悲しくないわけがない。

悔しくないわけがない。

友達と一緒になって落ち込んで、だけどそれはもうどうしようもなくて。

深く深く、ため息を一つ。




一つため息をつくと、一つ幸せが逃げていくよ。




そう言われても、出るものは出るんだから仕方ないじゃない?

せっかくの、誕生日だっていうのに。

気が重い、そんな矢先に携帯が鳴った。

番号だけが並んでいるってことは知らない人からかな? 

誰だろう、こんな時間に。

出ると。

『あ、俺、俺。キルア』

「嘘!!」

『嘘じゃねーって』

「どこいるの? 連絡つけられないからって心配してたんだよ! て…いうか、なんであたしの番号知ってるの?!」

『あー…全部まとめて言ってやるから、窓開けてよ』

へ?

ここ、二階だよ!?

そう言おうとしたら電話が切れて、窓がこつんこつんと音を立てる。

見ると、そこにはキルアが笑ってた…。

「よ、久し振りv」

「久し振りじゃないよ! 君達、いったいどこに行ってるの?」

「なんだよ、久し振りにあったって言うのにそんな面、見たかねぇよ」

「ほっといてよ! あたしの顔でしょう?!」

「すぐ怒る〜。はいはい、このキルア様がきちんと教えて差し上げますよう」

 馬鹿にしてるな……ガキンチョのくせして!

 そう言おうとして、あたしは止める。

 子供扱いが、何より嫌いだったよね。君は。

 窓の桟に腰掛けながらキルアは笑いかけてくる。

「まず、俺らは今すごーーく危険な仕事をしてる。ちょっとヤバイ事もあるから、こちらからは極力どこにも連絡しないようにしてるんだ」

「俺ら、ってことはレオリオとクラピカ、ゴンの三人とまだ一緒ってことよね」

「お、鋭いじゃ〜ん。そう。んで、なんで俺が番号知ってるのかって言うと……」

 一回だけゴンが友達に連絡したらしくて、その時に聞いたんだとか。

 あ、そういえばそんなこと言ってた気がするな…。

「話の途中でいきなり切れて、こっちからかけるとお客様の都合だしーー!」とか怒ってたっけ。

 そう言うと、キルアは笑った。

「ゴンの奴、今ごろ叱られてんじゃねーの?」

「あれ? ゴンはあっちに行ったの? 

あ! そうそう。クラピカに渡して欲しいのがあったんだっけ!」

「なんだよ、それ」

「あ〜、友達の家だわ…。ちゃんと渡してくれるかな…。ゴンに」

「俺といるときに、ゴンはいいけど、他の男の話題、出すなよ」

 とぎれとぎれに聞こえた言葉。

 月明かりの中で、少し拗ねた頬が赤らんだ気がするけれど、それはきっとあたしの目の錯覚よね? キルア。




「なぁな。お前、今日、誕生日だったんだろ?」

「なんで知ってるの? あ、それも聞いたんだ」

「うんにゃ。ゴンは聞いてないぜ」

「なら、なんで?」

「企業秘密」

「なによ、それ」

「お前のことならリサーチ済みなんだよ、俺は」

どきり、とする心臓。

何、考えてんのよ、あたし。

「一応、何が欲しいかまでは判らなかったから、四人で決めて買って来たんだ」

「え? そんな。いいよ、悪いよ」

「あんたが貰わなきゃ、捨てるぜ?」

それって勿体無くねー? って小首を傾げる姿が可愛い。

「あっ今、可愛いって思ったろ。俺のこと! むっかつく〜。やっぱやるのよそうかな」

「嘘です嘘ですそんなこと露とも思ってません!!」

句読点を打たずに言うと、キルアは少しじと目であたしを見てから「ま、そういうことにしといてやるよ」と言って、ポケットから長方形のケースを取り出した。

 開けると、そこには虹色の貝殻イヤリングとペンダント。

「気に入った……?」

 うそ、こんなに高価なもの貰っていいの?

「なんだよ」

 すっごく、嬉しい。

「おい!」

 何?

「お前、泣いてるぞ」

 そう言われて初めて頬に涙の感触がする。

 キルアは、自分にびっくりしたあたしの頭を、自分の胸によりかかせる。

 窓の桟に腰掛けてるから出来ることだよ、それ。

 本来の身長なら、まだあたし勝ってるもの。

そういいたかったけど、言えない。

「泣くな」

 優しい声とキルアの心臓の音に落ち着いてくる。

 まったく、これじゃ、どっちが年上か判らない。

 「溜息いっぱいついてたのに、でも、幸せは来るね」

 なんか、落ち込んでいたけれど。けど、今はすごく心がふわふわしてる。

頭を抱きかかえられたまま、あたしが言うとキルアが「うん?」とか言いながら頭をなでてくる。

ちょっと。

それは普通、年上のあたしがする仕草。

「聞いたことない?」

一つため息をつくと、一つ幸せが逃げていくって。

 溜息ばっかりついてたけれど、今、なんだか心があったかい。

「聞いたことないけど」

「けど、何?」

「もっと幸せ気分にしてやろうか」

 へ?


 顔を上げる。

 真剣な眼差し。

 そして、唇に柔らかな感触。


「幸せだろ?」

 …き、きす、された?

「なぁ」

 こ、この。

「ん?」

「こーのークソガキーーーーー!!!」

「わっ!」

 殴ろうとしたら案の定よけられる。

「なんだよ!」

「なんだよじゃないわよ、なんだよじゃ!!」

「照れ屋だな」

 ちがーーーう!

 にへ、と月の元、キルアは笑った。

「あと二・三年したら、もっといいことしてやるよ」

「こ、子供がナマ言うなーー!」

「浮気すんなよ!」

 本当に、惚れ惚れするような笑顔を残してキルアが窓から飛び出していった。

「う、浮気って何よ」

そう言おうとしたけれど、もう相手はいなくて。

だけど心は温かくて。

ふわふわしていて、どきどきしていて。

あたしは速攻、友達に電話した。


この気持ちって何?

「幸せだろ?」

生意気な誰かさんの声が耳と心にしたことだけは、友達にも内緒。




終わり
2001・05・05 UP

「SnowChapl」の猫様(雪月様のお友達で、サイトの方にも創作をUPしていらっしゃいます)に、
バーズデープレゼントとして贈りつけた創作。
しかも初ハンターでした(汗)。
こんなもん、受け取ってくださいまして、ありがとうございましたv 猫様。


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