全てに嫉妬している



「あ、あのね。さん…っ」

「うん?」

同じクラスの男子だったはずだ。

中庭の掃除でと二人っきりになったと勘違いして。

「お、俺…さんのことが…」



それから先の言葉を聞かせたくなくて、にすかさず声をかけた。

「手塚君」

「て、手塚っ!」

「ちりとりがないんだが知らないか」

「え? ちょっと待ってて」

そう言っては探しに行ってくれる。

「手塚ぁっ」

恨みがましく睨んできたそいつを、俺は一睨みで黙らせた。

(俺が、言えないのに、なんで、お前が、言うんだ)

何を、とかそういった事を深く考えないでただ顔をしかめていた。

それは二年のときのこと。


今からなら、つくづく思う。

あれが始めて自覚した『嫉妬』だったのだと。








「最近、って可愛くねぇ?」

体育の時間、着替えている最中に誰かが言った。

びくり、とそれに反応してしまう。

「あ、あの子な」

隣のクラスの奴がそれに同意する。

「一緒に居る子たちも可愛いしさぁ」

「今度、一緒に遊ぶか聞いてみようかなー、とか思ってんだ」

へらへら笑いながらそう言ってるのが聞こえる。

「手塚、眉間に皺」

大石がすかさず小声で言ってくる。

一組と二組は体育が合同で、着替える教室も同じだ。

「大石」

「手塚、お前、とほんとどうなってるわけ」

同じクラスの友人がそう肩をたたいてきた。

「いいのか? ナンパ許して」

「………俺が……どうのと言える立場じゃない」

俺はと恋人同士でもなんでもない。

…しかも、俺は彼女を振った人間なのだ。

「お前がそんなだから、ああいう連中が目ぇつけんじゃねーかよ。知らないぞ、達が変なことになっても」

変なことになってもってどういう意味だ。

「あいつ、二組の『愛の狩人』」

「えーっとどう言っていいんだろう…。なんというか…か、彼女を切らしたことないかな…?」

腹からこみ上げてくる怒りを抑える。

「で?」

「ぼろ雑巾のように捨てられるんだわー、

「いや、そこまでは…」

遠慮がちに言う大石にそいつはへっと鼻で笑った。

の周りに居る子もいまどき珍しい純粋培養。よく言えば素直な子たちが揃ってるよなぁ?」

悪く言えば鈍くてとろいんだけどさぁ。という彼を睨む。

そこまで言うな。

こそこそと俺たちは言い合っているために、大声で話してる連中には聞こえない。

「騙す方法ならいくらでもあるだろうが」

そうクラスメートが言った時だ。

「あれ? お前彼女いなかったっけ?」

「あー、他校だからわかんないよ。きっと。それにばれても不自由してないし」

「お前ってひどい奴だなぁ」

聞こえてきたその会話で、なにかがぷちんっと切れた。

「大石、不二にメールを入れろ」

「え?」

「『お前の彼女が狙われてる』とな」

の周りには同好会のメンバーが集中している。

その中に不二の好きな子も含まれているはずだ。

そう連絡しておけば個人的に不二が動くはずだ。

「…あいつ、確かバスケ部だったな?」

「ん? あぁ」

「判った」

こくん、と頷くと俺は決めていた。

来学期の部活予算、どうなることになるか覚えていろよ、バスケ部。

「公私混同していーのか、生徒会長」

五月蝿い。

「使えるものは使う」

に対して、不埒なマネをされてたまるか。

「やっぱ、手塚、のこと好きじゃん」

「…」

俺は無言でそれに応えた。

「なんでカレカノになってねーの、こいつら」

「え? あ、あー…な、なんでだろうね?」

…五月蝿い。

俺はそいつを睨んだ。

へらり、と笑う。

「告っちまえよ。大丈夫だから」

簡単に、言ってくれる。

おろおろしてきた大石に対して俺は溜息をついて会話を終了させた。




生半可な気持ちの奴に、の周りにうろついて欲しくない。

それ以上に、彼女の対して本気になるだろう奴も。

の笑顔も、声も全て、俺のだ)

ふいにそう思ってしまい、自分勝手な想いにまた顔をしかめた。

を、振ったくせに…)





俺の黒い、独占欲が暴走している。

を泣かせて、を傷つけた分際で。





だが、それでも俺はその心を止めない。

止めてしまえば、自分の中の何かが壊れてしまいそうな気がしたから。








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