マザー・トーク








初めて息子から名前を聞いたのはいつだったかしら。

そう、高校の受験シーズンに入ってから、久々に功の家に行ったときだったわ。

「母さん。将の奴、好きな子できたんだぜ」

「功兄っ!」

ノートとにらめっこしていた将が、顔を上げて必死になって功の口を抑えようとして。

さんはそんなんじゃないよ!」

「やっぱ好きなんじゃないか、さんのこと」

だっていつもは苗字で呼んでるし〜。家でいるときだけ名前で呼んでるじゃないか。

そんな功の言葉に真っ赤になって、将は「違うよ違うよっ!」と慌てながらあたしに言ったのよ。

だからあたしは笑って。

「そんなに好きなの? さんが」って言ったら。

息子は本当にりんごのように赤くなった。

そのときに、『あら、この子本気なんだわ』って思ったの。

おかしいわよね。

中学って言ったら多感な年頃だし、別に好きな女の子の一人や二人できてたっておかしくないから。

けどね…なんていうのかしら、やっぱり「男よね」ていう顔をしたのよ。

理由は聞かないでね? ちなみにどんな顔か聞かないでね? 説明に困るから。

母親の直感みたいだから。

「友達、だよ」

なんて言う息子の顔が、大人びて見えたからてっきり好きな子に告白するものと思ってたけど。

結局しなかったみたいよね。

あとで功から聞いたわ。

彼女に嫌われるんじゃないか、恐くて恐くてうちの息子は『友達』にしがみついてたんですって。

そりゃあもう必死で。

おかしいわよね? 横から自分じゃない男の子にさらわれてもいいの? そう思っちゃったわ。

そうしたらね。

功に言ったんですって。

「自分は学校も違うし、サッカーで忙しくてそれこそさんにかまってられなくなる。さんもサッカーしてるけど…たぶん、あの人は気にすると思うんだ。だから、言わない。こんな僕よりも、彼女の側で、彼女を支えてやれる奴がいるなら、それはそれで…」

「彼女が重荷になるから、だから告白しないのか?! お前の気持ちはどうなんだ?」

そう言った功に、将は怒りながら言ったそうよ。

「僕が、彼女の重荷になるんだ! それがいやなんだ!! ずっと対等でいたいのにっ。迷惑かけることなんて出来ないよ!! 僕の気持ちはこの際、いいんだ!!」



それからしばらくして、高校に入ってから。

あの子が海外に留学するって話を聞いて。

一人暮らし初めてあの子の部屋に行ったのよ。

あの子、寝ててね。

たぶん練習やらで疲れてたんでしょうね。

ベットに潜り込んじゃってて。

「将?」

そう呼びかけてみたら寝言で。

…」

年甲斐もなく、赤面しましたよ。あたしは。

うちの息子は、まだ好きなんだわって知って。

っていう女の子のことを。

もう、これは好きって言うレベルを超えてるって思ったの。

若い人には信じてもらえないかもしれないけれど。

間違いなく、掛け値無しの愛情だって思ったの。

「将」

「…ん…」

「起きないのならちゃんに貴方の寝相を公表するわよ」

「…へ…? ……って母さんっ?!」

「おはよう」

あたしはにっこり、なぜだか嬉しくなって笑って見せたの。

だって一人の子を一途に想い続けてるんですもの。

将の方は驚いてから、それから苦笑いを浮かべてたわ。

…その日一日、将が暗かった理由はただ一つ。

大好きな彼女が、もうフィールドを走れなくなった翌日、だったのね。





うちの息子にとってっていう女の子は、本当に。

本当に大事な存在、なのよ。

だからあたしもそんな息子を応援したくなってね。

功に頼んで彼女の顔を見に高校の体育祭覗かせてもらったの。

かっこよかったわ、応援団長。

白いガクランに白いはちまきして。

応援のあと、すぐに膝を冷やしていたのが痛々しかったけど。

通常に生活している分には申し分はないけれど、激しい運動はご法度なんです、なんて笑っていう女の子に対して。

凛々しい、なんて感じたわ。

だって。

「これは私が自分で決めて、自分で行ったために出来た怪我です。一生、たぶん付き合うと思います」

「スポーツが原因?」

「はい。…けど、私はそのスポーツをしていたことを後悔していません。試合には結局負けちゃって、ちょっと泣いちゃったけど」

そしてもう二度と自分ではそのスポーツをすることはかなわなくなったけれども。

「だって、好きですから」
満面、全快の笑顔で言われて。

女の子に凛々しいなんておかしいわよね?

それでもあたしはそう感じてしまったの。

その子は「サッカーやるんじゃなかった」とか一言も言わないの。

その気配さえない。

悲しみを乗り越えて、それでも前進してるのよ。

笑って。




それからは…ふふふ…周りに頼んで彼女が写った物、うちの息子に送っちゃったりしてたの。実は。

そりゃあ、息子をとられる可能性大だけど。

それよりもあたしもその子のことが大好きになってしまったの。

今は、会社にお勤めをしながら、御勉強してるんですってね?

サッカーは見るだけになってしまったけれど、その代わりに栄養士さんになって選手を支える側になるって。

……ふふふ。

それで、聞いていい?

さん。

うちの息子は貴方にちゃんと気持ちを伝えたのかしら?







「お、お母さん、さんに何言ったのーーーっ!」


硬直してしまったさんに、お父さんと一緒に歩いていたうちの息子がおろおろしながら戻ってきたんだけれども。

御父さんの次の言葉で、二人とも凍ってしまったわ。


「で。孫はいつだ」


お父さん…ちょっとまだ早かったみたいですよ? その話題。






これはあたしとお父さんが、息子のデートに(無理やり)便乗して彼女に出会ったときの、御話。




終わり

2002・04・24 UP

てなわけで、風祭君の御母さんから見た息子の姿を書いてみました。

ご両親の本音はラストの台詞にこめられてんだろうな(苦笑)



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