ハート トゥ ハート
(4)





被疑者(まだそこまでも確定できていないが)死亡の一報は捜査課の面々に衝撃を加えるのには充分だった。

無線で鑑識と応援要請を入れる。

すぐに来てくれるのがありがたい。

「鑑識さんに報告受けて下さい。あたしは聞き込みに回ります」

徳野警部にそう言って許可をもらい…一段落がついたのは、すっかり暗くなってしまってからだった。

一日が、果てしなく長い。

…だってまだまだ終わっていないのだ。

「家宅捜索する前にやられたな」

徳野警部が苦笑いをした。

「パソコンの中はどうだった?」

須藤刑事が首を振った。

「駄目ですね、ハードディスク全部破壊されてます。修復は出来そうにありません」

「周辺機器にも、それらしい痕跡は残っていないと鑑識さんから連絡がありました」

あたしの言葉に、徳野警部は煙草の煙を小さく吐いた。

「振り出しだな…」

昔の警察官はこう言った。

《刑事は足で稼ぐんだ》

確かにそのとおりだ。

どれだけ人間の科学が進歩しようとも、それは変わらないのかも知れない。

「俺たちはこっちに泊り込むが、お前はどうする?」

徳野警部が聞いてきた。

何があるか判らないから、捜査課の面々はローテーションをくんで墨東署に泊り込むことになっているのだ。

「あたしもご一緒しましょうか」

「…無理するなよ」

「はい」

なんて言い合いながら、捜査を進めていく。

殺されたのは元エクセレント社の技術者で、現在は国際開発公団のなにかのプログラムを製作する部署に勤めていたらしい。

プログラム=超AIという単純な図式が浮かび上がって、あたしは小さく首を振った。

そんな証拠もないのに結論を出してはいけない。

そんなとき、ぴぴっと通信が入る。

警察手帳型通信機に通信を入れてくるのはブレイブポリスのメンバーしかいなくて。

…シャドウ丸か?

少し緊張しながら釦を押した。

さん!」

「と、友永警部?」

「もーう、さん、ずっとそっちなんだもん。僕心配しちゃった〜」

私の上司であり、小学生警察官の友永勇太警部は通信機のモニターをONにさせたようだ、小さなディスプレイに友永警部の顔が映し出される。

…警視庁に報告に上がったときも彼には会わなかったから、だろう。

「そっちの方の進展はどうなの? さん」

無邪気な顔に、一瞬疲れが吹き飛ぶ。

緊張がほぐれて、ほっとさせる笑みを持つ男の子は最近、あたしの中での癒し系の人物筆頭だ。

だが。

そんな彼に殺人事件の内容を話してもいいものか、悩む。

相手は小学生だ。

例え上司といえども。

「一歩進んで二歩下がってます」

と、ごまかそうとすると向こうの幼い上司は怒った顔をした。

さん、嘘ついてる」

「…根拠は?」

「僕の目、見てないもん」

「…嘘じゃないんですが…」

あたしは苦笑した。

困ったようなあたしの笑みに、真剣な眼差しで友永警部が口火を切る。

「解析は済んだんでしょう?」

「済みました。新しいディスクを発見し、その解析も終了しています」

「なんだったの? それ」

「……その件について、他の人たちから何か聞いていらっしゃられないんですか? 友永警部」

「デュークとマクレーンから…聞いたけど。皆、さんの口から報告されることを待ってる」

待ってる?

「友永警部。もしかして今」

「うん、デッカールームだよ」

時計を見た。

「……今すぐそっちに言って中間報告します」

いつもデッカードが送っている時間をゆうに過ぎてしまっている。

もうすでに寝ていなければ、明日がつらいだろう。

友永警部には小学校もあるんだから。

『あ、シャドウ丸が迎えに行ったから、もう着くと思うよ』

本当はドリルボーイが行きたがってたけどやっぱり駄目だよねえ? という上司の声を聞きながら、あたしは本庁に向かう用意をしだした。

徳野さん達は苦笑いを浮かべて「頑張れ」と言ってくれた。

何に対しての頑張れ、かは判っている。

これからロボット刑事達への報告に関してだ。

迎えに来たシャドウ丸は覆面パトカータイプで来ていた。

葵ちゃん達に挨拶をしてから、乗り込むと不機嫌さが判るような形のエンジン音をわざと立てる。

シャドウ丸は隠密ロボットだ。

極力、目立つような行動ができないような作りになっている。

なのにわざわざこんな真似をするとは…そうとう怒っていることが予想できた。

「シャドウ丸」

「知っていたはずだ」

それだけ言うとシャドウ丸は急発進する。

キキキキッという耳障りな音が道路に響く。

仮にも警察官なのだから、運転マナーを守れと言おうとしたら。

「俺とカゲロウのことは資料で知っていたはずだ」

そう言われて、あたしは黙った。

「なんで教えてくれなかった?」

「知っていたからこそ、隠したんです」

あたしの声の全てを、シャドウ丸は探知する。

きっと内臓されたの高性能トリグラフでもかけているんだろう。

おそらく、それほどあたしの言葉を疑っている。

「……悪ぃ」

ぼそり。

そんな感じでシャドウ丸が謝ってくる。

が悪いわけじゃないなんてことは知ってる。判っちゃいるんだ…けれど」

「カゲロウは貴方の兄弟…もしも知ってしまったら暴走する可能性大です。現在もその可能性は否定できない。違いますか?」

「…違わない」

「嫌なんですよ。貴方が、貴方がたが傷つくのは見たくなかったんです。あたしも、冴島総監、藤堂主任、そして…蟻塚警視正たちも」

「…それで、人間が傷ついた事を知ったら、俺たちがどう思うかお前さんは判るだろう?」

「それでも…黙っていられるなら、黙っていたかった」

あたしの言葉に、シャドウ丸はこう言った。

「もしこの事件(ヤマ)で、あんたにもしものことがあって、そのとき俺たち誰一人何も知らされてなかったらと思うとぞっとしますね」

「もしものことは考えないようにしませんか?」

この後、シャドウ丸は自分が言った言葉を思い知ることがおきるのだが。

いくら高機能な彼も、勿論、あたし自身も予想すら出来なかった。






。ごくろうさん」

そう言ったのはガンマックスだ。

ロボットの出入り口から、あたしはシャドウ丸の肩に乗ってデッカールームに到着した。

途中、総監や警視正たちにつかまって何かしらの情報操作をされてはたまったものじゃないと、シャドウ丸が言いながら、あたしの身体を掴むと肩に乗せた。

持つところがない、というかどこを持てばいいのかわからないのでとりあえず、頭のところもたせてもらう。

シャドウ丸はあたしを落とさないように人間側の机があるところまで連れて行ってくれる。

「あ、なんかシャドウ丸いいなあ」

「なにがです?」

あたしの身体を手で掴んで下ろすシャドウ丸がドリルボーイにそう返す。

「なーんか、と一緒って感じがー」

「だからドリルボーイ…女性に対してお前はなあ」

ダンプソンが何か言うと、「だってー」と、ドリルボーイはむっとした表情浮かべる。

「まったく、お前のAIは一度言われたことは覚えられないのか〜? ドリルボーイ」

「あ、それ。僕はパワージョーにだけは言われたくないよっ!」

「なんだとー」

「二人とも、静かに」と言ったのはデューク刑事だ。

刑事、ご苦労様です」

きっとりと敬礼したのはマクレーン刑事だ。

あたしはそれに敬礼で返す。

「友永警部。、報告にあがりました」

「はいっ!」

友永警部は元気よくあたしに敬礼を返す。

刑事。口頭による報告をお願いします」

デッカードの言葉にあたしは「はっ」と姿勢を正した。

仕方がない、というか。

もはやそこにはロボットだから、とか人間だから、とか。

子供だから、大人だから、という垣根はなく、そこには人々の安全を守る刑事しか出せない空気がそこにあった。





だがあたしの報告に、やっぱり友永警部はすごくショックを受けた。

被疑者(そこまでは行っていないが、重要参考人には変わりない)が殺害されたという事実は小学生にはきつすぎるのかもしれない。

「犯人、絶対絶対、捕まえないとね」

そう言うと、友永警部は固い表情のままあたしを見つめる。

「はい」

それだけあたしが言うと、友永警部はぎゅうっと拳を握り締める。

あ、まずいな。

「言っておきますが、ブレイブポリスの捜査はまだ駄目ですからね」

「ええーーーーーっ!! そうなの? デッカード?!」

「そうなんだ、勇太」

申し訳なさそうにデッカードが言う。

「犯人を刺激する可能性もありますし、あたし達も動いてますしね」

あたしがそう言うと、友永警部はすまなさそうにあたしの前に立った。

さんばっかりに捜査してもらってて、なんだかすごく悪い気がする」

「そのうち、嫌というほど働いてもらいます」

あたしの言葉に、友永警部はむうと唇を尖らせる。

「ですから………」

あたしが何か言おうとした瞬間。

ビー!ビー! ビー!

警報が鳴り響く。

「!」

『墨東三丁目にて怪ロボット出現! ブレイブポリスは至急出動せよ!』

「勇太!」

「うん! 皆! ブレイブポリス出動だ!」

「「「「「「「「了解! ボス!!」」」」」」」」

8人のロボット刑事がそういった時、あたしは悪い予感がした。

そしてその予感は的中する。

ブレイブポリスたちは、その後に、最悪の再会を果たすのだ。










2002・11・01 UP


ロボットと人間の境界線はなんですか?
身体が鋼で出来ていても、心があればそれはすでに「ヒト」なんじゃないのかな?

時折そんなことを考えてました。

久々更新ですんません(涙)

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