探す、その姿
黄色い声援というものが存在する。
テニス部に入って今年で三年目。
一年の頃はその声援をどう対処していいか判らなかった。
なぜこんなに女子が見に来るのか、判らなかったからだ。
「見てて判らない? 皆レギュラーの人を見に行くんだよ?」
そう言ったのはだったか。
「テニスを見に来てるんじゃないのか?」
二年になって、彼女と仲が良くなってからの会話をすぐに思い出せる。
「うーん、そういう子は少ないかも? 皆、かっこいいから」
その時、も確か見に来ていたのを思い出して。
「もか?」
そう聞くと「内緒♪」と言ってから小さく笑った。
彼女が笑ってくれたのが嬉しかった。
テニスを見に来てくれてなくてもいいから、俺を見てくれないかと思っていた。
他の誰でもなくて。
俺だけを。
「今日も女の子、多いにゃー?」
「本当、うざいね」
さらりと不二が毒を吐く。
そうしながら、にこやかに笑っているのだから食えない奴だ。
「でも、俺好きな子が居たら嬉しいにゃ。不二はー?」
「来てくれてたらね」
「お、不二。好きな子居るんだ」
「…誰かさんが本当に好きな子を振ってくれたおかげで、とばっちりで僕の傍に来てくれないんだよね」
「へ?」
「彼女、その子と同じ料理研究会なんだ」
俺の脳裏にエプロン姿のの姿が思い浮かぶ。
彼女は会の経理担当だ。
「…」
視線を感じて、俺は不二達の方に目をやる。
「何が言いたい、不二」
「…別に手塚とは一言も言ってないよ」
不二はそう言うと微笑する。
底冷えするような冷たい笑みに、フェンスの外からこちらを伺っている女子から甲高い声が響く。
…五月蝿い。
不二の本当の姿も性格も知らなくて、見た目でキャーキャーと言っているようだが何が楽しいんだ、彼女達は。
「え?不二? 手塚、のこと振っちゃったの?」
どうして菊丸がの事を知っている。
…大石か?
「手塚、眉間に皺がよってるよ」
「にゃー、勿体ね。折角両思いなのにー」
だからどうして菊丸がそこまで知っている。
「少なくとも元レギュラーのメンバーとタカさんは君が彼女のこと好きなの知ってたよ」
…。
俺は何も言い返せず、小さく溜息をつく。
「…関係ないだろう」
「テニスはメンタルなスポーツなんだよね、手塚。…このことが、ランキング戦に出なければいいね?」
さらりと不二は俺の神経を逆なでし始める。
「…休憩は終了だ。コートに入れ、不二」
だが俺は何も言い返せないので、そう口にする。
後ろでふてくされたように菊丸が何か言い、他のメンバー達もこちらを伺うように違うコートに入っていく。
目が、フェンスの向うで声援を上げる女子に向かう。
ちらりと視線をやってから、小さく溜息をつく。
やはり、居ない。
「の姿を探してるのかな?」
「…」
にこやかに不二は続けた。
「来るわけないじゃないか」
そんなことは、判っている。
だが、探してしまうのだから仕方がないだろう?
「彼女は君に振られたんだよ? 振った男を応援なんて来てくれないに決まってるよ」
事実を突きつけられて。
俺は一気に頭に血が上るのを感じた。
「…不二。コートに入るのか、グランド50周か選べ」
「ふふふ…悪いけど、僕も君に八つ当たりしたいんだ。コートを選ばせてもらうよ」
不二の目が、開いて俺を見ていた。
俺を、それを睨み返す。
頭に上った血が、ゆっくりと身体に通っていく感じがする。
「バカな事したって思い知らせてあげるよ、手塚」
不二の言葉に。
「あいにく、もう思い知っている」
そう切り返した。
そう、もう思い知っている。
笑顔の彼女が傍に居ないつらさ。
彼女の声が聞こえないつらさ。
彼女の存在が、どれだけ俺にとって大きいかなんて、もう思い知っている。
だけど。
「そうしないと、達成できないことがある」
自分に言い聞かせるようにそう言った。
その言葉に不二は、苦笑いを返す。
「本当に、君は不器用で自分で何もかもそうやって背負い込んで、一番大事なものを失うんだね」
「…」
「本気で行くよ」
そして不二はまた目を細める。
女子の甲高い声が聞こえる。
自分を呼ぶ声がする。
だが、いつまで聞いていても。
俺が求めているの存在はなかった。
ブラウザばっくでお戻りください
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