ハート トゥ ハート
(3)
コードネーム・カゲロウ。
BP-503・シャドウ丸のプロトタイプとして作成されたが、シャドウ丸完成とともに警視庁開発部から脱走。
数々の破壊活動をしたのちにシャドウ丸の手で破壊。
活動停止する。
活動停止したカゲロウ本体からは超AIを発見できず。
エクセレント社が製作した軍用タンカーにおいて新庄ケンが作った超AI・カゲロウ=シンジョウとして使用されていた。
が。
戦いの末にタンカーは沈没。
超AIはそのまま深海に沈み、回収されなかった。
爆発を確認したので、大破した模様。
「そのカゲロウのシステムプログラムが悪用されてるなんてなっ!!!!」
だんっ! と、藤堂主任が机を大きく叩いて思わず怒鳴り、自分のその言葉に逆に打ちのめされたかのように椅子にへたり込んだ。
藤堂主任にとって自らが設計に参加して陣頭指揮までして作り上げた全てのブレイブポリスは、一種、彼の誇りでもある。
それが、どんな形にせよ悪用されたとなっては落ち込むのは当然だろう。
「心中、お察しします」
「ありがとよ」
即座にそう返しているが、あたしの言葉は主任の耳から耳に抜けているだろう。
「新しいこのディスクですが…」
「ブレイブポリスで開発した変形システム、そのままだ。最初に見つかった駆動用システムプログラムとそれなりのもんがあれば、デッカードやビルドチームみたいな2段階変形ロボットの出来上がりだぜ」
と、言うことは。
「あのロボット兵器、変形できたということですか?」
「そういえるな」
「某国のものでは?」
冴島総監の言葉に藤堂主任は首を振った。
「そりゃあ、ねえな。ここを見てみな」
プログラムの照合用データが目の前に広がる。
「ほんとうにまんまですね」
「ああ……ブレイブポリスのは連続した変形が可能のシステムプログラムだ。他の国のもんとはわけが違う。たとえあったとしても、こうまで同じもんが簡単に作られてたまるかよ」
「やはりこれは…」
「十中十、間違いなくうちのもんだ」
「やっかいなことだ」
東副総監はそう言いながらメガネを光らせる。
「あの怪電波は?」
「あつかましいことに、隠密回路を真似たもんだ。さすがに全部を全部真似したもんじゃねえがな」
「む…隠密回路までもが…っ!」
「では、カゲロウは生きている可能性があるということか?」
「あるいは…」
あたしの声が冷たく響く。
「生きながら解体されてばら売りにされている?」
「だろうな」
今まで黙っていた蟻塚警視正は帽子をかぶり直した。
「新庄ケンは、だんまりだったよ。もはや何も言うことはない、というようにな」
「本当に知らないのか…それとも」
「さてな。それはこれからもう一度確かめましょう、東副総監」
「ああ」
蟻塚警視正の言葉に頷く副総監を横目に、あたしは回収したデータをパソコンから引き出した。
「できすぎですよね」
「ん? なにがだ」
「超AIのデータを要求したテロリスト、それと同時刻に逮捕された武器密輸グループにあった超AI内にあるはずの駆動システム、その捜査の矢先に、変形システムを起動ディスクにした、しかも中途半端とはいえ隠密回路を利用した破壊ロボットの出現」
「偶然か?」
「無関係ではないと思います」
あたしはディスクをしまいながら、全員の顔を見回した。
「…武器密輸グループと取引するはずのテロリスト達は、なんらかの形で作戦を変更しなくてはいけなくなった。そこでてっとり早く、超AIのデータを要求する事件を起こした…」
「だがそれは失敗した」
蟻塚警視正が言葉を続けてくれる。
「我々からのデータ入手ができないと思い知った連中は、素直に持って売ってくれる奴等にとびつくだろうな」
「金額さえあれば、危険はないからな」
冴島総監が肩をすくめる。
「手に入れた連中、もしくは持っていた組織が試しに破壊ロボットを作ってみた…一種のデモンストレーションか」
藤堂主任は顔をしかめる。
「…それで密輸グループは日本を市場に?」
ちらりとあたしを見ながら東副総監がそう聞いた。
それにはあたしは肩をすくめることしかない。
「確証は何一つありません。推測に過ぎませんが」
「…テロリスト達の訊問は引き続き捜査課と私が勤めよう。東くんと蟻塚警視正は今日は元エクセレント社で新庄の部下・もしくは同輩からなにか情報を聞き出してくれたまえ。今現在、彼らの数人は違う刑務所に服役している。どれもひとくせもふたくせもある連中だが君達二人ならば大丈夫だろう…藤堂、お前は破壊ロボットの解析の続きだ。君は引き続き徳野警部の指示に従ってくれたまえ」
「「「は」」」
あたし達は、冴島総監にそう答えて秘密会議を終了した。
「刑事」
「はい」
部屋を出ると、蟻塚警視正があたしを呼び止めた。
あの破壊ロボットの事件後、墨東署のパソコンで起動ディスクを立ち上げたあたしは、パスワードを解析するために、隠密回路を使った。
隠密回路はシャドウ丸に搭載されているものと、バックアップ用に藤堂主任が一つ持っている。
いわゆるハッキング行為ができる回路だ。
本庁にスパコン経由で藤堂主任が管理しているそれにつなげると、すぐさまディスクのパスワードは解除されて中身を覗けることが出来た。
そして、これもまた超AIのものだと気が付いた私は、徳野警部の許可を得て本庁の藤堂主任に報告に来るとちょうど東副総監、蟻塚警視正の二人も冴島総監と話をしていたので、てっとり早く全員に報告をするために集まったのだ。
「徳野警部には一応、君の推測とやらも話してみたまえ」
「はい」
「新庄ケンは、白かもしれん」
「…!」
「あくまでもまだワシの勘だがな」
「私もそう思っている」
東副総監がネクタイを締めなおしながらあたしに言った。
「新庄は自分をコピーした超AIのみを信用していた。他にそのデータを移すなんてことは考えてなかったはずだ」
「第三者の可能性ですか」
「可能性は他にもある。…その可能性一つ一つを消していき、犯人を逮捕して罪を償わせるのが我々の仕事だ」
「はっ」
あたしは敬礼をして、墨東署に急いだ。
「あ。お帰り〜♪ 」
「お帰りなさい、さん」
頼子と葵ちゃんがそう言ってくれる。ついこの間まで(と、言っても数ヶ月前だが)いた場所の顔見知りの声は、あたしに疲れというものを思い出させた。
「本庁では、どうだったの」
美幸の言葉にあたしは苦笑する。
「そう…やっぱり…」
「なにがやっぱりなの?」
そう聞いてくる、頼子を夏美が軽く報告書で叩いている。
「徳野さんに報告は?」
「これから。こっちに来てると思ったから最初に顔を出したの。じゃ、捜査課のほうに行ってくるね」
あたしは軽く手で挨拶しながら交通課を出て行った。
「あの子、また無茶しなきゃいいけど」
そのすぐあとに美幸がそう言って、皆が深く溜息をついたことなんて、あたしは知らなかった。
捜査本部にあたる会議室に、須藤さんたちが集まっていたので、あたしはそこに顔を出した。
そこにちょうどタイミングよく、木下警部補と徳野さんが来てくれる。
どうやらあのロボットを操縦していた男の訊問をしていたらしい。
徳野さんと木下警部補にあたしの推測を報告すると、二人はかすかに頷きあった。
二人とも可能性の一つとしてそれを考えていたらしい。
「あと、あの男が少し吐いたぞ」
徳野さんが一言そう言いながら、煙草を取り出した。
「金で雇われている下っ端だったがな。組織の名前を口にした。それがあいつがいた組織の名前か、商売相手の名前かは知らんがな」
「組織の名前は?」
須藤さんの問いに木下警部補が答えた。
ちょっとありきたりだが、最近急激に裏で伸びてきた組織の名前が出てきた。
「情報が何にもないよりかはマシだ…それにあの開発公団もくさいしな」
「テロに巻き込まれた、例の?」
「ああ。裏じゃ汚いことしてるってネタも掴んだ。しかもロボット工学がらみでだ…こっちの捜査をお前さんに頼みたい」
「はい」
「ブレイブポリスの連中には?」
「まだばれてない、と思います」
須藤刑事にそう言い返して…それから気がついた。
…。
…。
…。
まずい。
「どうした? 刑事」
「…いえ、何も」
「そう?」
木下警部補があたしの顔を覗き込む。
「なんでもないっていう顔じゃないわよ」
黙っていても仕方がない。
あたしは、意を決して口火を切った。
「…もしかしたら一番まずいのにばれた可能性が…」
「シャドウ丸、か?」
「シャドウ丸? あの忍者型ブレイブポリスの?」
「蛇型ロボットの回収、彼がしましたよね」
徳野さんに向かってそう言うと、「あっちゃあ」っと額を叩いた。
「あいつの個人データは未公開だから気がつかなかったがもしも単体で解析可能なら」
「シャドウ丸は、それ専門のロボットポリスですよ」
「聞かれたら…正直に話す?」
ばれたらそのときに考えようと思っていたのだが…実際、問題が目の前に来ると頭の中が真っ白になる。
「…なんとかごまかせれば…」
「刑事」
とんとん、と会議室のドアを一応ノックして葵ちゃんが入ってきた。
「二葉巡査」
「裏の方に…ブレイブポリスの方が見えられてます」
まずい。
「…どうする?」
「黙秘権を行使したい所ですが」
徳野警部はあたしの言葉を聞いて苦笑いを浮かべた。
「もしやむなしと思ったら…いいのよ。言っても」
木下警部補がそう言ってくれた。
「貴方は超AIを持つ彼らを、人間と同じように扱っているわ。…仲間内で黙っていること自体、貴方にとっても負担になってはいない?刑事」
「しかし、総監の指示は黙っておくように、です」
あたしの言葉に、木下警部補はかすかに笑った。
「そして貴方もそう考えている。…判断は貴方に任せます」
「ありがとうございます」
あたしは葵ちゃんにも「ありがと」と笑いながら会議室を出た。
「あいつは…苦労性だな」
「ええ」
なんていう会話を知らずに。
「お待たせしました……シャドウ丸刑事、とデッカード刑事?」
パトカーの姿をしたまま、墨東署の脇にある車庫の前に二人(こう言う場合は二体だろうか?)のブレイブポリスが待っていた。
「刑事、お疲れ様です」
「はい、お疲れ様です」
デッカードがそう言ってくれたので、あたしは反射的に笑顔を見せてそう言い返した。
ここは交通課の皆のバイクやパトカーが整備されている場所で、パトカーがあってもなんら不思議はない場所だ。
シャドウ丸の車体も一応は覆面パトカーなので、あまり違和感はわかない。
だからここを選んで待っていてくれたのだろうと思う。
「今日は大変でしたね」
「お互いに。一応、今回の騒動に関しては、報告書を作成中です」
「その報告書は俺達に見せられるようなもんなのか…?」
低いシャドウ丸の声に、あたしは内心驚きながら彼に目を向けた。
「シャドウ丸!!」
「身内相手にこういっちゃあなんですがね、私たちに隠し事しちゃあいませんか?」
覆面パトカーのライトがきらりと光った。
「…」
ここで黙秘権を行使したら、それはそれで肯定したことになる。
あたしは小さく溜息を一つついた。
「何を根拠にそう考えたのか教えていただけますか?」
「昼間のロボット、私は自己分析済みです」
内心、冷や汗がどっと流れ出す。
「あれは、間違いなく隠密回路だ」
やっぱりばれていた。
「刑事。教えてください。今現在、貴方は本当はなんの捜査をしているんですか?」
「先ほどまではディスクの解析をしてました」嘘じゃない。「これからはディスクに関連した組織の捜査にあたります」
「それにあのロボット兵器は関連してるのか?」
「お答えできかねます」
「っ!」
シャドウ丸が声を荒げた。
「隠密回路は他の国では開発していないシステムだ。しかも今現在、稼働しているのは実質私のみ」
「……」
「隠密回路が外部に漏れたのは、過去だた一回だけ。…教えてくれ、。あれは、そうじゃないのか…?」
あえてシャドウ丸は言いたい言葉を押し隠したけれど、あたしの耳にはしっかりと聞こえた。
「あれはカゲロウのものじゃあ、ないのか?」と。
やっぱりばれてる。
「どうなんだ、」
「刑事、そうなんですか…?」
静かに優しく、デッカードの声が振りかかる。
「その質問には私が答えよう」
「「「冴島総監!」」」
振り返ると、冴島総監と藤堂主任、それから蟻塚警視正が立っていた。
結果を言うと、冴島総監たちは隠密回路のこととディスク内部の概要を話してしまった。
どうやら本庁の方でもデュークやマクレーンが質問攻めにして、藤堂主任の部下の一人から情報を聞き出してしまったらしい。
それに蛇型の変形ロボのプログラム解析の跡をたどられて、説明を求められては話さないわけにいかなくなったのだろう。
それに、木下警部補達、捜査課の皆があたしに会いにブレイブポリスが来たことを総監たちに連絡したようだ。
「すまん、しかしこれは君達を傷つけないためのことだったんだ」
「……総監の話で全部か?」
シャドウ丸はあたしを見ていた。
あたしは苦笑いして力なく頷くと、シャドウ丸は少し笑ったようだった。
「…私達のことを思っていただけるのは大変嬉しく思います。冴島総監。ですが我々は、我々のことで仲間に黙っていてもらいたくはありません」
きっぱりとデッカードがそう言った。
仲間、というのはたぶんあたしのことなんだろうと思う。
「ならば今後は我々、ブレイブポリスも…」
捜査に参加してよろしいですか? と彼が言う前に、蟻塚警視正が素早く首を横に振った。
「それは許可できない」
「なぜですか、蟻塚警視正」
「犯人の特定及び組織に関連する事件は、現在墨東署ならびに本庁の捜査課が全力をあげて捜査している。ブレイブポリスは目立つからな…捜査の邪魔になるだけだ」
「っ!」
「…蟻塚君…」
言い過ぎではないかね? とばかりに総監が目配せするが、蟻塚警視正はかまわず言った。
「それに君達は自分達のシステムが関わると暴走する危険性もある。よって君達は各々現在の任務を続行させたまえ」
「…すまねえな、デッカード。そういうこった」
「藤堂主任っ!」
「だからお前達に黙っていたってーのもあるんだぜ?」
藤堂主任の言葉にシャドウ丸は静かにあたしを見つめた。
「がブレイブポリス代表ってーんなら、この事件の中間報告やらも全部うちにくれますよね」
「……うむ……」
「妥協案ならそれしかありませんねえ…駄目なら、この一件、命令違反してでも私は捜査しますよ。一人でも」
その脅しとも取れる言葉に、総監は頷いてしまった。
「結局、しゃしゃり出るつもりのようだな」
蟻塚警視正はそう言いながら本庁に帰っていくデッカード達を見送った。
「まあ、気持ちは判らないでもないが」
「すまねえな、俺んとこのミスでよ」
「で、蟻塚くん。首尾は?」
冴島総監がそう言うと、警視正はこう言った。
「一人、可能性の高い男の名前が出てきました」
テロリスト達が事件を起こした、あの開発公団に勤めている男の名前だ。
徳野警部ほと須藤刑事、そしてあたしの三人が事情を聞くためにその男性のもとに訪れるが…。
時、すでに遅く。
「っ!」
「、見るなよ」
「もう、遅いです」
彼は血の海の中で、溺れていた…。
続く。
2002・04・10 UP
「勇者警察Jデッカー」ではロボット達(勇者)に人間の汚い部分を見せました。
…。
あ。
勇太君出てない(滝汗)
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