お手をどうぞ
ホイッスルの錬金術師/椎名翼/王国主催公式行事で一緒にダンスを/凛様リクエスト
「来てくれるわよね?」
全ては西園寺女王陛下のこの言葉から始まった。
がホイッスルに帰国して、もうすぐ1年が経とうとしていた。
その間、彼女と彼女の愛すべき義弟たちの周囲は変化していった。
ホイッスル初のトーナメント(武闘大会)ではは武器・武具の合成もできる錬金術師としても国内外に名声を高め、彼女の教え子であると言う義弟たちも注目された。
元来、自分のことを高く評価しない彼女なのだが、周囲の人間達は放ってはおかなかった。
アイテムの斡旋を頼む松下左右十や武器屋を営んでいるおやっさんなどはひっきりなしに来る彼女とその義弟達に来る依頼を選別し、割り振り、スケジュールを立ててやるほどだ。
中には彼らを飛び越して、直談判で仕事を依頼しようとする貴族達もいるようだが。
何はともあれ錬金術師としての彼女達の名声は、いまや国家レベルになり、この度彼女と義弟代表で渋沢克朗の二人が近隣諸国の代表が揃うという女王在位4周年記念パーティに招待されることになった。
「本当なら、3周年とすべきなんだろうけれどね」
と、言ったのは椎名翼だ。
改革の嵐を吹き呼びために、最初の一年と少しは傀儡に見せかけて誰が敵か味方かを見分けていたので、実質彼女とその側近達がまともに国を動かしだした(少なくとも表立って)のはここつい最近のことだ。
本来ならばこう言った公式行事に一介の、というか下級貴族の身分しかない人間が招待されること自体異例のことで。
「女王陛下…」
にっこりと微笑みながらなんとか断ろうとするに対し、女王陛下は優しく笑みを見せてそれを拒絶する。
「あたしのお願い、聞いてくれないの? 」
(……陛下……)(涙)
それからにとって大忙しの毎日となった。
社交ダンスなぞしたことがない上に、そういう場面にふさわしいドレスの一枚もない。
まずこの話を聞いた義弟達は俄然張り切りだした。
「ドレスは俺達が作るんだよね? ヨンサ」
「え。そうなのか?」
「でも俺裁縫とかしたことないんだけど、ヨンサ」
「俺達で作るのは当然でしょ。っていうか、何当然のごとくまだ君達がここにいるのか俺には不思議だね」
「「「ヨンサ、冷たい」」」
最近になって押しかけ(?)義弟になった、元二代目『怪盗デア・ヒメル』李潤慶と、彼の仲間である崔仁勲と金道漢の三人が国宝虫の糸を揃える将たちの手伝いながらよよよ、と泣きまねをする。
次に張り切ったのがの客として来て以来、仲の良い友人となった女騎士・小島有希と彼女のことは一方的にライバル視するが、のことを姉のように慕っている上条麻衣子だった。
「さ、採寸するから計らせてね。」
「様。色としては何がお好きです?」
大貴族の娘達が自らの手で、まるで使用人のように働いていく。
「ちょっと小島さん? その色はお姉さまには合わなくってよ」
「え? そう? こういう髪飾りと揃えるとどう?」
「あー。もうっ。そんな大げさな飾りではなくって!」
本人そっち抜けでヒートバトルをする彼女たちの隣では、彼女達の使用人たちがドレスのカタログを広げ、こと細かく義弟達に最新のファッション事情と流行の色を教えていく。
そしてドレスと装飾がなんとかなると、次にダンスの即席レッスンをは受けることになった。
何せ女王陛下の〜と名前がつく以上、そこは外交の場になるのだ。
そこで失敗するのは、女王の顔に泥を塗る形になる。
なので、貴族の血を引き、少なくとも今までそういう場面に出くわしたことがある水野竜也、渋沢克朗、そして隣の教会の神父・須釜寿樹に天城燎一までもが借り出されてのレッスンになった。
そしてどうにか形になったその日。
渋沢克朗の背中に隠れるように、はその場所にいた。
名のある宮廷音楽家達が延々と曲を弾き、外交官達はにこやかに笑みを見せながらもお互いの本音を隠して情報のやるとりを始めていた。
「義姉、さん?」
「ごめんね。克朗くん…」
騎士の礼服に包まれた渋沢は、耳を赤くしながら義姉を見下ろす。
短い髪を隠すために、少しボリュームのある髪飾りで、まるで髪を結い上げているように見せ。
いつもはここまでしない化粧を今回はしっかりとしている。
ドレスは淡い色を基調としたもので、義弟と友人達が必死になって仕上げたものは彼女をはかない精霊のように思わせる。
胸元には、柾樹と一馬が他の冒険者達と一緒に採取した石を元に作った首飾りが光っており、どこから見ても良家のお嬢さんに見える。
先ほど、女王陛下からのお言葉をいただき、諸外国の各外交官にも紹介されたのだが、その外交官の息子達に質問攻めにされ、有希と麻衣子の二人が助け出さなければ、あやうく彼らの中の誰かに別室に連れて行かれていただろう。
義弟達や有希たちの応援を背に来たのだから、頑張らねばと来たは、すっかり萎縮してしまっていた。
「この分だと、踊らなくてもすむかもね」
渋沢は落ち着かせるようにに言うのだが。
だが。
そうは問屋がおろさなかったのである。
「」
そう呼ばれ、と渋沢はそちらに目を向けた。
白を基調とした礼服を着た椎名翼は、にやりと人の悪い笑みを浮かべていた。
「何隠れてるんだよ」
「え…」
「椎名…そ、その義姉さんは…」
「渋沢もいいかげん、義姉ばなれしたら? ああ。ちょうどいいや」
ちらりと椎名は横を見つめた。しっとりとにこやかに女性が一人やってくる。
手をとっているのは尾形。
と、いうことは。
「女王陛下……」
「渋沢君。踊ってくれるかしら?」
にこやかにそういわれれば、断れない。
渋沢はうやうやしく一礼すると、彼女の手をとった。
「翼。貸し一よ」
「はいはい」
椎名は呆然となると一緒に彼らを見送る。
ホールが一瞬ざわついた。
この国の女王が、聖騎士候補と噂される少年騎士を伴って踊っているからだ。
「さあ。俺達も行こうか」
椎名は有無をも言わさずに手を差し出す。
「し、椎名、様」
「義弟たちの努力を無駄にするつもりは、当然ないよな? 」
「あんたダンスの練習もしたんだったよな? ここで一度も踊らなかったら何言われるか判ってる? それに、あんたそんなに臆病だったっけ」
の頬が赤くなる。
むっとした表情が一瞬、浮かぶのを椎名は見逃さない。
「怒った? 図星さされて」
さあ、どうする? この手をとるか。そのまま臆病者のままでいるか。
「お手をどうぞ」
おどけたように言う椎名に対して、は優雅にその手を乗せた。
「OK。いい度胸」
「臆病だっていうのは取り消してくださいね」
「判ったよ。じゃあ、次のステップは、俺と踊ること。練習の成果を見せてもらうよ」
こくんと頷くに、満足そうに椎名は笑う。
意外に優しいリードに支えられながら、はきちんと踊ったのである。
「へえ、上手い」
「ありがとうございます」
「先生が良かったんだろうね」
「あたしもそう思います」
「でも、それをきちんとこの場で披露できる生徒も優秀だよ」
柔らかく、優しい笑みには一瞬見ほれる。
「これはご褒美をあげなきゃね」
「ご褒美?」
褒美として、ラストに彼女は宰相閣下のキスを頬に受けることになる。
その夜から。
「椎名翼に恋人ができた」
などの噂が飛び交い、義弟達の機嫌がMAXに悪くなるのは、また別の話としよう。
END?
2001・11・16 UP
本編からだいぶ時間がたちました。
韓国チームが義弟(押しかけ)になってますから(苦笑)
彼らのエピソードは本編にて必ず作成します。が、いつになることやら>またかよ。
一応、椎名くんメインですがなぜか彼らが出張ってますな(汗)。
あと口調が…(涙)
こ、こんなんでいかがだったですか…。
凛様リクエストありがとうございました〜♪
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