LET IT GO!

〜答え合わせはいつになるやら〜



「だから、この公式をここにあてはめんだろ? だったらなんで答えが違うんだよ」

「足し算と引き算を間違えてんだよ、宮崎くんは」

の指先が、宮崎のノートの上を指した。

「ここのとこで」

「あー…そっかそっか」

宮崎はようやく納得したのか、もう一度ノートの上を視線でたどる。

「畳の上じゃあんなに駆け引きすごいのに、普段だとまったく違うよねー」

「柔道やってるときは考えてやってっからなー…って、お前、普段は俺のことバカだとでも思ってんのか!」

「小テスト…5点以下なんて初めて見た」

「ぐっ…そーいうお前はどーなんだよっ!」

「こないだの中間、学年10位以内。小テスト当然90点」

「くそー優等生めーっ!!」

聞くんじゃなかったーっ! ちくしょーっ! 

そう叫びながら、ノートで顔を隠す。

そんな宮崎を見ながらは笑う。

「早くしないと練習時間なくなっちゃうよ? あたしももう少ししたら日直の仕事終わるし、行っちゃうよ?」

「え、ちと待て。あとこの問題3つ教えてからにしろよ」

「残り全部かよっ!」と言いながら黒板消しをクリーナーにかける。

数学の小テストは担任の龍子先生(柔道部顧問:剣道2段)の抜き打ちだった。

柔道部の面々もぶーぶー言いながらもそのテストを同じく受け、龍子先生が言った点数以上の結果を出した。

だがしかし、宮崎だけがかなり低い点数をとってしまい、居残りで問題を出されてしまったのだ。

いくら顧問をしている部活の人間だからといって、甘い顔はしない。

それに数学教師として担任を受け持っている以上、数学テストの平均点を一番下げている生徒の存在を見過ごすわけには行かなかった。

宮崎としてはさっさと終わらせて、部活の練習に行きたかったのだが龍子先生の「間違えてたら…判ってるんでしょうね」という迫力ある凄みに負けてしまった。

ならばサボるか、とか思ったのだが、やはり先生は許さないだろうし問題は残ったままだ。

それに部活にも出たい。

しんどいことは嫌いだが、自分が皆に負けるようなことがあるのは嫌だった。

なのでまじめに机に向かってたりするのだが。

判らない。

まったく持ってわからない。

部活に行く杉や斉藤や三溝に「教えろ」とすごんでみせてヒントはかろうじてもらったが、判らない。

「ちっくしょー。だいたいなんで今回に限って海老塚や巧はオッケーなんだよ」

「桜子はちょうどあたしと期末テストの予想してた最中だったから、まだ覚えたんだよ。ちょうどそのあたり二人して覚えようとしてたから。巧くんは巧くんで保奈美にちょうどそこおそわってたから」

くっそーーーっと宮崎はうなった。

うなっていても仕方が無いので課題を見る。

その間、は鼻歌を歌いながら、机の上を拭き掃除をして日誌を取り出していた。

聞いたことのあるメロディに、宮崎は顔をしかめる。

貴方が私にくれたもの、という言葉から続くその曲はずいぶんと古い歌で。

散々男が女にプレゼントをやる歌だ。

最後の最後までは。



「なあに?」

鼻歌がとまる。

「俺、その歌嫌い」

「えー、いいじゃん。何歌おうとあたしの勝手じゃない?」

勝手は知ってる。

けれど宮崎は嫌だった。

それは結局は女が男に対して失恋する歌で。

失恋、という言葉は必然的に泣いていた彼女の姿を思い出させた。

つい先日のこと、一緒(当然、皆と一緒だが)に帰る途中で、偶然に会って「よりを戻そう」とか自分勝手な言い分をしてきた、あの男を思い出した。

思わず飛び出そうとして、三溝達に止められなかったら、今ごろ自分はその男を病院送りにしていただろうと思う。

お腹の底から、怒りがわきあがってくる衝動というのは本当に血が逆流するんだな、とどこか冷静な自分がいる。

どうしてそんな風に考えるのか。

数字の羅列は公式に当てはめれば答えが出る。

だけど、この胸の中にある問題二通りの答えで、もう一方はそれこそ天国だがもう一方は地獄で。

はあああ、と大きく溜息をついて机に突っ伏した。

(こいつはもうふっきってんだよなあ)

杉や三溝と一緒になって袴田さんを追いかけたりしてるのとは、また違う。

他の女の子のチェックをして、ナンパしてたりするときも、結局自分はびくびくとにばれるんじゃないかとか最近思うようになってきた。

それはつまり、自分は彼女のことが……。

「じゃあ、なにがいいのさ」

「モ●娘とか●ー娘とかモー●」

「全部同じジャンかよっ!」

「だいたい、俺が勉強してんのにそんな歌、歌うな。歌う暇あったら、俺を手伝えっつうの」

「はいはい」

「え」

言ってみると、自然には宮崎の傍の席に座る。

宮崎は起き上がって、彼女を見つめた。

「日誌は?」

「終わったよーん。それより早くしないと」

「お、おう」

上ずってくる声を、落ち着かせる。

それなのに。

「柔道着着てる宮崎くんはかっこいいもんね」

どきっと、胸が言う台詞を彼女が言った。

漫画みたいに動き出す心臓を落ち着かせて、宮崎は目を半開きにして聞いた。

「着てなかったら?」

「え? そんな恐ろしいこと、あたし言えないっ!」

「てめえっ」

が、楽しそうに笑ってくれるのを見て、満足してる自分に気がついて。

(俺の中で、もう答えは出てんだよ)

けれど、彼女に言ったらどうなるだろう?



離れるんじゃないか?

困らせるんじゃないか?


「なにぼけっとしてんの? ラスト3問ちゃっちゃとやろうよ」

「…おう」




可愛い彼女は欲しい。

キスして抱きしめられて、最終的は大人な関係になるような。

まあ、巧と近藤のようなカップルでもいいけどよ、とは思うが。

逆にに対しては。

泣き顔を見てからは、彼女にこんな顔させてたまるかと思った。

泣かせる奴は、誰であろうとぶん投げるとまで思った。

なのに、心の中に浮かんだその一言が言えないでいる。

理由はただ一つ。

に嫌われたくない)


だったら今、このままの立場でいいんじゃないか? 

普通に素でそんなことを宮崎は考えてて……そんな自分に心の中で溜息をつく。

彼の気持ちをはっきり言わないから、彼女はそばにいてくれる。

その可能性は捨てきれない。


「…もうなんでわかんないのさー、ここまで教えてあげてんのにーー」

「悪かったなあほでっ」

「ちゃんと九九覚えてる?!」

「そこまでバカにすんのか?! いい加減しとかないと、上四方固めで押さえ込むぞこのーーっ!!」

「は?」




(もう少し、もう少しだけこのままで)


彼の心に浮かんだ言葉に対する、答え合わせはこの調子ではいつになることやら。








《おまけ》

部活にて

:「斉藤くーん、斉藤くーん」

斉藤:「どうした?

:「かみしほうがためってどんな技?」(言われても判らなかったらしい)

斉藤:「見た事なかったっけ?」

:「うん」

巧:「上四方固めってーのは寝技のことだよ、

:「…」

斉藤:「?」

:「あのエロざるどこ行ったーーー!!!」



ちゃんちゃんv









2002・09・23 UP


彼らしくないといわれそうですが、少し気弱な宮崎くんで行ってみました。
上四方固めって言うのは、相手の頭に自分の胸部をあて、上半身を固定させる寝技…だったよな(おい)。
必然的に、相手の胸のあたりに顔が行きます(笑)




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