君の瞳に映りたい
「しょうがないよね、野郎連中ばっかりだもの」
そう承諾したのは同好会の先輩で、二年の俺は心配そうにその先輩の傍にいたの存在が嬉しくて、にやにや笑いたくなる表情を抑えていた。
料理同好会の先輩と、うちのテニス部の先輩同士が幼馴染だったというのが事の始り。
(合宿中は、の手料理食べられるんだ)
嬉しくて仕方なくて、が微笑みかけてくれたから俺も笑った。
(合宿中は、が俺のすぐ傍に居るんだ)
それは二年の夏のこと。
そして今年は。
「今年も頼めないかな、」
「どうしてうちの部長に言わないで私に言うの? 不二君」
「逃げ回ってつかまってくれなかったんだ。ひどいよね、同じクラスなのに」
にっこりと微笑む不二に対して、は小さく溜息をつく。
つきん、と胸が痛むが、俺は何も言えないので黙っていた。
ここは屋上。
達がサボる場所の定番の場所で、ぐるりと俺たちは彼女を囲んでいた。
「副部長さんもどこか行っちゃって」
本当に、ごめん。と大石が片手で謝りながら頭を下げる。、
「そうだよ。僕がこんなに頼んだのにすぐ逃げて」
「あたしも逃げたかった」
「は逃げる前に大石が捕まえてくれたから、本当に助かったよ」
その大石に彼女が行くだろうルートを教えたのは俺なのだが、黙っていようと思う。
に嫌われるのは嫌だ。
…相変わらず、は俺の方をまともに見ないが。
「頼まれてくれるよね、」
「うー…どうしようかなぁ…。経理としては少し嫌かも…」
「経理としてね」
不二の言葉に、ちらりと乾と大石の視線が俺に来る。
「じゃあ、『』個人としてはどうなの?」
「………ど、どういう意味かなぁ。あ、あたしとしては、別にどっちでもかまわないって言うのが、本音、かなぁ」
どもった彼女に不二は意味ありげに笑う。
「ふぅん」
「…な、なぁに?」
「いや、別に」
「大丈夫だよ、。研究会の会費は使わないでうちの部費を使ってくれれば。ね? 手塚」
不二に小突かれて、俺は「あぁ」と頷いた。
先ほどからに目を向けているのだがやはり見てくれない。
それが少し悔しい気がする。
…だから、という訳ではないけれど、彼女をじょじょに追い詰めてる不二と乾を、俺は止めない。
「そうは言ってくれるのは、嬉しいけど」
もごもごと、が何か言ってくれるが。
「あたし、一人じゃ決められないよ」
「そうは言ってもさぁ」
「だいだい、テニス部、マネージャー入れないから駄目なんだよ。臨時でマネ募集かければ?」
はそう言って唇を尖らせる。
ぐっと、内心その唇に触れたいとか不埒なことを考えてしまった。
「それでうざい女の子入れるの?」
「うざいとか言わないでよね」
「ただ外面だけ見て僕たちにまとわりついて精神的ダメージを食らわすような女の子は要らないんだよね」
またさらりと不二が毒を吐いた。
「不二」
「不二君、言いすぎだ」
大石との咎めるような言葉にも不二は笑顔で返した。
「でも事実だから」
笑顔で言うな、不二。
「ま、確かにこちらに気を使わせるような女の子は御免こうむりたいんだよね」
乾はかけていた眼鏡を指で押し上げる。
「彼女達に比べて、ほっとできるのって達ぐらいしかいないし」
乾の言葉にはようやく微笑を浮かべた。
……なんだか乾がくどいているような気がして、眉間に皺が寄るのを感じる。
「じゃあ、部長さん達にお願いはしておいてくれないかな」
あそこまで言われて、が断れるはずはない。
乾の言葉に、こくんとは頷いてくれた。
「お願いはしてみるけど、いいっては言ってくれないかもよ?」
そう言いつつ、大石と少し話してから手を振ってくれる。
だけど彼女は、やはり俺を最後までちゃんと見てくれなかった。
「手塚は結局最後までとまともに話さなかったね」
「……」
不二の言葉に答えるつもりはないので、俺はそのまま教室に戻ろうとする。
「手塚。と喧嘩してるのかい?」
判っていて、乾が聞いてくる。
「いや…」
「ここまでしてあげたんだから、ちゃんと仲直りするよね。手塚」
仲直り、という単語に違う意味合いも含まれているのを感じて、不二を見る。
……副音声に「さっさと告白しろ」という言葉が聞こえたのは……気のせいじゃないらしいな。
の様子を思い返して、目を伏せ。
それから。
「それができるなら、もうやっている」
俺はそう言い捨てて教室に戻った。
「…テニス以外は本っっっ当に不器用だな、手塚」
「乾、今更だよ…」
「上手くいけばいいけど…。って乾と不二はどうして……」
「……こういうことで他人に手を貸すのは不本意だけど、そうしないと自分の恋愛も進まないからさ…」
そんな会話をしていたことを、俺は聞いていなかった。
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