傍に居て欲しいと願った


「手塚君は手塚君だよ。テニス部のエースっていう名前じゃないんだから」

もっと本質を見てあげなよ。

もっと内面を見てあげなよ。

「手塚君は顔と成績だけで構成されている人間じゃないんだから」

二年のとき、上級生も含まれた俺のファンというわけのわからない団体に囲まれたは、そう言っていた。

ひどく嬉しかった。

と、同時に他の女子よりもに自分を見てもらえればいい、と思った。

誰よりも、だけに。








「すまないが、気持ちは受け取れない」

下級生からの告白に内心うんざりしながら、俺はそう言うと「気持ちを伝えれただけで充分です」という言葉と、頭を下げられてそのまま彼女は走り去ってしまった。

を俺が振ったということを知っているのは、の部活仲間(友人達)である女子と不二たちテニス部のレギュラーだけのようだ。

だが、何も知らない他の連中も俺とのギクシャクとした空気に気がつき始めているらしい。

二年の時、はしょっちゅう俺のファンだという女子に呼び出しをされていたが、三年になってからは一度もない。

(俺や大石たちが目を光らせている、ということもあるだろうが)

密かに「喧嘩をしたのか」と聞いてくるクラスメートさえ居るのだから、目ざとい女子は何か思う所があるのだろう。

小さく、溜息が出る。

気持ちを伝えられただけで充分。

下級生の言葉を思い返す。

彼女は勇気を出した。

「彼女に引き換え、俺は卑怯者だな」

嘘の気持ちを彼女に伝えて傷つけた。

そのくせ、自分の傍に居て欲しいと、まだ願っている。

「何が?」

「…河村」

「委員会で遅れちゃってね。一緒に行こうよ」

「…ああ」

ラケットなしの河村は落ち着いて話せる。

俺は頷くと河村に歩調を合わせて歩き出した。

「あのさ、手塚。…手塚、もう少し肩の力抜いたほうがいいと思う」

「河村?」

見ると、ぎこちなく河村は笑う。

「そんなにいつも片意地張っていたら疲れてしまうよ?」

「…そう、見えるか?」

「このごろは特に」

そうか、と俺は苦笑いを内心浮かべる。

「自分では無理をしているとは思ってないんだがな」

「無理、してるよ」

河村ははっきりと言い切った。

それから。

「もう少し、我侭言っても罰は当たらないと思うよ」

河村の言葉に、俺は(そうか?)と思う。

「…我侭、か」

「うん」

ふいに、外を見るとの姿が見えた。

何か話しながら帰っていく。

俺は立ち止まって、彼女の背中を見つめた。

「手塚」

河村の呼びかけに小さく「あぁ」と応えて、また歩き出す。

「…いいの?手塚」

何が、とは河村は言わない。

「あぁ…」

俺の一番の、我侭は口に出せない。

「遅くなった。少し急ごう」





俺の我侭は。

笑ってくれること。

もう一度、心がほっと温かくなる、の存在が隣に居てくれること。




だけど、それは口に出してもきっとかなわない。


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