汝の隣人を愛せよ・リターンズ/もう少しお待ちください






渋沢克朗とがどうにかこうにか、ようやくまともに付き合いだしたという噂がちゃんと流れているのを聞いて篠原遊馬は肩の荷を降ろしたような気がしたのだ。

とっととくっつけと言わんばかりに応援し、せかし、何をするにも一緒にさせたのは教室内での男女のごたごたをさくっと終わらしたかったから。

二年のときに、同じサッカー部である『へたれ』もしくは『阿呆』←命名な三上がやらかしてくれた男女関係が身にしみたからだと、篠原はしみじみ思う。

色恋が混ざると、どうしてこう男も女も恥じも外聞もなくなってしまうのだろう。

女は、あの女独特のどろどろとしたものを現してきて見ていて醜悪だったし、男は男でバカだったし。

だもんで、三年になって委員長にさせられたときは、心の底から「サッカー部の連中は油断できねえ」と思ってうるさそうな女連中からなるべく遠ざけ、自分が扱いやすい(というよりも身内感覚だろうか)女子の二人を席替えのとき意図的にサッカー部の傍にした。

色気を出して、ある意味『女』を匂わせている女子達の嫉妬も何もかも撥ね付ける強さを持つと鈍感な野明はまさしくうってつけだった。

絶対に彼女達は、サッカー部の連中に対して友情以上の感情を持たないと判っていたからだ。

事実、当初はサッカー部を嫌うまでにもなっていた。

だがしかし、そんなに当のサッカー部キャプテン様が恋をしていたなんて本当に世の中わからないものだなと篠原は思う。

すったもんだがあって、友達からようやく彼氏彼女の仲になったことをついこの間の試合終了後、きちんと尾行して確認した篠原なのだが。




いつもの昼下がり。

今日は篠原・三上・野明、そして渋沢との五人で弁当を広げていた。

「渋沢、茶」

「はい。あと、そこの厚焼き玉子は感想をくれないか?」

「あんまりあまったるかったら、食わへんで」

「いや、大丈夫…だと思う」

この恋人同士とはまったく思えない会話はなんだ。

「いや、ある意味、恋人同士かもしれんが…なー」(汗)

「うん。普通は、逆?」

野明がずばりと篠原の心境を言い切った。

かいがいしく彼女の世話を焼く彼氏の図。

まあ、いい。

(それは許そう)

もしもが聞いたら「お前…いったい何様のつもりやねん」と言われるかも知れないことを、篠原は自己完結気味に納得する。

だが。

「なぁ、なんでは渋沢のこと、名前で呼んでやらねえんだ? 名前で呼び合うって言ってたろ」

渋沢との動きがぴたりと止まり、篠原を見つめる。

「なんで、お前がそれ知ってんねん」

「あとつけてたに決まってんだろ」

「む、胸をはるな、篠原」

横で見ていた三上が恥ずかしそうにそう言うが、興味津々な顔つきでを見た。

確かに彼氏彼女の関係になったと篠原から報告を受け、「やっとくっついたのか」と安堵したものの、普通なら名前で呼び合うようなのに、は今までどおりの態度であり、呼び方も変わっていない。

噂自体は尾ひれがついた状態で流れているので、篠原が心配するような、三角関係まで持っていこうとする奇特な、というかチャレンジャーな女は出てこないだろうが、それでも気になる。

「まさかお前が『名前で呼ぶには恥ずかしいわ♪』とか言ってたりして」

「そないなキャラに見えるか?」

「……………悪い、俺が悪かったよ」

「今の間は何やねん……ってまあ…あたしは言う気満々なんやけどな」

にやり。

の人の悪そうな笑顔が満面に広がる。

「え?」

と、いうことは。

篠原、野明、三上の視線が渋沢に集中した。

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

渋沢は数回深呼吸して自分を落ち着かせると、弁当をおいた。

「渋沢君?」

「よし、いいぞ。

何が始まるのか分かっていない三人に、またもは意地悪な笑みを見せてから、渋沢に向き直った。

「克朗、今日の卵焼きはまあまあやったわ」

「へ、へぇ。ま、まあまあ、だったのか? 

耳のあたりが一気に赤くなるのを三人は確かに見た。

「「し、渋沢…」」(汗)

「渋沢君、顔、赤いよ…」

野明の言葉に「じ、自覚はしてる」とだけ小さく渋沢は答える。

「ああ、それからな? 克朗」

語尾にハートマークを浮かべていそうなの言葉に、渋沢の耳の赤みは一気に顔全体に広がった。

「う、うん」

本当にうれしそうな笑顔を、普通の表情にむりやりにしているのが丸分かりの顔。

「なに照れてんねん、克朗」

それがとどめだった。

渋沢の、何かの許容範囲が壊れたことを三人は思い知った。

たとえで言うなら、やはりトマトのような顔になった渋沢がそこに座っているのだ。

「う、うわぁ…」

三上が思わず、こう声をあげる。

まずい。

これ以上なったら、頭に血が上りすぎで渋沢は倒れてしまいそうになる。

…、もういい。分かった」

篠原の言葉に、はかすかに肩をすくめた。

渋沢は、赤くなった顔を隠すかのように手で覆うとうつむく。

はそんな渋沢を指で指す。

「ちゅうわけやから、呼ばんねん」

こんな状態になる渋沢を誰が見たいのか、とお茶を一口飲むと、割と平気な顔をしては弁当の残りに箸を付け出した。

緊張していたのか、大きく渋沢は息を吐く。

三上はこんな渋沢を、ついぞ見たことはなかった。

ここまで緊張しきった渋沢にも。

ここまで赤面した渋沢にも。

「でもなんで?」

野明の言葉に。

「う、嬉しすぎて、それが顔に出るんだと、思う…」

以外の三人の目が点になった。

つまりは、に名前を呼ばれるだけでこうもなってしまう渋沢の体裁を守るために、彼女はあえて名前を呼ばないということで。

「名前で呼んでくれて言うとってこれやもんな、渋沢」

「わ、悪いな…のことを呼ぶのはいつも心の中で読んでたから、平気なんだが」

名前を呼ばれるシミュレーションがうまくいきませんでした、と渋沢はつぶやく。

「あの時、お前本気で失神しかけたもんな…人の身体抱きしめたまんま」

「そ、それは言わない約束だろ、

「しーぶーさーわーー?」

これはいったいどういうことざますか? という低い、篠原の声に渋沢は慌てたように顔を上にあげた。

「い、いや。べ、別に他は普通だから! そ、それに徐々に慣らしていけば、た、たぶん慣れると思うから!」

だから。

普通な、一般的な恋人同士のようになるのは。

「も、もう少し、お待ちください」

渋沢のそんな蚊のなくような言葉に。

「おう」

なんとも雄雄しく、が答える。




「こ、これが武蔵野森の守護神…」

「まあこれはこれで女子の牽制になるから良しとしなきゃなぁ」

「藤代たちには見せられん…」

三人三様の結論が出た、そんなランチタイムだった。









すまん、終わりだ(笑)

2002・10・22 UP

リハビリとして、両思い?編を作成してみました。
なんかまともな乙女創作久しぶりだわ(苦笑)。
パラレルとかの更新のほうが早いから。
今回書きたかったのは、赤面した渋沢、でした(丸分かり)。


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