本夏美巡査がかすかに笑みをしながら会釈してくれた。
会議はやはり重々しい空気の中で始まった。
「刑事。ディスクの内容を」
木下警部補の言葉にあたしは立ち上がる。
冴島総監の指示もあって緘口令が行き渡っているとはいえ、やはり口に出すのを一瞬ためらってしまう。
「…ディスクの内容はやはり極秘プログラム・超AIの一部でした」
あたしは藤堂主任の見解を口にした。
「現在プリズンナンバー10に服役中の新庄ケンに奪われた超AIシステムプログラムの一部であることを開発部によって確認されました」
「一部、ってことは入ってない情報も勿論あるということよね」
「はい。開発部の方で照合中ですが今回のディスク内に入っていたものは、主に駆動部分を動かすシステムのみだろうと藤堂主任は仰っています」
「…売人達は素人なのに、取り扱っていたのが超AIとはな…」
蟻塚警視正がぼそりと言う言葉が響く。
あたしが座ると次に捜査課の徳野警部が立った。
捕まえた連中のことを報告し出す。
会議はそれから数十分後に終了した。
「刑事」
「はい」
木下警部補に呼び止められて、あたしは背筋を伸ばした。
交通課の女の子達が振り返るのがわかる。
「冴島総監からの指示は聞いています。ブレイブポリスのロボット刑事たちにはこの事件のことは一切漏らさないように、とのことだったけれど」
「はい」
「…平気? 貴方はそれで」
心臓をつかまれるというのはこのことなんだな、と瞬間的にあたしは思った。
「平気なわけはありません…」
あたし言葉に、蟻塚警視正が耳をそばだてているのが判る。
「しかし……これ以上の混乱を彼らに与えることはないんです」
チーフ・テンシリーズもそうだが、それ以前、カゲロウの事件でも彼らロボット刑事達は深く心を傷つけられたはずだ。
「ばれたときはどうするの?」
「……そのときは、そのときです」
くすっと木下警部補は笑う。
美人が笑うとその場所が明るくなるっていうのは本当だ。
「判ったわ…そのとき、考えましょう。これからよろしくね」
「はい」
あたしは敬礼でそれに答えた。
「刑事はお昼から捜査課の徳野警部のサポートをお願いね」
「はい」
「プリズンナンバー10の方は、ワシと東副総監とで行くことにする」
蟻塚警視正はそう言って帽子を深々とかぶった。
「お願いします」
あたしの言葉に、二人は頷きあって会議室を出て行く。
あたしは肩の力を抜いた。
冴島総監は別として、どうしても上の人と話すときは緊張してしまう。
「さん…大丈夫ですか?」
「え? あ、うん。平気」
葵ちゃんの言葉にあたしは笑った。
美幸と夏美がにっこりと笑い返してくれた。
「ねえねえ、ブレイブポリスってさ。どんな連中?!」
昼休みに入って、捜査課の徳野さん達とランチを食べていたら頼子が身を乗り出して聞いてきた。
「そう言えば、俺も詳しくはしらねえなあ」
隣の徳野さんがそう言いながら割り箸を割る。
「人間臭い連中だってーのは聞いてるが」
「でしょ? でしょでしょ? その程度しかあたし達知らないんだもの!」
「そうなの?」
「頼子、食事時に何騒いでるのよ…?」
カレーライスとピラフとうどんをトレーに乗せて、夏美が徳野さんの隣に座る。
「ブレイブポリスのロボット刑事、どんなのか聞いてみたいじゃない!?」
「まあ…確かにねえ」
「…まあ、一応交通事故の処理のときに来てくれることはありますが、お話するわけじゃあありませんしね」
葵ちゃんがそう言いながら、お茶を出してくれる。
「そうねぇ」
なんて言いながら、美幸があたしを見てくる。
…。
「どうって……なんて言ったらいいんだろう」
あたしは頼子を見た。
らんらんと輝いている瞳…これはうかつなことはいえない。
「皆、いい子、かな?」
「いい子?」
うん、とあたしはお茶を一口頂いた。
「もしくは、まっさら、かな」
「まっさら…ねえ」
「人を疑うことをしないし…優しいし」
そう、彼らを裏切るのは。
深く深く彼らを傷つけるのは。
いつもあたし達『人間』だ。
「?」
美幸の言葉にはっと我に変える。
いけないいけない。
「まるで人間そのものってとこか?」
徳野さんの言葉にあたしは「はい」と返事をする。
もしかしたら人間よりも純粋な存在かもしれません、という言葉をご飯と一緒に飲み込む。
「で、ロボット刑事達と一緒に仕事しててどーよ、」
「何が?」
「楽しい?」
「楽しいって言うか、なんていうか。皆えらく過保護なのよねー」
「まあ、人間を守るために生まれたロボット警察官なんだからなあ、お前さんが無茶やらかしたらそら心配もするだろうが」
徳野さんがそう言ったときに高い電子音が響く。
「何々?」
「あ、ごめん。あたしのだわ」
ブレイブポリス用、警察手帳型通信機。
友永警部のものよりも薄いそれを胸ポケットから取り出す。
「はい、こちら」
『昼飯時に悪いな、』
「ガンマックス刑事?」
美幸達の眼が丸くなる。
「なに、この通信機ブレイブポリス直行ものなの?」
『あ、誰かそこにいるのか?』
「いますよ、そりゃあ。で、なんでしょう」
『現在墨東3丁目の辺りを通過した所だが、電磁波を感知した。注意してくれ』
みんなの空気が一瞬にして変わる。
「電磁波ですか?」
『ああ、下手したら信号機が壊れちまうような強い電磁波だったぜ。俺の方から直接警察無線に割り込んでもいいんだが、俺は信用がないほうなんでね』
「すぐに信号機のシステムチェックの要請をします」
徳野さんは残りのご飯を口の中にかき入れた。
あたしもお弁当をしまい始める。
交通課の皆は息を飲んであたしの手の中の通信機を見つめている。
『すまない、こちらマクレーンだ』
「はい、こちら」
『墨東1丁目で信号機故障、玉突き事故発生の模様。原因はガンマックスがキャッチした電磁波かもしれない』
「…!」
「墨東署の徳野だ。電磁波が発生している場所を特定できるか?」
『現在検索中です。徳野警部』
『こちら、パワージョー! 大門1丁目で信号機故障!』
『七曲1丁目、建設用ロボットが多数暴走開始はじめました!』
次々とパトロールで警戒態勢をとっていたブレイブポリスたちから事故の報告が上がる。
「非常事態ですね」
「なんなのよ、いったい」
葵ちゃんと夏美の言葉を聞きながら、あたしは徳野さんと頷きあった。
「マクレーン刑事、位置の特定は?」
『電磁波自体が移動している模様! 現在は大門1丁目から七曲3丁目に…高速移動中』
「追尾できるか?」
『そりゃあ、私がやりましょう』
シャドウ丸の声、マクレーンにかわって答えてくれた。
「いまから現場に急行する!」
「あたし達も、行きましょう」
「OK!」
美幸と夏美、他の交通課の皆がばたばたと食堂を後にした。
この迅速な行動のおかげで、交通状態の回復が早かったのは…言うまでもない。
美幸と夏美達が事故の処理に回ってくれたおかげで、あたしと徳野さん、そして須藤さんの三人はシャドウ丸と合流できた。
墨東署のすぐ近くにある川辺に彼は立っていた。
「チビボスの方にはデッカードが報告済みだ。ビルドチームと一緒に暴走ロボットを止めている」
忍者スタイルのシャドウ丸を見て、徳野さん達は一瞬びくりと動きを止めた。
たぶん、彼を見て驚いているんだろう。
ガンマックスはともかく、シャドウ丸はその存在はブレイブポリスとして確認されてはいるものの一般に情報公開していないロボットだ。
「で、シャドウ丸…って言ったか…電磁波の発信元は?」
「奴の行動をシミュレートした。もうすぐ目の前に……」
ズササササッ!!
川の水がそんな音を立て始める!
「来た!」
須藤さんの言葉と同時にそれは大きく鎌首をもたげた。
「蛇型ロボット?!…」
効くか効かないかは判らないが、須藤さんと徳野さんが拳銃を取り出した。
大きさはシャドウ丸とどっこいぐらいだろうか。
銀の光沢を放つ巨大な蛇を見て、徳野さんが苦笑いする。
「…まあ、前に来た地球外生物じゃないだけましだ!」
「きますぜっ!」
オオオオオオオオオッ!!!
蛇型ロボットは牙を剥き出しにすると、あたし達に襲い掛かる!
「シャドウ丸!」
「! まかせなっ!」
手裏剣が蛇型ロボットの身体に突き刺さる!
まるで痛みを感じているかのように、蛇型ロボットはひるんだ。
「逃がさないで!」
あたしの言葉にシャドウ丸は「合点!」と答えると、蛇型ロボットが向かう先に先回りして刀を抜いた。
「観念して……ん?」
「シャドウ丸、どうした!」
「徳野警部、人間が乗ってるぞ!」
「何?!」
「操縦型のロボット兵器ですかねっ!」
「そんなもん、捕まえてみれば判ることだっ!」
「了解っ!」
シャドウ丸はそう答えると、ロボットを取り押さえるために刀を振り上げた…!
「お前を逮捕する」
シャドウ丸の刀の切っ先が、操縦者らしい人間がいる部分に向けられた。
蛇型ロボットは、つい先ほど、シャドウ丸タンクで駆動部分にとどめを刺した。
操縦者は、シャドウ丸にそう言われて観念したのか、ロボットから出てきた。
まだ若い男のようだ。
「須藤」
「はいっ!」
須藤刑事が手錠をかけているのを目の端で捕らえながら、あたしは徳野さんと一緒にロボットに近寄った。
「爆発する危険性は?」
「念のために駆動部分と思われる個所しか狙っていませんし、誘爆の危険性も今の所ありませんぜ」
シャドウ丸の言葉にあたしが頷くと、徳野さんが操縦席らしい部分に近寄った。
「まったく……最近の事件と来たらろくなもんがねえ」
徳野さんは誰にともなくそう言いきると、操縦席の中を覗き込む。
「…」
「はい」
「ディスクだ」
その言葉にあたしは思わず息を飲む。
そして徳野さんと一緒に覗き込んだ。
光ディスクがかすかな機械音を立ててそこに埋め込まれている。
あたしは慎重に釦を押してその動きを止めた。
「起動ディスク、ですか? 今時」
「さてな。俺はその辺の所はとんと鈍くていかん……万が一ってことがある。お前さんに任せる」
「はい」
「シャドウ丸、とか言ってたな」
「はい、徳野警部」
「こいつを本庁のお前さんとこの藤堂に渡しといてくれ。全部ばらして解析しろってな」
「藤堂主任をご存知で?」
「…ふっ、あいつにはでかい貸しがあるんだ。これを機会に返してもらわにゃ…それに、戦闘用のロボット解析なんざ墨東署にねえ」
「了解しました」
ぴぴっと甲高い音がして、あたしはディスクを丁寧に改修してからそれに答える。
『さん?』
「友永警部」
『暴走ロボットの沈静化に成功。そっちはどう?』
「はい、シャドウ丸のおかげで犯人確保終了しました」
『やったーーーっ!!』
「チビボス、それで墨東署の徳野警部からの要請でこっちの怪ロボットを藤堂主任に解析していただきたいそうです」
シャドウ丸の回線が横入りする。
『藤堂さんに…うん、判ったよ。僕のほうから連絡するね! あ、さんのディスク解析は終わってたのかな?』
「いえ、これからのところでしたし」
あたしは思わず徳野さんと目をあわせた。
「それにまたディスクが出てきましたので」
『ええええっ!!』
あたしは静かに失礼しますと言うと、通信機の電源を切る。
「刑事」
「なんでしょうか、シャドウ丸刑事」
「さっき呼び捨てにしましたよねえ」
「? ……ああ、すみません、咄嗟に」
「いや、謝らなくていいんですよ。ちょいと、嬉しかったもんですからねえ」
自分が破壊してしまったロボットの残骸を丁寧に一箇所にまとめ、あたしと徳野警部がロボットから離れるのを見計らったときにおずおずとシャドウ丸は言ってくれた。
「あんたは…時々壁を作ってる気がするんですよ…。私達に、というか自分以外の者に」
あたしは眉をひそめ、そして「気がする」と言ったロボットを見上げた。
「さっき、それがちいっとばかり壊れた気がするんでね」
そう言って、かすかに笑う彼の表情に、徳野さんが一瞬驚いてそして笑った。
「噂のブレイブポリス…心をもつロボットか、なるほどな」
あたしはなんとも答えられずに、ただ曖昧に苦笑してしまう。
「じゃあ、後は任してください。徳野警部」
「ああ、はまだうちが借りとくぜ」
「早めに返してくれるとありがたいんですがねえ。うちのチビボス達が寂しがってますから」
「その中に、お前さんもいるんだろう?」
「判りますか?、やっぱり」
声だけ聞くと、本気か冗談か判らない会話を楽しんでいる一方が、作られた存在だなんて誰が思うだろう。
「じゃあお願いしますね」
「はいはい……ん?」
「どうかしましたか?」
「いえね……なんでもありません」
「じゃあ、よろしく」
あたしが頭を下げて車に乗り込む。
後から聞けば。
「カゲロウの呼ぶ声がした」
そう言おうとしたらしい。
聞かなくてそのときは正解だった。
もしも聞いてしまったらあたしは、その後仕事にならなかったように思う。
なぜなら。
そこで押収した起動ディスクの一部分は間違いなくカゲロウのプログラムの一部分だったのだから。
続く
2002・03・17UP
「心を持っていたとしても、簡単にお前達はコピーしたり移し変えたりできる」
ロボットである以上、彼らは人間のような感情を持っていたとしても機械としての特性が変わるわけじゃない。
涙を流すことも出来ない彼らは、しかし悲しみを感じることは出来るんです。
だから判ってください。理解してください。
彼らは、「人間の心」を愛しているんです。
勇者警察ジェイデッカーは、そんなことを伝えているアニメだと思う時があります。
ブラウザで戻って下さい。
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||