汝の隣人を愛せよ・外伝


隣人の悩み相談室(?)











「どないした三上。顔が悪いやん」

「ほっとけ」

は切り返しの早い三上に向かってにっと笑って見せた。

渋沢克朗の良き友人(?)であり、チームメイトの三上亮はその笑みを「相変わらず男前だな」と評価する。

下手な女のようになよなよとせず、関西弁の口調そのままに相手を切って捨てる時もある彼女は、渋沢の好きな《女》。

そう聞いたときに趣味が悪いと思ったが、逆に彼女に興味がわいた。

そして数週間も友達として見ていたら、まずその人柄にある意味惚れた。

女として恋愛感情を抱くのではない。

同じく友人である篠原遊馬達や、泉達が言うように彼女にはぐいぐいとひきつけられるのだ。

その個性ゆえに、かもしれないが。

彼らの周りにはけっしていなかったタイプの彼女は、読んでいた専門書をぱたんと閉じた。

周囲には誰もいない、放課後の教室に彼女は一人で座っていた。

「なにやってんだ?」

「野明をまっとう」

泉野明は、副委員長として何事か呼び出されているんだろう。

「お前はどないしてん」

「俺は……俺は、忘れ物を取りに来ただけだ」

机の中をごそごそと動かす三上の後姿を見ながら、は一回溜息をつく。

「せやから、どないしてんって聞いてるやろが」

「なんもねえよ」
ただ、忘れ物を、と言おうとして三上は押し黙った。

「そんな、泣きそうな面でか」

びくん、と三上は驚いたようにを見つめた。

「言いたないんやったら聞かんが、その面どないかせんとお前、間違いなく渋沢に聞かれっで」

語尾に?マークつけてない、の口調に三上は溜息を軽くつくと、すとんと座る。

「泣きそうな面だったか?」

「情けない声もしとうし」

「……」

「吐け」

「……」

「吐きとうなかったら、その面と声どないかせえ」

「……」

ぐしゃぐしゃと髪をかきむしる。

「あいつが」

誰、とは言わない。

「あいつが他の男と笑ってた」

「ほんで?」

あいつが誰かとはは聞かなかった。

もしかしたら篠原から聞いているのかもしれない、と三上は薄く考える。

二年のとき、嫉妬して欲しくて遊びの女を作って見せつけた女。

傷つけてしまった、一番好きな女。

もう、たぶん自分を信じてくれないだろう女。

「……むちゃくちゃ腹が立って相手の男ぼこぼこにしてぇって思ったんだけど」

「…」

「あいつに、あんな目で見られて」

彼女は三上の姿を目の端で捕らえると、ふいっと視線をそらしながら冷たい目で見てきた。

なんでいるの? なんであたしを見るの?

もうほっといて。関わらないで。

そんな声が聞こえて来そうな瞳の色。

「三上」

「……?」

「お前、その気持ちそいつに言うたか?」

「…」

「お前、ほんまにその子の声でそう聞いたんか」

「…」

「好きで好きでしょうがあらへん気持ち、お前の中にあるっちゅうことその子に言うたか?」

「…言えるわけ、ねぇだろ? 」
あんなことしといて、と三上は呟く。

できることはさりげなく彼女の側にいて、彼女のことを考えることだけ。

彼女に嫌われているままでもいいから、彼女の助けにさえなれば。

彼女の笑顔を見ればそれだけでもいい。

一歩間違えればストーカーのような想いを抱えていた三上だが、今日という今日は我慢がならなかったようだ。


「…あほか

「ああ?!」

「お前、そいつはエスパーか」

「はぁ?」

「目ぇ、見ただけでこっちの感情、あっちの感情判ってくれる女なんかって聞いとるんや」

「んなわけねぇだろ!」

「せやったら、その子はお前の気持ちなんか小指の先ほどもきっと判ってへんやろな」

ぐっとつまる。

「ええか? 三上亮」

真剣な表情で、は三上に言い切る。

「人間なぁ、言葉にせなわからんのや。特に女の子はな。サッカー部のお前らみたくアイコンタクトで全部わかっとうと思ったら大間違いやで」

…」

「信用されてないってお前がおもっとんやったら、せめてその子に信用されるだけの男になれ。もうなっとう思うんやったらちゃんとそのこと、教えな判ってくれへんで? その子の目を見て、ちゃんと言うたれ。何を伝えなならんのか、何をいわなあかんのか、お前自身はもう判っとうやろ」

「…それで、俺は嫌われたままかよ」

「嫌われるんわ、お前の努力と言葉と態度次第やろ」

「…けど」

「やりもせんうちから諦めるんか? 三上亮」

お前はそないな男と違うやろ? と、は真顔で言った。

「それともなにか? その子が他の男とキスしてもえーんか? 他の男に抱かれるゆうの聞いてもお前、平気か?」

「ばっ」

抱かれる、という単語を聞いて三上は顔を紅くする。

しごく真顔で照れもせず、は言葉を続ける。

「平気か?」

「平気なわけ、ねえだろ」
笑顔を見せただけでぶちきれそうな感情を持つというのに、と三上は心の中で言う。

「せやったら、ちゃんとそれその子に言え。どの面下げて言いに来た言われても、伝えることから始めんとなぁんも変わらん。渋沢がええ見本やろ」

きょとんと三上はを見返して、それからようやく笑った。

渋沢はに対して「友達からでいいから!」と告白したのだ。

以来、彼女は渋沢を友人という立場から見直してきている。

まあ、それが恋愛相手になっているかどうかは三上は判らないが。

ぱんっと三上は自分の頬を叩いた。

「よしっ」

は何事もなかったかのように読んでいた専門書を開く。

「ましな顔になっとう」

「サンキュ」

三上はそれだけ言うと、に背を向けた。

「なあ、

「あー?」

本から目を離さず、は三上に答えてやる。

「砕け散ったら骨は拾ってくれるか?」

「砕けたところで諦めん奴なんか、拾わん」

その言葉に軽く笑って、三上は教室を出て行った。




、三上を見なかったか?」

多少、頬を染めながら渋沢が教室に入ってくる。

「…来たッちゅうたら来たけど、なあ」

歯切れの悪いに、渋沢は目を丸くしながら近寄ってくる。

(こいつ、相変わらず『熱い』人間やな)

体温が、というよりもその存在がにとってどんどんと『熱い』存在になってきている渋沢は、彼女の視線を本から離した事だけでも嬉しそうに微笑んだ。

「部活か?」

「そうなんだ。で、三上は?」

「………それ、ちぃとの間、ごまかしたれ。渋沢」

「へ?」

「せやないと、お前、馬に蹴られるで?」

「は?」

「ごまかしたったら、今度デートしたるわ」

「えっ!」

デート、という単語に渋沢は手を思わずわきわきと動かしながら、そしての側に立つ。

「本当に?」

「あたしがお前に嘘ついたことあったか?」

ぶんぶん、と首を振る渋沢にはまたふっと笑う。

「ほんまに二人っきりでいこか?」

「う、うん。行こう!」

「ほな、三上の件よろしくな〜」







このことがきっかけになって三上が彼女を取り戻せたかどうかは不明だが。

数週間後、いつもの昼飯メンバーにの隣に一人の女の子が増え、三上はにしばらく頭が上がらなかったらしい。






END?




2002・06・04 UP

三上くん、微妙なへたれを渋沢ヒロインに一刀両断にされた話でした。
なにげにまた渋沢君とヒロインも歩み寄りをしてますが。

いかがなもんだったでしょうか(苦笑)


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