レポート01 かくして努力の人となり
(…どないしょ)
横島忠夫は、自分の中に流れてきた「自分ではない横島忠夫が決定した【未来の自分】」にならないように、どうすればいいか考えていた。
一番簡単そうなのは転勤族である父親についてナルニアに行けば、日本のごたごたに巻き込まれずにすむ。
そうすることによって一般人としてこのまま死ぬことは出来るが、オカルトの能力に覚醒しないままというのは惜しい。
それにあの【結果】が気に入らないだけで、あの過程でであった人物達(神族・魔族も含めて)との出会いを否定するわけではない。
その人生の道筋で出会った神様や魔族、男性もそして愛すべき女性達に対して「会わなければ良かった」などとは思わない。
今の自分が「会おう!」と積極的には思わないが、新しく今の横島忠夫として出会い、友人・知人になる分にはまったく構わない。
現在は生まれてもいないルシオラや、前世で因縁もある美神令子の二人に関しては今の自分ではない「あの最後を認めた」横島忠夫の相手という感覚が抜けきれない。
(あの俺は俺やない…)
会ってもいないのに失恋じみた感情が浮かぶ。
あの二人は自分が選択しなかった未来での恋人であり妻であって、今ここで思考する横島忠夫の女ではない。
…いや今後、恋愛に発展するような機会が与えられたそれは判らないが、しかし現時点ではその相手にあえて二人を選ぼうとは思わない。
(ややこしぃなぁ)と思うと、横島は思考を切り替えた。
自分が受け止めた【未来の横島忠夫の後悔】という感情に付随した【未来の記憶】の断片をまとめて、眉を寄せる。
歴史の修正力だか因果律のなんだかんだもあって、今の自分の記憶にある大きな事件は確実に今の自分に降りかかってくるのが予想できた。
単なる丁稚から、一人前のGSへと昇華した未来の横島忠夫のその【記憶】に中に、今の自分が霊能力に覚醒するのに必要なことを検索する。
(後悔すんのだけは嫌やからな)
自分は知りえた未来だが、それを過去の自分が受け止めていることですらイレギュラーだ。
もしかしたら、その未来にはない事件が自分に降りかかるかもしれない。
あるいは未来の事件が早々に自分に襲い掛かるかもしれない。
その事件から逃げても、もしかして、ということがある。
一歩間違えれば死ぬのが、オカルト世界。
何事にも余裕と、そして手数を増やしておいたほうが一番だと彼は考える。
未来の横島の主な霊力の形の最終形態は「文珠」ではあるが、いくつかの武器を己の霊力で生成できた。
今は霊力は目覚めていないが、確実にそれが自分にあることは知っている。
(もしもの時に困らへんのが一番や)
霊力の覚醒。
未来の横島は、神族である小竜姫の与えてくれた竜気で生まれたバンダナが上手く引き出してくれたわけだが、今現在そんな存在が身近にいるわけもない。
小竜姫たちが住まう妙神山は場所は知っているが紹介状がないと入れはしない。
いきなり行って「修行させてくれー!」は流石に出来ないことは、今の横島にだってわかるのだ。
「ま、なんとかなる」
前世であった陰陽師・高島時代の記憶はないものの、その使う技に関しての知識も断片的にある。
こうしてこの時代、この世界の横島忠夫は静かに霊能(オカルト)の道に進み始めた。
彼女…は息を吐き出した。
病院を退院してから中学生(子供)に戻ってしまったことを深く考える心の余裕を、今までずっと持てずにいた。
落ち着く暇もなく事件の後始末に追われ、そのどさくさに紛れるように両親が離婚して、いっそのこと親戚も友達も少ない場所で心機一転しようと引越しした。
退院直後やそのあたりの時間の黒歴史(と、本人は考えている)は彼女としては思い出したくもない。
また、転校した先の学校では授業内容が先に進んでしまっていた。
教科書に会う参考書を購入し、必死になって授業に追いついたものだ。
記憶を失った自分だと思っている若き母に苦労をさせるつもりはないので、学校の成績を上げるのに勤しんでいる。
念の為、悪霊騒ぎに巻き込まれた傷だったので、優しいゴースト・スイーパー(以下:GS)の霊視による診断も受けた。
(そう、【ゴースト・スイーパー】)
はまた息を吐き出した。
その存在を、前世ともいうべき大人の自分は知っていた。
一時期はアニメにもなった長編漫画の世界に、若返って蘇った自分は生きている。
(漫画や二次元でしか見たことなかった異世界トリップってやつかな)と、思いながら公式を見つめる。
しかも前世と同じ母で、前世と同じ継父だった。
離婚劇の理由も時期も、思い出せば似通っている。
学校のクラスメートは知らなかったが、先生達は一緒だった。
その当時の自分の環境ごとトリップされたような、そんな感覚に眉を寄せる。
理由も何もわからない。
それに「なぜ?」「どうして?」を考えてしまいそうになって、頭を振る。
そんな理由、判るはずもないのだ。
判らないことに頭を使うよりも、数式を覚えたほうがよいと頭のどこかでそう考えてしまうがまた次のことが浮かんだ。
(でも、この世界…ギャグじゃなかったら死亡フラグ満載な漫画だよね。一般人)
霊感がほとんどなさそうな一般人でさえ、簡単に霊を見てしまう世界。
悪霊や悪い妖怪がわんさかいる世界。
あいにくとかなりもうかなり以前に連載も終わってしまったため、物語の内容はうろ覚えだがキャラクターの何人かは世界観と一緒に覚えている。
を助けてくれたGSもそのキャラクターの一人だったのだ。
完全に同一と言われたら判断はつきかねるが、容姿と経歴と住む場所は漫画そのものだった。
(だからといって人間関係を考える、とかいうのはあえて考えていないけど)
漫画を見ていた当時は純粋に「面白かった」という記憶がある。
オカルト的な要素が浸透した現代社会で、自分の常識の範囲内に霊能関係が増えたこの世界。
(でも、平々凡々なあたしには、あまり関係ないかも)
霊能関係に多少の憧れもあったが、しかし悪霊騒ぎで怪我をしたのにその手の能力を開花した、とかいう漫画チックな展開はまったくなかった。
考えれば自分は死んだはずなのだ。
それなのにこうして過去に戻った状態だけでもありがたいと思う。
「生まれ変わったおかげで霊能関係の全ての才能を失いました」と教えられても構わなかった。
奇跡と言うのはなんど起きてもいい。
だが、そう何度も同じ人間におきるとは限らない。
彼女は教科書とノートに目を移した。
前世の大人のときではまったく覚える気もなかった数式。
死ぬ間際の自分の想いを彼女は覚えていた。
「もっと勉強して、もっとがんばって、もっといい就職先を見つけよう」
頑張りすぎると熱を出してしまうのだが、彼女は努力を惜しまないことにした。
勉強もだが運動にも精を出した。
運動音痴であるのでもっぱらウォーキングだが。
おかげでぷくぷくした身体は、ようやくと「ぽっちゃり」の表現が当てはまるぐらいになったし、成績も昔に比べて上になった。
母親は最初は当惑していたが、記憶を大部分失った(と思っている)娘の好きにさせていた。
記憶のいくつかを失っているのに、全ての環境を悪化させて苦労を重ねさせてしまっている、という負い目もそこにあったかもしれない。
それに彼女は甘えることにしている。
引っ越してからの母親は、がむしゃらのように働いている。
まだ中学生なのでアルバイトは基本的に無理なのが心苦しかった。
母親の働きに応えるのは、努力し続けるしかないと彼女は思う。
新しい土地で、彼女はゆっくりと、しかし確実に歩き始めた。
この一組の男女が出会うのは、これから数日後のことである。
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リハビリ用ねたです。
女主は霊能力なしの人でいきたいです。途中で目覚める! とかいうのもなくて。
誰得なお話ですが読んでいただいてありがとうございました!
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