レポート00 終わりのはじまりを体験したのは





横島忠夫は目を覚ました。

瞬きを繰り返して現状を確認する。

脳裏に浮かぶのはつい先程までの光景。

最高指導者たちとの謁見。

磨耗しきった男との邂逅と、自分の決断。

瞬きを繰り返す。

「…ぁ」

小さく声を上げた。

己が…正確には『横島忠夫』の魂の残滓である彼は、その記憶に涙した。

前世からの因縁―――ゴースト・スイーパーの助手としての毎日―――やがて巨大な魔王との係わりが発覚―――最愛の魔族との出会いと別れ―――戦い。

新しい出会い――。

全てが彼の中に【思い出】として残されていた。

今現在の自分はまだ経験していない。

しかし、やがて経験する「かも」しれないこととして認識する。

彼の未来…大人になり、雇用主と結婚して月日を重ねた彼はその功績と能力を認められて死後【英雄】として神の仲間入りを果たすのだ。

だが、その神化を本人は当初嫌がった。

輪廻の輪に入りたがったのだ。

普通に死んでしまえば、彼の娘として転生した最愛の彼女と再び巡り会える。

今度は親子ではなく、恋人同士として。

または同じく人間として。

最終的に、彼は折れた。

自分は人間として死なないが、彼女…ルシオラは輪廻の輪で再び生まれ変わってくる。

それから会おう、ということになったのだが…その折に、小さく反発する気持ちがまだ残っていた。

その反発した感情と記憶を神魔の最高指導者たちは見抜いていた。

すぐに彼はその感情を打ち消したが、それでも感情は消えることはない。

彼らは緩やかにその感情を極秘裏に彼から奪うと、それを押し流した。

彼らに対してみれば、それはどこへ、とも目的を定めずにただ奪って消したという意識しかない。

その感情は、元の元主のように稀有であった。

消されたそのまま、時間も空間も飛び越えた。

【世界】という概念すら超越したのかもしれない。

それ…その英雄から奪われて押し流された【感情】が今、こうして涙を流している横島忠夫そのものになってしまっていた。

もともとのこの身体の持ち主である横島忠夫の記憶に【感情】と、それを生み出した【記憶】や【思い出】まで付随していた。

そてを見て、感じて、体感して彼は泣いた。

悲しくて辛かった。

「人間」としての自分…たとえどんな特殊能力を持っていたとしても、そのカテゴリは人間だった…を、彼は愛していた。

最愛の女たちとであったのも、自分が「人間」であったからだ。

「阿呆やなぁ、自分」

横島は今現在、自分の中にある感情と記憶の持ち主であった平行世界の未来の自分を罵る。

「俺は、お前みたいには、ならへんぞ」

(なんでそこで妥協すんねん)

少年は呟く。

「俺は」

未来の自分の心を放さないルシオラという魔族。

未来の自分の妻になった美神令子。

愛しかった、という気持ちが湧き上がる。

初恋じみたそんな感情にまた涙があふれた。

瞬きを繰り返して、それを涙と一緒に彼は流す。

「俺は、お前とちゃうねん」

未来の自分は、その道筋を辿ってしまった自分であり、今現在こうして起きたばかりの彼自身ではない。

そう、自分に言い聞かせる。

「俺は、お前と違う横島忠夫や」

この時、彼は中学生。

その日よりスケベでムードメーカー的な少年は、文字通り生まれ変わった。







つまらない人生だった。

いや、何事もすぐに諦めた人生だった。

何をするにもやる気が沸かず、かろうじて母の為に生きていた。

恋愛だって学業だって、全てにおいて諦めたおかげかその報いは大人になって受けている。

人付き合いを諦めたおかげで友達の絆は薄い。

恋愛を諦めたおかげで、大人になっても男性の影が一つもない。

仕事には行くが低賃金で生きていくことに必死。

仲がいいのは、たった一人の家族だけだ。

(その人生の終わりが、これかぁ)

鉄錆の味が口いっぱいに広がる。

通り魔から母をかばった。

大きなナイフを避けられずに体で受け止めた。

痛さで、辛かったが他の人を指されるわけには行かない。

悲鳴と一緒に犯人の腕をつかんだ。

お母さん、逃げて。

呻くようにそう言ったのを覚えている。

知らない男の人たちが、犯人を取り押さえた。

救急車ー!! と叫んでいるのを聞いたのが最後。 今では、傍で半狂乱で自分の名前を呼び続けるその母の声が遠く聞こえるしかない。

(ごめん、ね)

謝りたかったがもう口は動かない。

(生まれ変わっても、お母さんの子供でいたい)

母子家庭だった。

母も子供を産むには歳を重ねすぎているので、現実的に無理なことは彼女にも判っている。

もしも生まれ変わったら。

だがその死ぬ間際の思いは止まらなかった。

母の子として生まれたら、もっと子供のときに勉強をして、少なくとも今よりもいい就職先について。

好きな人をちゃんと作って。 そんな夢想をしながら、彼女は目を閉じた。

そのはずだった。

ふ、と意識が浮上すると天井が見えた。

その独特の臭いからして病院だとわかる。

「…! 起きたのね!」

あぁ、良かった良かったと泣く母は、どう見てもさっきまで自分がかばってしまった母よりもだいぶ若く見えた。

「おかあさん?」

起き上がると激しい頭痛にさいなまれて、顔を思わずしかめる。

「学校で悪霊騒ぎに巻き込まれたの、覚えてる?」

「あくりょう、さわぎ?」

は? と聞き返して母親はまた慌てふためいて騒ぐと医者が飛んできた。

彼女は自分の身体を見つめた。

ふっくら、というのが控えめな表現の自分の身体。

手荒れもなくてみずみずしい、というかぷくぷくした指先。

ずきずきと痛む頭を抑えると包帯の感触。

目を凝らす。

(あれ)

眼鏡をかけなければ見えなかった場所が、よく見えることに彼女は気がついた。

そして。

(うそ)

目に飛び込んできたカレンダーが、彼女の思考に止めを刺した。

その年号は自分が中学生の時の時間だった。

ばたん、と彼女はまたそのまま倒れこんだ。

この直後、彼女は頭部外傷による逆向性部分健忘症と診断されて数日間入院した。





これは終わりと始まりを文字通り体感した男女が、この世界に産声を上げた時のことである。






ブラウザバックでお戻りください

リハビリ用ねたです。

良くある(?)「GS美神」横島くん逆行と、GSだとほとんど見ない現実→若返りトリップなオリ主(女)を混ぜました。

原作のようなセクハラ魔神にはならない上に、おそらくルシオラや美神さんとはくっつかない横島君なので万人受けしないし誰得なお話になります。

書いてる人は横島×ルシオラが至上ですが、このお話はそうなりません。

警告でも書きましたが、その手がお嫌いな方はこれ以上読んだらきっと鼻に付くお話が増えていくと思うので、この物語の存在ごと記憶の彼方にすっ飛ばしてください。

いや当初は完全な男女の友情(横島はルシオラたちとラブラブしながらもオリ主にはセクハラしなくて、いい友達)ものを考えていたんですけどね(苦笑)。

でもやっぱり(自分が作った)女の子は(誰かに)愛されたいのよ!(笑)ということで。

あと今思いついたんだが、お母さんも誰かの恋愛対象にしたい。

本当、誰得なお話ですが…読んでいただいてありがとうございました!


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送