思えばあれも




さん、さん。救急箱とってくれない?」

そう言うと、さんは優しく笑いながらとってくれたっけ。

。ちょっとこっち手伝って」

他の人に呼ばれて、さんの視線が僕からが外れるのがいやだったけど。

「カザ、自分で出来るよね」

「うん」

それを隠して、僕が笑ったら、彼女も笑ってくれるから。

さんの笑顔が見れるから。



思えば、あれは。




思えば、あれも。





ぱちり。

目が開いて、僕はゆっくりと身体を起こす。

顔が赤くなっているのが判る。

中学時代の夢。

出てきたのは、この間恋人になった(もしくは、なってくれたって言うのかな)さん。

「僕、これから会うのに」

あれから、なんか僕、絶好調なんだ。

チームは連勝してるし、身体の調子もいいし、怪我もないし。

さんのおかげ、かな? って電話で言うと「そんなのあたしのせいじゃなくてカザとチームメイトの努力の結果でしょ?」なんて言ってた。

チームの連勝はたしかに僕だけのおかげじゃない。

けど、僕は?

すごい身体が軽いし、怪我もしないんだよ。

「あたしのせいじゃないよ」

「僕はさんのせいにしたい」

さんがいてくれるだけでも、僕の力になってるんだよ。

そう言ったら、受話器の向こうで(たぶん)さんは照れてた。





「あ、時間、時間」

いつもと同じように、早く起きて軽くロードワークしてからシャワーを浴びる。

ラフな格好で車を走らせて、今日はさんとデートするから。

車でアパートの近くの駐車場まで行くと、携帯に電話を入れる。

すると、さんが来て「カザ」って僕のことを呼ぶ。

「名前で呼んでよ」って言うんだけど、ついついくせになってるって言われて。

呼び方にはそんなに気にしない性質だから、平気だって思ってたんだけど。

やっぱり、いや、かな?

好きな人には、名前を囁いてもらいたいって思うのは僕だけなのかな?

他の人もやっぱりそうなのかな。

今度、水野君に聞いてみよう。

あ、でもシゲさんのほうがいいかな?

「カザ。何考えてるの?」

「うーん、ちょっと」

こんなこと、さんに言える訳ない。

ドライブ、といっても遠出をするわけでなくて。

ただの買い物なんだけど。

ホラ、中学のときも高校のときも、僕は彼女と二人っきりっていうのがなかったから。

二人っきりで買い物だけでも僕は嬉しいし。

…って真顔で言ったら、顔赤くされちゃった。

「将…ってさ、なんか中学の時のまんま大人になったみたい、だよね」

「それってバカにしてる?」

「してないよ」

ふわって僕の大好きな笑顔を向けてくれるから。

だから僕は満足。



僕が満足してたのは、デートの最中にさんの会社の同僚にばったり出会うまで。

僕の方をちらちら見ながら、さんに質問攻めにしてる。

Jリーガーだから、かなあ?

僕が。

さんの視線は、当然その人に向かってて。

それに気が付いて、僕はちりっと胸のどこかがいらついてきて。

(これって………あれ?)

どこかで同じ胸の痛みというか、同じ想いをしたことがあった、よな。





ふいに思い出したのは今朝の夢。

中学時代のあのワンシーン。


口元に手をやって、ちょっと頬が赤くなるのを隠す。






僕、あの頃から。

今から思えば、あれも。

そしてこれも。



さんを独り占めしたいっていう『独占欲』。


それにいまさらながら気が付いて。

(僕って、めちゃくちゃほれ込んでたんだ…あの頃も。さんのこと)



「ごめんね、カザ…って何照れてるの? 一人で」

とっさに何も言えない僕がいて。


(僕ってさんに関しては結構、強いんだ、独占欲)

このことは…には当分、内緒にしとこうって思う、デートの午後。





2002・04・18 UP

書いてて思いました。
オイラの中で風祭君(未来バージョン)は、オイラが書いたハレビの今川さんだ!(書いてて気が付くなよ)

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