コックとが話をしてるのを視界に入れてしまい、ゾロは今日一日の自分の感情が『不機嫌』になるのを確信した。
いつのまにか風のように仲間の中に入ってきた彼女は、今時、というかかなりウブなお子様。の、くせして銃を撃たせたら偶然の確率がかなり高いウソップよりも上手い。
それになかなか綺麗な声で歌っていたので、ルフィが「音楽家v」とか言って半ば無理やり仲間にした彼女は当初足手まといになるかと思っていたがそうでもなく。
戦闘ではナミの横で援護射撃をする、いいコンビと化していた。
そんな彼女のことが最近、気になりだしたのは。
(あのくそコックのせいだ)
ゾロはそう考えている。
修行のときは集中のし過ぎでがどうしようと。
そう、ルフィやチョッパーと歌っていようが、ウソップと大砲の手入れをしていようが、ナミとビビの三人で如何様ポーカーのやり方講座を開いていようが気にならない。
だが。
(どうもあのくそコックと二人でいるときはなんかむかつく)
ゾロの脳内ではしっかりくそコックで定着しているサンジとは仲良さげに談笑をかましてくれていたりする。
そうすると自分でもなんでこんなにイラついてるのか判らないぐらいにいらいらする。
「お前、修行すんなよ! まだ包帯とれねえ状態なのわかんねーのかよ!」
チョッパーにそう注意されても聞かない修行を再開して、イラつく自分を押さえ込むがどうも上手くいかない。
「おいこらくそコック」
「なんだよ、今、『俺の』ちゃんと献立考えてんだから邪魔すんなよな」
俺の、の部分をやけに強調するサンジにゾロの眉がぴくんと上がった。
「いつからはてめえのもんになったんだよ」
「そーですよ、サンジさん!」
顔を紅くしながらが抗議の声を上げる。
その彼女に優しい声音でこういい切った。
「もうちゃんと出会う前から」
ゾロの目の前でサンジはそう言いきると、その手を、指をの頬のラインを触ろうとする。
それが判って、ゾロはとっさにサンジを殴り倒した。
「!」
「〜っ、てめえが悪いっ! に手ぇだすんじゃねーーっ!!」
そう怒鳴ると、の手を取ってずんずんと誰もいない船の後部甲板に連れて行く。
「ゾロ、さん?」
「バカかてめえは」
「っ! バカじゃありませんよ!」
「いいや、バカだ。あの女好きの側にべったり張り付きやがって」
もう少し危機感てなもんを持て! そう言われては眉根を寄せた。
「なんですかそれ? サンジさんは仲間なんですよ?
あたしに危害を加えるようなことするわけないじゃないですか」
「あ〜? 俺が言ってんのは仲間とかんなレベルじゃねえよ」
そう自分で言って。
今更ながらにゾロは自覚する。
口にしようとした言葉はこうだ。
「あいつは男でお前は女なんだぞ」もしくは「襲われでもしたらどうすんだ?」
顔が瞬間的に赤くなったが、すぐにそれを押し隠した。
(いらついてたのは、他の男とべたべたするのが嫌なわけで)
(それはつまり)
(俺はこいつのことが)
結論が、すとんと頭から身体に落ちて、かあっと血が燃え上がる。
「ゾロさん?」
「おめえはほっとけねえから、だから」
ゾロは思い切って口にした。
「俺の側にいろ。俺が守ってやっから」
だからサンジの側によるんじゃねえ。
ゾロの言い分に、は?マークを飛ばしながらもこくこくと頷いた。
「やああっと言ったわね、あのバカ」
くっくっく、と人の悪そうな笑みを浮かべてナミは新聞をばさりと広げた。
「ナミさ〜〜ん、この傷心を慰めてくださ〜〜い」
「なんて言ってるけどめげてないんでしょ?
サンジくんv」
ビビが紅茶を堪能してから笑いかけると、戦うコックさんはにっと笑った。
「当然。あんなもん告白のうちに入りませんて」
「あー? なんの話だ〜?」
「ウソップとルフィとチョッパーには関係ない大人のお話v」
ナミの言葉に「はあ?」と言われた三人達は首を同じ方向にかしげた。
「でも上手くいくかしら…? 焼きもち大作戦」
焼きもち大作戦?
ビビのこの言葉に、ウソップはぴんと来て溜息をつく。
ゾロの様子が変なのに気が付いたのは、何を隠そうナミとウソップで、彼自身はまあ当人同士の問題だし無関心だったので何もしなかったのだがナミはそうはいかなかった。
男ならはっきり自覚させてやろうという、大変ありがた迷惑な計画を練ったようだ。
ナミからしてみればおそらく暇つぶしだし、このことでくっつくなりすれば今後の仲間関係において自分の上位は不動のものになるという損得勘定に他ならないだろうが、この話にビビとサンジが乗ったのがいまいち判らない。
ウソップの予想としてはビビは純粋にのことが好きで、彼女にMrブシドーが好意を寄せていることを大変微笑ましく思い、半ば姉のような心境で手を貸している気がする。
反対にサンジはゾロの気持ちは知ったことではないが、に公然とセクハラまがいなことをしてもナミが怒らないというこの美味しい状況を逃すことができずにいるんだろう。
…どっちにしろ、ゾロの立場を考えてみれば余計なお世話であろうが。
「ルフィ、あんたのことどーいうレベルで好きなの?」と、ナミがそんなことを聞いている。
海賊王(未来の)の言葉はこうだった。
「ん? 一緒にいて楽しいしよ〜。皆と同じぐらいだけど」
ならば恋愛感情ではない。
「よし、あんたも仲間に入れたげるわ」
「なんの?」
「ゾロを(無理やり)幸せにしてやろう計画よ」
「…なんの話だ?」
「はぁ。…お前らほどほどにな、ほどほどに」
ウソップは溜息をまたつき、チョッパーは小首をかしげた。
この調子だとまだ《ゾロを(無理やり)幸せにしてやろう計画》は続きがありそうだ。
はっきり言って当人からしてみれば余計な御世話な計画ではある。
とりあえず、こちらの話に全く気がついていない剣豪に多少とも同情を寄せながら、ウソップは空を見上げた。
澄み切った青い青い空。
白い雲。
照りつける太陽に爽やかな風。
とにもかくにも、麦わら海賊団は平和です。
2002・05・10 UP