お願い、『好き』にさせないで。
君に伝えたい、この想いを。
Q:お互いのことを想っているのに、どうして空回りするんですか?

A:一つ、大事なことが足らないからです。




「あんた、バカ?」
休憩時間に友達のアキにそう言われて、杉田は捨てられた子犬のような瞳を友達に向けた。
「そういう目で見ないでよ」
すごく悪いことしてる気がするわ、とアキは持っていたカフェオレを一気に飲んだ。
「確かに新井君は二股かけてたかもしれないけど、もしかしたら本気だったかもしれないじゃい」
「……」
「だーかーらーーっ」
うがあっとアキは吠えた。
「あんた、こういうことには臆病よねっ」
「うう……否定しません…」
は机に突っ伏した。
「ま、はっきり言わない向こうも悪いけど」
「…もう、終ったんだから、いいよね?」
彼女に悪い、とはっきり言ったし。
もう、電話もなにもなくなるだろう。

「なあに?」
「鏡、見る?」
あんた、泣きそうな顔してる。
そう言われて、は笑おうとした。
少なくとも、その努力はした。


放課後。
は重い気分のまま帰り支度をする。
「しかたない、あたしがエスプレッソフラペチーノ奢ってあげるから」
元気を出して。
そう、励ましてくれるアキの気持ちがありがたい。
「うん」
二人が教室を出た時に、女の子達がえらく騒いでいるのに気がついた。
「誰か待ってるのかな?」
「かっこいー♪」
「この学校にも彼女がいるってこと?」
「かもね」
などの声がアキとの周りを素通りしていく。
「あ、アキちゃん……」
「別に逃げるこたあないのよ、あんたが」
誰が待っているか。
誰がそこに立っているかが二人には予想できた。
が、会いたくてそれでも会いたくない人。
そう。
「待ってたんだ。……ちゃん」
新井透吾がバイクに寄りかかりながら、そこに待っていた。
「ちょっと話があるんだけど」
「ここじゃ…駄目?」
「俺はそっちの方がいいけど、あとで君に恨まれるのも嫌だしな」
きっぱり言われて、は少し泣きそうな顔を親友に見せた。
「いい機会だから、はっきりしてくれば」
「う、うん」
「なら、いいよな」
の手をとると、新井はバイクの後に彼女を座らせて、そして。
「しっかりつかまっててくれ」
いつもよりかすれた言葉をかけると、バイクを走らせた。




「あ、の。話って何?」
連れてこられたのは夕暮れの遊園地。
しかも観覧車の中で二人きりに、少し、いやかなりは緊張していた。
「うん」
沈みかけた太陽の光が、新井の表情を隠した。
「……好きだ……」
「?!」
びくりと、は身体を震わせた。
「やだ、あの新井君…」
「俺には、今付き合ってる彼女はいない」
「うそ…」
「嘘じゃないさ。と、俺が言っても信用ない?」
「……」
「………君のことが好きだから、ちゃんと別れた。もう大分前に」
「わ、別れちゃったの…?」
「本当に好きな子が出来たんだぜ? なのに他の女と会ってる時間なんて作れねぇよ」
「新井君…」
「もう一度、言おうか?」
新井は立ち上がる。
は目を伏せた。
恥ずかしいのと、嬉しいのが彼女の視線を新井からそらさせる。
肩がつかまれ、またびくんと震えてしまう。
怖いのではない。
けして。
「好きだ」
耳元で、囁くように言われて。
「あ、新井君」
思い切って、目を合わせる。
「あたしも」
臆病で、びくびくしていた自分には勇気を持たせた。
「…好き」
「前言撤回、しねぇよな」
「う、うん」
かあっと頬を染める彼女は頷いて、そして小声で言った。
「あたし、新井君に会えててすごく嬉しかった。けど、彼女さんがいる人なら、諦めなきゃって。好きになってもきっと駄目だって」
「俺も君に会うのがすごく楽しみで、いつ俺の気持ちに気がついてくれるんだろうとか思ってた」
けど、やっぱちゃんと言わなきゃ伝わらないよな。
そう呟くと、新井はにっと笑った。
「本当は、ずっとこれがしたかったんだって言ったら、俺のこと嫌いになる?」
「え……?」
新井は軽く、その唇をの唇に触れさせた。
「あら、い、くん」
「透吾でいい」
掠めるようなその口付けは一度じゃない。
何度も何度も繰り返すキス。


「好き」
その一言が、彼と彼女を結びつける、たった一つの魔法の言葉。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

後日談


「なんで未希麿にだけ携帯電話の番号、教えてるわけ?」
「え?……未希麿君だけじゃないよ…」
「…………」
「中本君にも…聞かれたから………」
「ふうううううううん」
「あ、新井君?」
「(あいつら…)…」
「どうしたの? 新井くん?」
…他の誰にもやらないからな」
「へ?」
「まず手始めに今日は帰したくなくなったって言ったら、困るかな?」

2001・09・03 UP

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