「お前らには会わさん」
「キャプテン、最近バリ機嫌よかとね」
なんて言ったのは高山昭栄。
選抜選考が終了し、選抜チームのキャプテンに選ばれた城光与志忠はさっさと着替えながらその言葉を背中で受ける。
「普通じゃ」
「わしは知っとう」
チームメイトの一人がにやにや笑った。
「キャプテン、女が出来たと」
「…」
女、の単語にチームメイトたちが一瞬静まりかえり、そして次の瞬間爆発した。
「うそーーーーーーーーっ!??!」
「お前ら、それ、バリ失礼ぞ」
じゃっ! と言ってどさくさに帰ろうとしたが甘かった。
「待てや、よっさん」
にいっと笑いながら、同じ学校の功刀一が立ちふさがる。
「話ぁ、終わっとらんが」
与志忠は深く深く溜息をつく。
「お前ら思っとうような仲じゃなか」
(早ぅ、俺は…に会いたいのに)とは絶対に言わない。
あれから数日間、続けて一緒に歩いただけのクラスメイトの女の子。
笑顔に惚れて。
それから声に惚れて。
優しさに惚れて。
と、いうよりも正直、想う気持ちはいっぱいいっぱいになって来ている女の子。
本当は散歩の時間以外にも、話かけたくてうずうずしてる。
学校ではさりげなく挨拶交わす程度にしているが、それはが他の連中にからかわれない為。
だが、もう限界でちらちら気がついたら目で彼女をおっている。
(告白せねばと思うたときに、なんでばれんね)
内心は冷や汗たらたら。
他のチームメイトたちはともかく、高山と功刀にばれたらなにをされるかわかったものじゃない。
(本人達にその気がないのが始末に悪い)
与志忠はにやにや笑ってる九州選抜の守護神を見下ろした。
「カズ、そこどかんね」
「お前の女ってどんなん?」
興味深々で聞いてくる後ろの御年頃な少年達&目の前の守護神に。
「やから、俺の女やない」
まだ、という言葉を飲み込む。
「ほーぅ、まだそんなこと抜かすか?」
「……仲良さげに犬連れて歩いとんの、俺見たバイ」
「やから……」
「ショートでけっこう可愛かった」
「…」
見ていた、というチームメイトを振り向きざまににらみつけた。
一瞬に与志忠よりも身体が大きなチームメイトたちがばばっと引いた。
「うるさか」
短い言葉に、高山昭栄はごくん、つばを飲み込む。
こんな与志忠を見たことはなかったからだ。
「カズ、どかんね」
「……お前の女やなかったら、今度紹介してくれんね?」
(お、恐れを知らん…)
(さすがカズさんったい)
紹介?
こいつらに?
(を?)
思わず名前を呼び捨てにしてしまうのは、それだけ自分の想いが強いということ。
(俺のを?)
可愛くて大事で、壊したくない。
彼女の笑顔は全部、自分のものだ。
それをなぜに他の男に見せなくてはならないのか。
「……お前らには会わさん」
低く言い切り、与志忠はぐいっと功刀の肩を持つと、力任せにどかせる。
そして。
バタン!
強く扉を閉めた。
途端にあがるのは「バリこわーーーーっ」という声と。
「あんだけよっさんが惚れとう、女の面ぁ、見たいな」
という声が聞こえて来たが、与志忠はさっさと歩き始めた。
「ちょっと、遅れた」
もう頭にあるのはとの短い逢瀬(ともいえるかどうかわからないが)。
「早ぅ、行かんと」
本当はサッカーも見に来て欲しいが、あいつらがいるから誘えない。
彼女をからかう、というのもあるが、彼女を盗られてしまう可能性だってある。
(誰がやるか)
いつもの場所に来ると、彼女の姿が見えた。
中型犬がぶんぶんと尻尾を振っているのが判る。
「城光くん」
(この笑顔だけは、誰にもやらん)
与志忠はふっと笑う。
「待たせてもうたか?」
(絶対、あいつらには会わさん)
彼の決意とは裏腹に、彼女は功刀たちと出会ってしまうのだが。
彼と彼女の仲がそれでどうなったかは……ご想像にお任せしよう。
END?
2002・06・11 UP
たぶん彼はまだ告白してないと思う。
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