大きすぎる代償



彼女の事を知ったのは、中一。

はにかんで笑うその姿に目を奪われたけど、名前を知らなかった。

大石を通じて、名前を知ったのは二年のとき。

「手塚君は『手塚』君でしょう?」

そう言って、先輩に合わせて、ストレスを貯めていた俺の背をそっと撫でてくれた。

「はい。疲れてるときは甘いものとるといいよ」

そう言って、珈琲と、そして部活で作ったというシフォンケーキを出してくれた。

「無理して合わせるよりも、のびのびした方が楽だよ」

そう言ってくれた。

その言葉が、どれだけ俺の心を軽くしたのか、彼女はわかっていないだろう。

きっと、その頃から。

いや、俺は初めて会った、あの時から。







その「言葉」はするりと、彼女の口から飛び出して。

俺は一瞬、目を丸くした、と思う。

夕暮れの、教室で。

あわあわと自分の発言にびっくりして、その後に顔を真っ赤にしていく彼女。

耳を疑ったように見えたのか、彼女はこくんと、息を呑んでから。

もう一度、言ってくれた。


「あたし、手塚君が、好きです」







喉がからからになる。

手の平に汗が浮かぶ。


動揺を中学生活で培ってきた精神力で、なんとか表に出さないように心がける。

俺、も、好きだ。いや、俺の方が、君よりも、もっと。

「…

出来ることなら、抱きしめたい。

「すまないが」

いっぱい、好きだと囁いて。

「友達としか、見ていないんだ」

その唇にキス、できれば、俺はそれで……っ。


心とは裏腹なことを、俺は口にした。

抱きしめたいと言う心を一生懸命、蓋をする。

…今年こそ全国制覇を。

テニスに没頭しなければ、それは達成できない。

俺はそうそう器用な人間じゃない。

生徒会の仕事や、テニス部のこともしなければならない。

彼女の存在を、軽んじてしまう可能性がある。

そして彼女に嫌われてしまうのならば、友達のままでいい。

俺の傍で微笑んでくれてさえ、いてくれたら。

「…そっか…」

小さな、その声に後悔が増す。

彼女は俯いてしまって、俺を見ない。

頼む。

泣かないでくれ。

俺の、この自分勝手な想いを当然、彼女は知らず。

「変なこといって、ごめんね?」

変なことじゃない。

「いや…」

菊丸や不二なら、こう言うときにどう対処するんだろう。

口下手で、嘘つきな自分が歯がゆい。

友達のままでいてくれるか? などと、自分に都合のいいことを口走ろうとする唇を噛み締める。



「その、本当に」

ようやく顔を上げたけど、そこには、泣き笑いの顔が、あって。

「ごめん」

…っ」

彼女は、俺の横をすり抜けていく。

思わず、抱きとめようとする自分の身体を止める。

抱きしめて、どうするんだ?

彼女を泣かしたのも、傷つけたのもこの俺だ。




それが、三年になって、すぐのこと。

あれ以来、俺は彼女の笑顔を見ていない。

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