彼と彼女の些細なきっかけ





「…ふぇ…っ」

あ、くしゃみしちゃう。

そう思ったとき。

「くしっ」

あたしはくしゃみをした方に顔を向けた。

クラスで一番体の大きい、須釜くんだ。

まるであたしの代わりにくしゃみをしてくれたように思えたので、そっちを向いて片手を上げた。

「代わりにさんきゅ」

すると一瞬、目を丸くして。

けれどすぐに笑顔になって彼はこう返す。

「いやいや、どういたしましてv」

思えばこれが彼と話をするきっかけだった気がする。






それ以降。

さん、さ〜ん。英語見せてくれる〜」

「うん、いいよ。代わりに数学をプリーズ」

なんて言うと、須釜くんはへらっと笑って「は〜い」とノートを貸してくれる。

あたしと須釜クンはノートの貸し借りするぐらいの友達になった。

男子にしては細かい字で、丁寧に書かれてるから、須釜くんのノートは見やすい。

「字、綺麗だよね。あたしなんか、これに比べるとミミズののたくった字だよ」

「そんなことないよ〜、さんの字も綺麗じゃない?」

「須釜くんの視力は低下してきてると思う」

なんてきっぱり言いながら、あたしは数学のノートを借りて写させてもらう。

「あ。今日ってさん当たる日〜?」

「うん、そう。だからやばくて」

なんて会話をしながら教科書とノートに集中すると、須釜くんはさっさと自分の席に戻っていく。

最近良く友達に言われる言葉。

《須釜くんと付き合ってるの?》

なんだけど、正直なところ「どこをどう見たらあたしらが付き合ってるって思うのか教えてくれ」とあたしは言いたい。

いや、以前、そう言ったら友達は軒並みそろえて黙ったけど。

確かにあたしと須釜くんは良く会話する方だと思うけど、それは友達連中と同じレベルだし、他の男子とも同じように会話してるだけで特別これといった差別はしてない。

男だろうが女だろうが友達は友達だし。

やっぱあれなのかな? 男女の間には友情は成立しないって皆は思ってるのかな?

「よし、これでなんとかオッケ! 須釜くん、さんきゅねー」

とノートを返すしに行くと。

「僕のほうは、もうちょっと待ってね〜」と言われた。

「うん、授業が始まる前に返してくれればオッケーだから」

須釜くんをさりげなく見る。

口調が柔らかいからかもしれないけれど、男女共に人気が高くてその上この身長(190ある中学生って反則だわ)だし、ルックスもいいし、サッカーでなんとか選抜に選ばれてるぐらいだし。

もてるはず、だわ。うん。

さん、な〜に〜? 僕の顔になんかついてる〜」

「いやあ、身長少し分けてくれって感じよねー、と思って」

にぱって感じで須釜くんが笑いかけてくれるので、ほんの少し罪悪感(うーん、品定めしてたっぽいじゃない? 今のあたし)を隠してそう言うと。

「あはは、牛乳いっぱい飲むといいよ〜」

「マジで?」

「マジでv」

「そうか…いっちょやってみっかな」

「でも今のまんまのほうがさんらしくて可愛いよ〜」

「おーう、さんきゅ」

ああ、これだ。

須釜くんって何かにつけてあたしに《可愛い》とか言うから周りの皆に誤解を与えるんだな。

男の子に《可愛い》って言われて嬉しくない子はいないと思う。

けどね、あたしは自分でちゃんと判ってんのよ。

自分が別に対して可愛い部類の女でも、綺麗って呼ばれる女の部類でもないなんてことは。

それに《可愛い》っていうのは男が女に使う、お世辞の代名詞じゃない?

だからあたしは男の子の《可愛い》は本気にとらないのだ。

そうこう考えてたら、なぜだか須釜くんは、ちょっと「困ったなあ」の部類に入る笑顔を見せて、「またあとでね〜」と笑った。





英語の時間になって、須釜君からノートが帰ってきた。

英語の塾のおかげで予習復習ばっちりのページのすみっこに、あの端正な字でこう書かれてた。

『放課後、ちょっと僕に付き合ってくれない? 須釜』

放課後?

ちらりと彼に目をやると、気がついたみたいでにぱっと笑い返してくれるが。

うーん。

うんうん、唸っても判らないものは判らないだろうから、あたしの思考はそこでストップする。

放課後わかるんだから、それまで悩んでも仕方がないし。

あたしが頭をすぱっと切り替えると、なぜだか須釜くんが笑っているように思えた。



でもって放課後。

あたしは、一応帰る用意をして教室の中を見た。

あれ?

須釜くん、いないや。

他の子に聞くと、違うクラスの女の子にさっき呼び出されたって聞いて。

あ、じゃあ、あたし帰ってもいいかな?

けど、大事な用とかだったら困るし。

いや、けどあたしに大事な用って何さ?

ないよね、普通。

なら、帰ろう。

そう結論に達して、帰ろうと思ったとたんに。


「ふぇっ、ふぇっ……」

あ、くしゃみしちゃう。

「くしっ」

代わりに誰かがくしゃみをしてくれたおかげで、あたしのが止まった。

…前にもあったよね、こういうの。

そう思ってくしゃみの原因の方へ顔を向けたら。

「あはははは〜、まただねえ」

須釜くんが頭をかきながら、教室に入ってきた。

「呼び出されたんじゃないの?」

「うん。告白された」

「ほう! そりゃあ、おめっ…」

「おめでたくない。断ったから」

「なして?」

「初対面で自分のものになってなんて言われても、自分が好意を寄せてもいないのに、無理じゃない〜?」

「そういうもん、なの?」

「そういうもんなの。」

そう言うと、須釜クンは、にっと笑った。

「じゃ、ちょっとこっち〜」

なんてあたしの鞄をなぜ、もたれるんだろう?

「いいよ、須釜くん。自分の鞄だから。自分でもてる」

「いいの、いいのv」

なんて言いながら、須釜くんはさらっとそう言って誰もいない準備室にあたしを連れてきた。

「なに?」

「なんかあるの?」

「う〜ん。僕としては別に教室でもいいんだけどね。やっぱさんがからかわれるのっていやだから」

「あ?」

「まあ、そうなったら実力行使するつもりではあるけど」

「なんの話?」

「えーっと…」



さん。スキです。僕と付き合ってください」

…。

…。

…なんですと?

「ほんと、さんってば何考えてるかすぐわかる」

くすって笑って、あたしにもう一度言ってくれた。

「好きです。僕と付き合ってください」

「え、ちょっと何それ」

「愛の告白v」

あい?

…。

「やだって言わないよね…」

ぎゅうって須釜くんはあたしの鞄を握り締める。

って、あたしの鞄!

須釜くんにもたれたまんまじゃん!

「付き合ってくれるよね」

疑問系の言葉なのになんで後ろに?マークをつけないかな(汗)。

いや、口調が断言してるしさ。

「ごめん」

あたしは素直に言った。

「須釜くんのことは嫌いじゃないけど、いままで友達だったから、そういう対象としては見てないよ」

だから…って言いかけると。

「なら、今から見て」

即答かよ。

さっき自分で言ってたジャンよ。

「初対面で自分のものになってなんて言われても、自分が好意を寄せてもいないのに、無理じゃない〜?」って。

確かにあたしと須釜クンは初対面じゃないけど友達じゃない?

その友達のことを見れる?

見れない、よね。

あたしは思わず笑ってごまかそうかな、そう思って須釜くんの顔を見上げたら。

泣きそう、というか必死というか。

それを我慢して笑顔を取り繕ってる、みたいな感じに笑顔がゆがんで見えた。

「須釜くん…」

「僕も最初はさ、こういう風に感じてなかったんだけど」

きっかけは『くしゃみ』だったし。

なんて言う小さな呟きが聞こえてくる。

さんは僕のこと、特別扱いしてくれない、唯一の人で」

「うん…」

なんか近寄ってない?

じりっと逃げると、その分側に寄られて。

「一緒にいて、癒されてて」

「う、うん…」

いつしか背中に黒板が。

脇は須釜くんの腕。

「僕の外見でしか見てない女の子達とはまったく違ってて」

眼前には須釜くんがいて。

これって…いわゆる…閉じ込められたのと同じっすかっ?!

「可愛いって言って、意識してもらおうと思ったけどことごとくダメだったし」

強い視線が、あたしの顔を見つめた。

あたしが知ってるへらってしたそれじゃない。

真剣な瞳。

「誰にも渡したくないから」

「へ?」

僕と付き合ってください。

ちなみに、いい返事をしない限りは僕は君をかえさないから。

さっきの「ごめん」は聞かなかったことにしてるから。







「ふぇっ…」

「くしっ」

これが彼と彼女の付き合うきっかけ。


なんて。


「なんか嫌だーーー」

「え〜どーして〜?」

あんまり待たせるとここで実力行使して、僕のものにしちゃうけどいい〜?

なんて言われて固まったあたしがいた。




そのあとのことは………………………………ご想像にお任せします
終わってしまえ

2002・04・24 UP

素材拝借先は空に咲く花様/アイコン素材先は閉鎖しております。お名前はわかりかねます。


飄々とした彼がなんとなく気になってる今日この頃です。
キャラ、つかめて、ない、よな?(聞くな)
策士な彼を書きたかったんですが失敗。

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