これ以上、マネだけを増やしてどうするよ、とか思ったが、なかなか動くし気が利くしでいつの間にやら最初からいるような奴。

ただ見た笑顔がオレの気に障った。

とってつけた、とかそう言うんじゃない。

元気が無いのに無理して笑ってんじゃねーとか思ったけど、そうでもない。

けどなんかうそっぽくて。

「あの子、彼氏と別れたの」

そう聞いてなんか納得して……無性に腹が立つ自分に気がついた。





LET IT GO!
〜明日はきっと雨〜






「お疲れー」

「うーすっ」

今日の部活が終わった。

まともな指導者がいねえから(龍子ちゃんは剣道だしなー)、一日一日を自分らで考えねえとやってけないのが他のガッコとは違う。

中学時代はそこそこ強かった俺らだけど、高校に入ったらそうはいかねえ。

他のガッコは2・3年がレギュラーで俺らはまだ1年の、いってみりゃあぺーぺーだからだ。

この間の地区予選じゃあ団体戦でいいとこまでいったけど、それでもあの結果は悔しいもんで。

今日も今日とて少しハードな練習を終えると、さっさと帰ろうと着替えた矢先だった。

、何してんだ?」

「何してんだ? じゃないでしょ。見れば判るでしょ、掃除」

雑巾で、わりかしきれいに拭き掃除をしながら杉に答えてるのを横で聞く。

「剣道部の人からも頼まれてさあ」

はそう言って、気がついたように手のひらをひらひらさせた。

「あ、もう遅いよ。早く帰りなよ。疲れてるんでしょ?」

「え、俺らも掃除して行こうか?」

「いいよ、巧くん。掃除はローテーションでマネがすることに決めてるから。それにすぐ終わるしさ」

今日はあたしなの、とはそう言うとさっさと帰れという仕草をする。

見ると、海老塚は荷物をまとめにかかってるし。(なんか言いたそうな顔してるが)

近藤は塾で今日はきてなかったんだっけか。

杉は「なら任せるか。遅くなるなよ」なんて言いながら、カギ手渡してるし。

……仕方ねえなあ。

「ミッタン、先に帰れよ」

「え…、あ、うん。茂は?」

「ちっと教室に忘れもん」

俺はそう行って、教室の方に足を向けた…フリをした。

のことが気になるってえわけじゃねえ。

好きとか嫌いとか、恋愛感情があるわけじゃねえ。

だって俺の好みは袴田さんみたいなショートの美人………。

……いや、だってショートだけどよ。

ただ、へらへら笑ってんのが気に障るだけだ。

心じゃ笑ってねえ、あの薄っぺらな笑いがむかつくだけ。







15分くらいして、道場に戻るとまだは掃除をしてた。

「あれ? 帰ったんじゃないの?」

「忘れもん取りに行っただけだ」

「そうなの?」

うそだけど。

手馴れたしぐさでは雑巾を綺麗に絞る。

「終わんねえのか? 掃除」

「いやあー、はまるとなかなか掃除も楽しいよー?」

「はー?」

こいつ、いっつもそうだよなぁ。

文化祭の俺らが着たドレス(※演目:シンデレラ。柔道部のミッタンがシンデレラで、杉は継母、宮崎は義姉を演じた…もちろん、女装で…)作ったのも、ほとんどだったし。

のめりこむと抜けきれない奴で。

夏休み合宿のスケジュールもこいつと杉が学校側と交渉したって龍子ちゃん言ってたから、頭もそこそこいい奴で。

だけどなあ。

「まー、適当にしとけよ」

「うーん」

返事なのか唸ってんのかよく判んねえ声をあげて、は俺のほうを見向きもしないでもくもくと掃除をこなしてる。

…まあ、別にいいけどよ。

俺は縁側に座ると、持ってきた漫画本を開いた。

しばらくすると「よしっ」とか言って、が立ち上がった気配がして、俺は漫画を閉じる。

「ありゃ、まだ帰ってないの?」

「おー…って終わったか?」

「うん。後片付けしたら終わり。あと、そこも閉めるよ」

「俺がしめとくから、お前、さっさと片付けろよ」

そう言って、俺が立ち上がると不思議そうに俺を見る。

「あ? なんだよ」

「いや、いや。なんも…ありがとね」

慌てて雑巾やらを片付けに行くの背中を見て、舌打ちする。

むかつく笑顔でありがとうなんざ、聞くもんじゃねえな。







掃除が終わって、戸締りも終わって、カギを職員室に返しにいくと星が見えた。

結構、いい時間だもんなあ。

「じゃあね、宮崎くん」

「ちょっと待て」

俺はを呼び止めると、腕をつかむ。

「?」

「送ってやる。来い」

それだけ俺が言うと、はまたびっくりした間抜けた面をした。







「すごいすごいすごーい! 宮崎くん、早いねーっ!」

「ってーか、お前、重いぞ! ダイエットしろ、でぶ子!」

「ひっどーーーいっ! 宮崎くんよりは軽いよ、あたしはっ」

「んなの当たり前だ。俺よりあったら後ろに乗せてねえ! お前にこがしとるわっ」

を後ろにのせて、俺は自転車をこぐ。

まあ、ウェイトトレーニングと思えば、そうつらくない。

「…たっく。ちゃんとつかまっとけよ」

「うんっ!」

ぎゅっと俺の制服を掴んでくるこいつは非力で(女だから当然かもしんねえけどよ)やっぱ男の俺らとは違うよな、とか思ってしまう。

…って、俺は別にこいつのことなんかなんとも思ってねえってーの。

坂道をどうにか登りきると、ちゃちい公園が見えた。

あそこにすっか。

「お前ん家、もうすぐだよな」

「うん、そうだよ」

「ちと一休みすんぞ」

俺はチャリを公園のそばで止めた。






「ありがとーv そしておつかれーv」

「おー」

自動販売機で買ってきたポカリをもらう。

公園の外灯は明かりがついていて、けっこうな時間だ。

「遅くなっても平気なんか?」

「あ、うち……そこんとこはオッケーだから」

今の間はなんだ。

今の間は。

「ふーん」

「でも驚いたなー。まさか宮崎くんが送ってくれるとは思ってなかったよ」

「俺もお前を送る羽目になるたぁ思ってなかったぜ」

「へ?」

ポカリのプルトップを明けると、一口飲む。

「皆の前で言うと、杉やらミッタンがからかうからな」

俺も傍で見てたら、ぜってーからかう。

まったくの第三者だったら。

まさか俺がそんな立場になるたあ思ってなかったのは本当だ。

だけど、言わなきゃ、こいつの笑顔はうざいまんまだしな。

そんな面見ながら練習したって俺らがしんどいだけだっつうの。

だから、俺は思い切って言った。

「お前、泣きそうな面で毎回毎回、笑ってんじゃねーよ」

「っ?」

の動きが止まった。

「…泣きそう…?」

「気がついてなかったんか?」

「…うん」

「だろうな」

ポカリの一気飲みをすると、ゴミ箱に空き缶を捨てる。

「お前、他人の相談事にはのっけど自分の相談はしねえだろ」

「…うん」

「だから海老塚たちがやきもきしてた」

「うっそ」

「マジ」

そっかー、とか呟いて、はまた、ポカリに口をつける。

「たいしたこと、ないんだけどね」

「たいしたことあるだろ」

俺が即答すると、はまた間抜けた面をする。

「…みやざき、くん?」

「たいしたこと、あるだろ」

そう言ってやるとは、ポカリの缶で顔を隠した。

「知ってる……のかなあ?」

何を、とかは言わなかった。

けれど、俺は「おう」と答えてやる。

お前が中学から付き合ってた男と別れたことなんか、とっくにあいつら知ってるぞ。

なんて口には出さなかったけど、伝わったらしい。

するとの顔が、変わった。

泣く、よな。

やっぱり。

「あー……胸は貸さねえぞ」

俺は先にに言う。

女の涙は苦手だしよ。

なんつうか、恥ずかしいから。

「代わりに背中、貸してやる」

俺はに背を向けた。

だから、ここで思う存分泣いちまえ。

あんな笑い顔見せるんじゃなくて、もう、ふっきっちまえ。

そう指すと、ぽすっと、素直には俺の肩に額を寄せた。

「明日はっ……雨だねっ……宮崎くんがあたしに優しいからっ…」

泣きながら言う、の言葉に、なんか照れる。

「なにを言うか、俺は女には優しいんだよ」

「いっつもっは、違うくせにっ」

「お前も一応は属性『女』だからよ、今は」

「今だけなのっ?…っ」

「おう」

そう俺が言うと、はただ声を押し殺して泣いた。

こいつと付き合ってた男は知ってるんだろうか。

こいつがこんなに泣いてることを。

普段どおり見せてるだけで、目の下は少しクマつくってたり、笑顔のあとに、ふっと悲しそうな顔してることに。

…なんか、むかつく。

町の中であったらぼこぼこにしてやっかなってぐらいむかつく。(顔も名前も知らないけど)


「うー、もういいよ。ありがと。宮崎くん」

制服、濡れちゃってたらごめん、とか言いながらしばらくしては顔をあげた。

「ふっきれたか?」

「わかんないけど、けど、もう平気」

「そーかよ」

「でも明日、絶対、雨だと思うよ。宮崎くん」

まだ言うか、この女。

「なんだとぉ」

少しすごんで見せても、は平気な顔をする。

「A定食賭けていいよ」

「おしっ」

「………本当ありがとね、宮崎くん」

そう言った、は。

今まで見た中で一番可愛い、それから柄にもなく俺がどきっとする笑顔だった。








次の日。

お約束のように大雨になって。

「慣れないことすっからだぜ、茂」

「そうだぜ、どうしてくれんだよ。宮崎ー」

「お前ら、つけてきやがったなあ!!」

朝練のときに、さんざん俺だけからかわれてしまったあげく、に飯までおごる羽目になったのは別の話。
















2002・09・08 UP


宮崎くんで初夢しました(笑)。好きなんですよ、このお猿さんが。
本当は会場にて女の子にチェックしたあと、アタックかましたりするけど。
きっと本命の女の子には不器用なんじゃないかなーとか思ったりしてます。




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