たまにはこんな雨宿り



『こちら。到着しました…』

『了解。ドリルボーイとそこで待機、お願いします!』

『はい』

勇太警部にそう返事をしながら、あたしは隣に立つロボット刑事を見詰めた。

オレンジ色の機体が、今日は太陽の光をうつさずに、濡れていた。

今日は雨だ。ざあざあ、という音が世界を支配している気分になる。

「じめじめして、やな天気だよねー」

小声が聞こえてきて、びっくりする。

声はドリルボーイだ。

だが聞こえたのは、通信機?

「そっ。待機中だからおっきな声、出せないでしょー? あ、は声ださないでいいよ。口の動きで僕達わかるから」

「さすが、ブレイブポリス」

あたしがそう言うと、へへん。と、彼は胸をはった。

ブレイブポリスの超AIは、成人男性の記憶と同じ概念を持っている。

以前、ガンマックスはあたしにそう言った。

だからドリルボーイにも、もちろん大人としての概念が植え付けられているはず、なのだが。

「僕は晴れた日が好きだなーv ねえ、は?」

なんて聞いてくるドリルボーイに《大人》は感じられない。

「あたしは、雨の日も好きですよ」

「今日みたいな?」

「ええ」

「どうして?」

聞く仕草も子供っぽい。

あたしはくすっと笑って言った。

本当のことを言ったらどう思うだろう?

なにをばかなことを、と思い、頭上の彼に視線を合わせた。

そして。

あたしは彼を見つめて、にーっこり笑ってやった。

「あ、すぐそうやって僕を子供扱いする。教えてくれてもいいじゃない」

溜息を一つつくと、あたしは言った。

言っても仕方がない。

彼には判ってもらえないのかも知れないのに、という気持ちも勿論ある。

けれど、なんとなく言わなくてはいけないような気がしてきた。

「……しとしと降っている雨を見ると、気分が落ち着くんですよ。…慰められるっていうか…」

「慰め?」

「…ここまで大雨だとそうは感じませんけど、まるであたしの代わりに泣いてくれているようで…」

大地に降り注ぐ、水音は心を落ち着かせてくれるときもある。

こんな、ざあざあという表現があう雨ではなくて。

さあっと霧雨のようなしっとりとした雨もいい。

あたしは、そんな事を口で言いながら、自分の持っている特殊拳銃の弾丸の確認をした。

「人間って不思議だよねぇ」

ドリルボーイがそういうので、彼を見ると、彼は一向にやまない雨を見上げながら自分の拳銃を取り出していた。

「ほら、なんていうの? 雨も雪も科学的に解明された自然現象じゃない? それなのにみたいに、『泣いてる』っていう表現する人もいるしー」

あたしは苦笑いを浮かべた。

そうかもしれない。

「そっかー。雨が代わりに泣いてくれてるかー」

そう考えると雨も悪くないかなー? と彼は言った。

「ぼくたち、ほら、泣けないじゃない?」

「…心では泣いているのに?」

あたしが囁くように言ったその言葉を、ドリルボーイのセンサーは聞き取ったらしい。

「うん」

素直に彼は頷いた。

これがシャドウ丸やパワージョー、ガンマックスだと「けっ」と素直じゃない反応を示すだろう。

ロボット刑事達は、その見かけでよく言われる言葉がある。

「ロボットの癖に」

「機械の癖に」

この言葉は、たんなる道具ではない彼らの心をえぐる言葉だ。

そんな言葉で傷つくような彼らではない、と人は思うかもしれない。

デュークやマクレーン、そしてデッカードでさえも、言葉ではそう言ってる。

けれどあたしと友永警部は気がついている。

彼らの心は、とても繊細なのだ。

ドリルボーイは、人間がそうするように額を指でかいた。

「…地球がぼくらの代わりに泣いてくれるって思ったら、そっか。雨の日も悪くはないね」

にっこり。

あたしと彼は微笑みあった。

「さーておしゃべりはこの辺、かな?」

『ドリルボーイ! さんっ! 突入っ!』

タイミングよく友永警部の号令に、あたしと彼は答えた。

「了解!」

「よーしっ動くなっ!! ブレイブポリスだぁ!!!」





仕事中に。

しかも、けっこう重要な、武器密輸グループを取り押さえるための作戦中のおしゃべり。

だけど他の同僚刑事達では絶対無理な会話に。

(たまにはこんな雨宿りもいいかも)

なんて思ったことは、他のロボット刑事達には内緒にしよう。






END



2002・06・16 UP

ドリルボーイは最初は「なーにしに出てきたー(怒)」なロボットでしたが。

妖精フェイが出てきた話以降は、いい感じに落ち着いた子になりましたよね?
(誰に聞いてるんだ、あたし)


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