いつからだろう。
あの子が、俺のことを名前じゃなくて苗字で呼び出したのは。
「高槻君」
「ん? なんだ? 」
「うん。このプリントなんだけど」
なんて何気ない話をしているけれど、俺、高槻涼は少し複雑な気持ちだった。
。
なんだが他人行儀っていうか…。心のどこかで溜息をつく。
俺と彼女は幼馴染だ。
小学生の時は「涼」「」と、名前で呼び合う仲だったのに。
いつのまにか彼女が、いきなり苗字で俺のことを呼んだんだ。
そのとき。
びっくりして、「どうしたの? 」って聞いても。
何を言っても「高槻君」としか呼ばなくなった。
だから俺も…。
「って聞いてるの? 高槻君」
「あ? ああ。うん。聞いてる」
「じゃ、お願いね」
そう言ってスカートをはためかせては他のクラスメートと教室を出て行く。
はあ。
溜息。
俺は彼女に言われたとおり、プリントを回収して担任に持っていった。
「なあんで呼ばなくなったんだろ」
「何が?」
「え、別に」
家に帰って、思わず呟いた言葉。
母さんがいるのに気がつかないで言っちゃった。
…うーん。
まずいよな。
やっぱ。
そう思ってさりげなく話題を変える。
なんか言っちゃいけない気がする。
うん。
「女の子よね♪ ちゃん」
「え?」
母さんはそう言っただけ、台所に向かっていった。
……。
のこと、俺言った覚えないんだけどな(滝汗)。
ま…いっか。
俺はそのまま部屋に入った。
うん。
は女の子だ。
可愛い…のか?
女の子は、よく判らないけれど。
。
。
うん……。
な、なんだか照れてきた。
いつもいっしょにいた。
「高槻君」
じゃなくて子供の頃のように名前で呼んで欲しい。
「なんで、俺、そこまで、気にするんだろ」
けれど。
理屈じゃない。
「涼」
そう呼んで欲しい。
「涼」
隣にいて欲しい。
「涼」
傍で笑ってて欲しい。
「よし」
いてもたってもいられなくなって。
俺は電話の受話器をとった。
「あ、?」
呼び出して。
そして言おう。
CALL ME。
名前を呼んで。
君の声で。
君の唇で。
そして、これからは…。
2001・07・24 UP