「ロボット達へのバレンタイン」
「ねえ、ねえ。バレンタインって何?」
そう聞いてきたのはドリルボーイ。
ぐいっとこちら側に顔を寄せてきた。
ここは警視庁にあるロボット警察官チーム「ブレイブポリス」の部屋・デッカールーム。
わたしの名前は。このチームに一番新しく入った人間のメンバーだ。
「ねえ、」
「こら、ドリルボーイ。女性を勝手に呼び捨てにする奴があるか」
「いえ、別にかまいません。デューク先輩」
あたしはそう言うと、ロボット刑事達はかすかに口元に笑みを作る。
21世紀に入り、科学という名の知識が暴走を始めた。
ロボット犯罪や違法のバイオ研究が横行し始めたのだ。
そしてかつては考え付かないような災害も多発した。
それに対処するべく開発されたのがロボット刑事・デッカード。
彼と一人の少年の出会いによって、AIは進化をし「感情」を持つようになった。
そして彼らは『生まれた』のだ。
あたしは彼らにとっては初めての『人間』の後輩にあたる。
「ねえってば、」
「ああ、バレンタインですね」
あたしが目を見ると、ドリルボーイは嬉しそうに「うんうん」と頷いてみせる。
「俺、知ってるぜ。バレンタインって女が男に告白する日だろー?」
「もうっ。パワージョーには聞いてないようっ!」
「なんで知ってるんでありますか?」
「えみりに聞いたんだ」
なんて声が聞こえる。
えみり、というのは彼らの上司と同じクラスの女の子。
そう。
「さん、遅くなりましたっ!」
元気よくそう言いながら、あたしの、そしてロボット刑事達の上司が部屋に入ってくる。
そしてロボット側の部屋に、デッカード刑事が現れる。
「よ、ボスッ!」なんて、他のロボット刑事達が声をかけてくるのを嬉しそうに、上司は笑う。
「えへへ」
友永勇太。
階級は警部。
そして信じられなことに……小学校四年生だ。
「さん、何話してたんですか?」
「え?」
「バレンタインのことだよ、ボス」
「バレンタイン? ドリルボーイ、なんで知ってるの?」
「えっへへへ〜、七曲署の交通課の女の人たちが話してたんだ〜」
ロボット犯罪がない場合、警視庁の各部署、もしくは最寄の警察署の応援に行っているからか、彼らは自分のデータベースにない(犯罪にまったく関係ないような)情報を得るとこうして話し合っている。
「本当は男性が女性に贈り物等をするのが諸外国のやり方、なんですけどね」
あたしの言葉に友永警部が目を丸くした。
「あ、そうなの?」
「へえ、知らなかったであります」は、ダンプソン。
「ニホンぐらいなものだろう、ここまで大規模なものは」はイギリスから来たデュークが口を開いた。
「レディに聞いた話ではニホンの製菓会社が一般消費者に対して行ったイベントが、そのまま定着した、ということだったが」
「ええええっ、そうなのー?」
「なんだよ、そりゃあちょっとひどいんじゃねーか?」
なんてロボット刑事達は言い出した。
「そうでもないですよ、パワージョー先輩」
あたしの言葉にビルドチーム(パワージョー・ダンプソン・マクレーン)とドリルボーイ、そして友永警部とデッカードまでこちらを見た。
「どんな女の子でも好きな男の子に告白する勇気を貰えたんですから」
「へえ〜〜」
ガンマックスがなぜか、感心しながらあたしに近寄った。
ロボット特有の足音が部屋に響く。
「あんたもそんな顔することあるんだな〜」
「は?」
そんな顔ってどんな顔だろう? と友永警部を見ると、なぜか顔を真っ赤にしてデッカードの方を向いて視線をそらした。
「と、いうことは」
シャドウ丸がガンマックスに並んで、あたしの方に顔を寄せてきた。
「刑事も誰かにバレンタインのチョコをあげるってことですかね?」
「ひゅーっ」
ひやかすようにガンマックスが口笛を吹く。
「そ、それは…」
思わず口ごもってしまったのがまずかったらしい。
二人は一気にこっちに顔を寄せてきた。
「こらこら、二人とも悪乗りしすぎだぞ」
「そうだ」
なんて、女性にやさしいマクレーンとデュークが抑えようとするけれど、二人のにやにや笑いは収まらない。
「是非、誰に勇気の告白するのか教えていただきたいですねえ、同僚として気にかかりますから」
シャドウ丸が聞いてくるので、あたしはにっこり笑ってこう言った。
「……黙秘権を行使してもよろしいでしょうか? おふたがた」
「NO〜。もったいぶらずに教えてくれよ〜」
「もう、さんを困らしちゃだめだよっ! ガンマックス、シャドウ丸!」
「でも、いいなあ、のチョコもらえる人」
「はい?」
「だって僕達ロボットだから、貰えないじゃない?」
「それ言うなって、ドリルボーイ」
(それはどうでしょうかね)
あたしはそっと心の中だけでつぶやいた。
そして2月13日夜。
「本当によろしいんですか?」
「仕方ありませんもの。行って下さい、マクレーン先輩」
七曲署と大門署からの要請で、ロボット刑事達は大忙しだ。
最後に残っていたマクレーンも、今出かけていった。
当分、帰ってくるのは無理だろう。
「さあてと」
「行った?」
軽くノックして綾子さんが入ってきた。
「セイアさんも来たいって言ってたんだけどね〜♪」
「いやいや、もうあれ手配してくれただけでも感謝しなくちゃ。それに、来たがったのは整備班の子や、交通課の子だって来たがってたから」
「あら。じゃあ、あたしってば超ラッキー?」
ぎゅっと、あたしは手袋をはめてからにやっと笑った。
「さあ? これから肉体労働ですよ。ラッキーって言えますかい、これが」
「あんた、その口調、シャドウ丸に似てる」
「げ」
あたし達はお互い、笑いあって作業を開始した。
日付が変わってから、ようやくロボット達が帰ってくる。
「ただいま帰りました。刑事」
「お帰りなさい」
「お帰り、ダンプソン」
「あ、綾子さん、どうしてここに」
「ちょっと、女同士の用事で。ねっ!」
「女同士のって…」
規則にうるさいマクレーンとデュークが顔を見合わせる。
「あ、綾子さんだ〜。こんばんわ〜」
「はい、こんばんわ。ドリルボーイv」
見回りのシャドウ丸とガンマックス・パワージョーはまだ戻ってきていないけれど、他の警察署の応援に行っていたマクレーンとデューク、ドリルボーイとダンプソンの四人が戻ってきた。
デッカードは今夜は友永警部の家で待機している。
「まあ、今日、だし。いいわよね」
「いいんじゃないですか?」
「??」
ロボット達の目が丸くなる(本当に目を丸くしたわけじゃ、ないけれど)。
「はーい、ダンプソン。今日は何日?」
「ええっと…2月14日、であります」
「で、世間一般的には?」
「バレンタン…ですか?」
「ご名答♪」
「小さくて申し訳ありませんが」
あたしがそう言うと、綾子さんが笑った。
「あたし達とセイアさん。七曲署・大門署等の交通課の女の子達からってことで」
「ええっ、僕達にっ?!」
ドリルボーイが急いで自分の席に戻る。
「うわーーい、可愛い!」
サッカー柄が気に入ったらしい。
物は…人間大のコンテナに、特注の包装用紙で包んだ代物。
「中、開けてみてもいい? 綾子さん、」
「どうぞ」
ドリルボーイの指が、器用に紙をはがしていく。
「あら、意外。破くかと思ってたのに」
「同感」
綾子さんとそんなことを言い合ってたら、「そんなことしないよー」と、声があがる。
「だって達がくれたものなんだもん♪」
「ここまで持って、置くだけでも大変でしょうに」はマクレーン。
おのおの、机につくと、小さな(彼らに対してであって、あたし達人間に対してはかなり大きな代物)箱の、包装用紙を、器用にはがしていく。
「…これはっ……イギリスの燃料用オイル…」
デュークが声をあげ、そして添えられたカードを自分のセンサーで見る。
「レディ…」
「デュークには、スコットランドヤードに配属されている、ブレイブポリス用のオイルとレジーナちゃんからのカード、それから」
「ああ…かわいい、マスコットだ」しかもレジーナちゃんのお手製らしい。
「なくさないように、ここにおいておこう」と、デュークの指が、本当にそおっと動く。
「僕には、サッカーボールの形した入れ物で、燃料オイルっ!と、サッカー選手のサイン色紙ッ!」はドリルボーイ。
「自分には…これは防衛軍で使用されているガンシューティングのシミュレーション用ソフト…セイアさん…」
これはマクレーン。
「自分にも燃料オイルと、これは綾子さんの本…? しかし見たことがない…」
「今週発売する予定の新刊よ。サイン付きで一番にダンプソンに」
「ありがとうございます、綾子さん!」
ロボット達の目がきらきら輝いている…。
「「「ありがとうございます!」」」
「本当にありがとっ」
「パワージョーとか帰ってきたらどんな顔するかな?」
「あとシャドウ丸とガンマックスも!」
ものすごいはしゃぎっぷりに。
「この分じゃ、ホワイトデーのお返しが怖いわねぇ」
「た…確かに」
綾子さんと顔を見合わせて、そして笑いあった。
『本命の彼女には三倍返しをしなくてはいけない』
なんていう情報を、シャドウ丸が入手してブレイブポリスのロボット刑事達がパニックを起こしてしまうのは、また別のお話。
2002・02・09UP
すみません(笑)、このアニメ知ってる人少ないと思うけど。
7年前の勇者シリーズ「勇者警察ジェイデッカー」で名前変換してみました。
ってーか、ロボットとの恋愛ってーのも面白くていいよなー(え?)。
ちなみにオイラはシャドウ丸がお気に入りです。
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