「ほら、行こうぜ」
「う、うん…」
全ての戦いが終わったあと、差し伸べられるその手をとったけれど。
彼は、本当はあたしなんかを必要とはしていないんじゃないだろうか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ゾイドイブをめぐる戦いは、バンの活躍によって終止符が打たれた。
宿命という名の見えない鎖から解き放たれたのは、あたしと同じ古代ゾイド人のフィーネ。
そんなことを言ったら、あたしもそうなんだけれど。
あたしは。
古代ゾイド人の一人。
帝国の研究施設で実験に使われていたあたしを救ってくれたのは、ガーディアンフォース(GF)のバンとトーマさんだった。
そしてあたしは、あたしのオーガノイド、クロウリーと一緒に彼らに保護されて。
それから…。
「なに黄昏てんだ?」
「べ、べつにタソガレてなんかないよ。アーバイン」
何言ってんだか、とか呟きながらアーバインがカップを手渡してくれた。
コーヒーの香ばしい匂いが漂う。
彼の名前はアーバイン。
知り合ったのは、保護されてすぐにだった。
Dr・Dっていうおじいさんと、ムンベイっていう女の人と一緒に来たっけ。
最初は少し怖い人だと思ったけれど、今は違う。
ぶっきらぼうだけど、優しい人。
「会った時のこと、思い出してたの」
ちびちびとコーヒーに口を寄せながら飲んでからそう言うと、アーバインは自分のコーヒーを作りながら「ほー」とか返事をしてくれる。
帝国からも共和国からも離れた岩場に、あたしとクロウリー、アーバインと。
そしてガンスナイパーとライトニングサイクスが側にいる。
「ぐるううう」
クロウリーがそううなりながら、アーバインの側で丸くなった。
「へっ、こりゃあいいや」
クロウリーにアーバインがよりかかって、笑ってる。
「ぐる?」
「なんだよ、重てえのか?」
「ぐるうう」
なんて会話をしてる。
オーガノイド。
ゾイドのポテンシャルを引き出す『伝説』の存在。
だけれどあたしにとってはそんなことは関係ない。
あたしにとってクロウリーは、目覚めたあの瞬間から一緒にいる存在。
そんなオーガノイドのクロウリーだけど、アーバインのことが好きみたい。
バンの話だとアーバインってオーガノイドが欲しかったみたい。
それなら。
なら。
「あたしは要らないんじゃない?」
なんでアーバインはあたしの手をとったんだろう。
あたしはなんでその手をとったんだろう。
カップの中にある、コーヒーを見ながらそんなこと考えてると。
「おい」
「ひゃっ」
耳元で声がするから慌てて顔をあげると、アーバインの顔がすぐ目の前にあった。
「な、なななななに?」
「何、思いつめてんだ。てめえ」
低い声に、びくりと背筋が動く。
「べ、別に」
「嘘つくんじゃねえよ」
するどい目に射ぬられて、あたしは動けなくなる。
「」
「なに…?」
声がかすれるのが止められない。
だって、アーバインが……あたしを抱きしめてて。
それで。
「ん……っ」
かちゃん、とカップが落ちるのが判る。
唇に、柔らかい感触があたる。
ついばむようなそれに、あたしはだんだん力が抜けていくのがわかる。
「これで、判ったか…?」
「?…っ…な」
「判ってねえのか」
はあ、と、大きくため息つきながら、アーバインの腕の力が強くなった。
アーバインの胸に押し付けられる、あたしの耳は。
あたしの心臓と同じくらいばくばくいっている彼の鼓動。
「クロウリーが見てるし……サイクスもガンスナイパーもいないところでこの先をするとして、だ」
こ、この先って…なにっ!
「わかんねえなら……言ってやるよ」
アーバインの囁きが耳に吹き込まれて。
あたしは、ふいに泣きそうになるくらい嬉しかった。
何を言われたのかは……残念だけど秘密。
ただ言えれることは。
彼にとっても。
あたしにとっても。
お互いがお互いを、必要不可欠だってこと。
2002・02・19UP