たまには甘えてみませんか
ホイッスルの錬金術師/渋沢克朗/草薙様リクエスト


義姉さま、義姉さま。
ぼくね、義姉さまのことが…。







黒鷹騎士団第一部隊隊長、渋沢克朗は久しぶりの休日を満喫するために自分の家でくつろいでいた。

ホイッスル少年騎士団の隊長ともなると、大人と自分と同じぐらいの少年達の間を行ったり来たりする。

少年達の不平や不満を聞き、アドバイスを与え。

大人たちからの一方的な情報や策を考え直させるために、再度上申し、そのたびに文句や小言を言われたりたりしなければいけない。

しかしながら今日だけは、盾と剣を鍛えなおしに鍛冶屋に持っていった後、暖かな日差しのある工房の椅子に座っていた。

義姉さん…郭たちがいないようだけど?」

いつもなら義姉のにべったりとくっついている6人の義弟達が全員いないことに気がついて、渋沢は義姉自身に聞いた。

義姉の名は

本人は気がついていないようだが、街でも、そして現在は国レベルでも有名な錬金術師だ。

「もうすぐアカデミーのコンテストだからっ自分達だけできちんと採取できるかどうか確かめに行くんだって」

振り返りながら、紅茶のカップを自分に渡してくる義姉に対して渋沢は苦笑いをする。

アカデミーというのは錬金術や魔術を学ばせる国営の機関である。

当初、金におぼれた経営者の打ち出した方針によって、入学テストさえ受けさせてもらえず、また再度のテストの機会があったとしても断固としてそれを拒否していた義弟たちは、いまでは熱心な生徒だ。

生徒と言ってもアカデミーには通ってはおらず、アカデミーから許可を得た義姉、つまり目の前にいるの生徒として6人はアカデミーに所属していることになっている。

黒鷹騎士団内における初めての武闘大会が終了し、いろいろな事務処理などが終わると夏が終わりつつある。

本来ならば半年に一度のコンテストだったのだが、今年からは一年に一度となった。

これも武闘大会の余波らしい。

生徒も教師も熱中のあまり学業に影響が出るということで、貴族サイドからの要請にしぶしぶアカデミー側が折れたのだ。

一年に一度になってしまったコンテストは、その変わり去年よりも難しいものに変わったらしい。

コンテストは進級テストも兼ねてあるという噂はどうやら事実だったようだ、と渋沢は思う。

以前ならば金を積めば進級できたかもしれないが現在のアカデミーの学院長・尾崎はそういう類のものが大嫌いなのでいくら金が唸るようにある者もこのときばかりは実力が試されるので必死になっている。

「義姉さんから見て充分コンテスト上位を狙えるぐらいなんだろう?」

渋沢は一口、紅茶を飲むと傍にあったテーブルにそれを置いた。

「別に成績に関してあたしは何も言わない。ただいつもどおりに頑張ってくれればいいだけなんだけど」

渋沢は義弟たちの考えを見抜いていた。

錬金術師として有名な義姉の名前に傷がつくような成績をとっては、義姉に対して申し訳ない。

そう考えたのだろう。

「ちょっと頑張りすぎてないか、心配なんだけど…」

「採取、なら冒険者がついているのかい? 黒川?」

「ええ。柾樹くんと直樹くん、それから天城さん」

天城、というのは最近になってとなりの教会に住み着いた少年だ。

鋭い眼光を放つこともある彼は、正直得体の知れないときがあるが柾樹の話によれば腕は確かで。

なぜか風祭や小岩たちがなついていた。

渋沢は自分でも知らずに目を細める。

今のところ、なにもしていないが…と彼が考えていたとき、柔らかい、優しい感触が頬に触る。

「克朗くん?」

「あ……」

「難しい顔をして、どうしたの?」

頬を両手で包まれて、渋沢は心臓が激しく動き出すのを自覚する。

ここのところずっと6人の義弟達との交流が増えてきたせいか、は渋沢や、すぐ下の藤代、笠井、黒川の三人のことも小さな子供と接するようにスキンシップが多くなっていた。

「克朗くんは今日はお休みでしょう?」

「は、はい」

素直に頷き、そして今の状況を思い出して渋沢は顔を赤くした。

二人っきり。

そう、愛してやまない義姉と、この工房という優しい空間において。

「だったらちゃんと、お休みしなくちゃ」

そんな難しい顔しないで。

そう言いながら、は渋沢の額に指をやる。

「眉間にずっと皺がよっちゃうぞ」

くすくす笑いながら言うに、渋沢は彼女の手を優しく掴んで、むっとする。

「大丈夫だよ」

ちょっと拗ねたような渋沢の声に、は「はいはい」とだけ言った。

「一馬君たちのことも心配だけど、克朗くんも心配…」

「どうして?」

「気の抜き方、知らないでしょう? 克朗くん」

大人びた義姉の表情に、渋沢は彼女の手を掴んだまま動きを止めた。

「一生懸命なのは判る。立場的にも重要な地位にいるもの。だけどね、克朗くん」

ここは、貴方が勤めているお城ではないの。

言い含めるように、自分の目を見て言う義姉。

まだ、義姉の年齢はたかだか16。

たった一つしか上でないのにも関わらず、彼女は彼よりも大人の世界とそれに対する傾向と対策を実践してきた経験者としてそこに立っている。

「だから……」

はまた優しく微笑む。



「たまには甘えてみませんか?」



おどけたように言うに、渋沢は絶句し、そしてくつくつと肩を震わせる。

「何、笑ってるの」

「…初めて言われた。そんな言葉」

「向こうの友達にね、あたしも最初は言われたの。ほら、克朗くんも会ったことあるでしょう? あたしの荷物を持ってきてくれた彼女」

隣国にいたころのの荷物一式をきっかりまとめた女傑の顔を思い出した。

勝気そうな少女だった。

「そう。あの子に「あんた余裕なさすぎよ」って。それから「あたしに甘えてみな!」ってね」

「……」

渋沢はの指にキスをすると、ぐいっとひっぱる。

「っ!」

の柔らかな身体を抱きしめる。

ちょうど、の胸の辺りに頬を寄せる形になってしまうが彼女自身が抵抗していないので渋沢はそのままの身体を腕の中に閉じ込めた。

彼女が余裕を無くしたのは、自分の父のせい。

正直、あんな男を父だと認めたくはないが事実は事実だ。

父が義姉を、売る真似さえしなければ。

父が人としての道徳観を持った人間であったなら、彼女はそんな苦労はしなくてすんだのだ。

「克朗くん?」

ふいに幼いころの義姉の姿を追いかける自分を思い出す。

突然できた義姉は優しかった。

突然できた義姉は母に敬意を払ってくれた。

その彼女がいなくなった、あの喪失感は二度と味わいたくない。

渋沢は涙がうっすら浮かびそうになって、ぐっとこらえた。


「克朗くん?」


義姉さま、義姉さま。
ぼくね、義姉さまのことが…。


幼いころ言いかけた言葉が口に出そうになったが、渋沢はそれを飲み込んだ。


「克朗くん?」

三度、名前を呼ばれ、渋沢は彼女の胸から顔をあげる。


義姉さま」

昔の呼び方。

「甘えてもいいんでしょう?」


渋沢は、子供のような笑みをに向けた。



その日の休日は、渋沢にとって一番いい休日となったらしい。







「ああああっ、キャプテンなにやってんすかーーーー!!」

藤代たちが帰ってくる、小一時間程度まで。







END?






2001・11・12 UP

本編から時間がたってます。
天城君(名前のみ)が出張ってますから(苦笑)。彼とのエピソードはそのうち本編にて!
しかし本編がここまでくるのはいったいいつになることやら(おい)。
渋沢君メインと言うのでこんな感じになりましたがいかがだったでしょうか?



草薙様、リクエストありがとうございました〜♪



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