『友達』でなんていられない
(2)





「な、なに言って…っ」

さんの言葉を最後まで聞かないで、僕はその言葉を言った。

「僕は、ずっと前から、さん………ううん、さんが、好きだ」

ずっとずっと言いたかった言葉を、僕はようやく本人に伝えた。






初めて出会ったときは中学生のときだった。

身長が僕より高くて、勉強も出来る彼女はクラスでも人気者だった。

そんな彼女に対しての気持ちに気がついたのは、受験のときのことだった。

「高校はそれぞれ別々になっちゃうけど、応援してるからね。風祭」

彼女が僕の側から姿をけす!

その事実を彼女の口から聞かされて、胸が本当にずきんって痛んだ。

悲しかった。

つらかった。

でも僕は彼女に自分の気持ちを言わなかった。

僕は、この「友達」っていう地位を手放すのが怖かったんだ。

それから学校が変わっても、僕の気持ちはそうは変わらなかった。

彼女が足をいためた事も知ってる。

サッカーのせいでもう全力で走れなくなったのも当然知ってる。

その試合、僕は高井達と一緒に見に行ってたんだ。

足を引きずってるのに、痛そうな顔していなかったから僕はてっきりたいしたことなくてよかったって思ってた。

けれどその後、事実を知って愕然として。

病院までついていった。

「カザ? 何、どうしたの」

「うん」

「試合見に来てくれてたんだ♪」

「うん」

「…で、知ってたりするんだ、あたしの足のこと」

「……うん」

「試合にも負けて、散々…っ…」

目に涙がたまってる彼女を、初めて僕は抱きしめた。

「泣いても、いいよ」

僕の胸の中で、さんは泣いた。

身長も身体も、いつのまにか僕のほうが大きくなっていた。

そのとき、胸があったかくなって、ずっと守りたいって思い知った。

それでも告白できなかったのは…僕がまだ臆病だったのと、そして彼女には彼氏がいたからだ。

守りたいって思う気持ちと、だけど彼女に嫌われたくない、迷惑かけたくないって言う気持ちを抱えたまま。

僕はその後、海外留学に。

彼女は……彼氏と別れて傷心のまま高校を卒業した。

行っている間も、帰ってきたときも彼女とはメールや電話で交流をもった。

プロのお誘いもあって、会うことは出来なかった。

会いたい気持ちと一緒に忙しくなるって言うのも問題で。

でも僕はその力をサッカーにもっと力を注ぐことで解消していった。

「ちゃんと休みはとるようにしなよ」とか「元気?」なんていう彼女のメールだけで胸がいっぱいになっていたけれど。

久しぶりに出会った彼女はとっても素敵で、離れたくない気持ちにさせたんだ。



「風祭、お前いい加減に告白しろ」

「たっ高井っ」

日本酒の入った高井の目は座ってた。

三次会の途中で、さんたち女性陣がマイク争奪戦を繰り広げられているのを背景に、僕ら男性陣はちびちび酒を飲んでいた。

「うじうじうじうじ…何年だよ、お前の片思い」

「えっと」

僕が指をおって数えようとしたら、後頭部に衝撃が来た。

「い、痛い…」

「数えんな!」

「いい加減、告白しないと前に進まないですよ。風祭さん」

森長がそう言ってくれる。

「経験者、語る」

高井がそう言って冷やかして、森長がテレながら笑った。





勇気がわいたって言うか。

ふんぎりがついたって言うか。

もしも断られても、『友達』でいられなくなっても、僕はきっともう覚悟してる。

この想いは、絶対だ。






酔っ払ってしまったさんを、自分のマンションに連れてくる。

周囲に雑誌のカメラマンのひととかいなければ、いいな。なんて思いながら、彼女を背負って入って。

ソファに座らせる。

柔らかな彼女の身体にどきってする心臓を抑えて、顔を覗き込む。

上気した顔のままで、すーすー寝てる彼女。

そっと指でなぞっても起きないから、僕は。

思わず唇を盗んだ。




とりあえず牛乳を飲んでからシャワーを浴びた。

御酒くさいままだし。

シャワーを浴びてから、僕はさんのところに行った。

上だけ何も着ていかなかったのは、そのなんの理由もないんだけど。

僕の姿を見て照れているの姿を見れて嬉しくて良かった。

少し御酒の匂いをした彼女は、「帰る」なんて言い出す。

離したくないよ。

もう。

他のオトコなんか見て欲しくない。

それなら僕を見て欲しい。

『友達』の立場でなんて、もういたくないんだ。





僕の言葉に、さんはぱっと僕を見た。

僕はまっすぐ見返す。

「風祭、じょ…」

「冗談なんかじゃない」

きっぱり静かに僕は言って、力をこめる。

もう『友達』でいられないんだって、彼女に知ってもらうには、行動で示すしかない。

僕は、彼女を抱きしめた。

抵抗しないのは、たぶん今、酔ってるからかも知れないけど。

それでも彼女の身体が僕の腕の中にあるのが嬉しい。

「カザ?! ちょっとっ」

「好きなんだ、ずっと前からっ」

ぎゅっ。

「そ、そんな、急に言われても…」

「中学卒業して、学校が別々になるのがショックだった」

ぴくん、と動くんで、俺は力を抜いた。

信じられないように、僕の顔を見上げて、さんは言葉を失ってた。

「高校のあの試合のときに、僕は君を守りたいって思った…あの時、僕に勇気がなかったから、ここまでずるずると引き伸ばしちゃったけど、けど」

「そ、その頃、から?」

「うん」

頷く僕の言葉に、さんは聞き入ってくれる。

「風祭…」

「将って呼んで」

「え、ちょっ…」

さんにはそう呼ばれたい」

「なんて言っていいか…」

「まだ友達としか見てくれてない?」

「もう、見れないよ…」

期待して、僕はさんの額に唇を寄せた。

さん、僕の、一番大事な人です。好きです……僕を恋人にしてください」

「恋人に?」

「友達じゃいられないんだ。さんと一緒にいたい。さんに触れたい。声が聞きたい…」

「カザ……」

「返事、聞かせて」

おずおずと、僕に抱きしめられたまま彼女が囁いたのは。

「あたし、今、恋愛は勘弁って言ってたわよね」

「うん」

「それでも、その………将は、いいの? こんな女の子に告白しても」

「いいんだ、さんなら」

「……その……」



おずおずと彼女が言ってくれたのは、僕にとっては嬉しい言葉で。

思わずキスしようとしたら。

手でふさがれた。

さん?」

「駄目、今は。あたし、御酒くさいんだからっ」

「…シャワー、浴びて。今夜は泊まってくれるよね…」

「将…」

「なんにもしない、から。キス以外は」

かすれた僕の声に、さんは顔を紅くしながら頷いて。




その夜から、僕たちは『友達』じゃなくなった。

これからは、もう『友達』じゃない。

僕たちは、ずっと『恋人』。









《おまけ》


シャワーから出たさんは、僕のTシャツを着てた。

僕が出したからなんだけど……うわあ、どうしよう。

可愛いし、愛しいし。


理性が、持つ、かな?



結局。

約束どおり、その夜は何もしなかったけれど。

次の日の朝、僕の理性をさんの笑顔がどこかにやってしまって。

半日、ベットルームから出れなくなったのは、別の御話。

…二日間、オフでよかった…。



END
2002・04・08 UP

裏に行きかけました(え?)

風祭君の性格が違う、とか言うのは勘弁してね(苦笑)



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