レポート02 縁は生まれて





転がってきた消しゴムを拾って、渡した。
       ふ た り
それが横島忠夫との出会いだった。





進学塾に通うのもこれ以上の金銭を母親に支払わせることが苦痛だった彼女は、教科書の要点をまとめた参考書とノートを持って図書館の隅っこで勉強をしていた。

アルバイトもできない学生は、遊べばいいのだろうがその余裕が彼女になかったのだ。

さらに勉強を見てくれるような親しい友人も出来ていなかった。

担任になった教師だけは親身になって面倒を見てくれたが、流石に放課後までその手を煩わせることは心苦しい。

要点をまとめたプリントや宿題を鞄に押し込み、学校帰りに最寄の図書館にいた。

彼女にしてみれば大人であったときはまったく使わなくなってしまったその場所は、どこか安心できる空気を出してくれていた。

気がつけば放課後は必ずそこに立ち寄り、司書の大人たちとも顔見知り以上の関係になっていた。

対して横島の場合は、自分の素直な直感(ある意味、霊感ともいう)に導かれてその日、その場所にやって来ていただけだ。

自分の霊能力の方向性はなんとなく理解しているし、ゆっくりとその力を目覚めさせたのは良かったのだが如何せん彼の手元に自分の霊能力の幅を広げるための資料となるものがなかった。

あの【未来の横島】の中学生時代でもそうだったが、ほんの少し前の自分はただの一般人であり、縁起を担いだりするぐらいしかオカルトには全く縁がない子供なのだ。

オカルト向けの書籍も一般の図書館にあるとは思えないが、それをかじっているような本は転がっているはずだ。

あまりにもそっち系統の力が強すぎると、一般物ではなく、その手のものをそろえている好事家かオカルト関係者の手元に行ってしまうだろうが。

(兎に角資料、資料)

目覚めたての彼の霊力は、あの記憶の彼の足元程度しかない。

本当ならば筋のいい霊能力者…GSを見つけて、師匠にすればいいのだろうが、自分が知っている彼らは美神令子との縁が強すぎる。

温和そうな唐須神父は彼女の師匠。彼に会いに行けばもれなく彼女も付いてくる。

六道冥子はまだ令子とは知り合っていないはずだし、横島の霊能力とかぶるところがあるのだが、彼女の親同士が知り合っている可能性が高い。

何よりも六道家と係わり合いになるには、まだ自分は小さな存在だ。

取り込まれたりしたら厄介で、首が回らなくなる危険がある。

小笠原エミもまだ知り合ってはいないはずだが、霊能力の系統(ジャンル)が多少違う(少なくとも横島はそう考えている)ので師には向かない。

まぁどちらにしても、もとよりコネがないのだ。

(どっちかというと、古神道? いやいや)

平安時代の陰陽師高島は「逃げ」に特化した術者だった。

その手段としての知識はあいにくと穴だらけだが、本来の陰陽師ではなかったことは確かだ。

そのあたりの記憶は曖昧で、自分の霊能力の幅を広げるための資料としてはまだ足りない。

札を使うとかそういったことは判っているが、その札自体はどうすればいいのか。

あの強欲極まりないけれどAVの趣味は良さそうだった厄珍のところで買うには金が要るので、出来れば自作したいがそれが今の自分で可能なのかどうかを知りたかった。

そうすれば装備を整えるだけの金は必要なくなる。

あと本当の意味合いでの「陰陽師」とは何だったのだろうか? とも思った。

未来の自分の記憶の中にいる高島(前世の自分)を基準としてみてしまうのは、いけない。

横島は図書館に入ると、オカルト系か歴史系の書籍をまず探した。

分厚い辞書並みの本が並んでいるのに、思わず遠い目になる。

今も昔も、そしてあの【未来】であっても横島のバイブルは薄くて判りやすい文章か、綺麗なおねーちゃんたちの裸体やエロい情報満載な本だったのだ。

資料というか、知りたい情報の類は口頭でいつも教えてもらっていた記憶がある。

(あかん、あかん。初志貫徹やろ、俺)と、横島はその本棚を歩き回った。

オカルト系は本当に触り程度のものしかなかった。

ならば歴史系にと手を伸ばしたところで、何か小さなものを踏んだのに気がついて足元を見ると消しゴムがあった。

実用的なそれはひどく小さくなるまで使われていた。

目線を上げると、机の上を探している同い年ぐらいの女の子がいた。

「これ…もしかしたら」

「……ありがとう」

それがだった。

横島が差し出した小さな消しゴムに、がお礼を言った。

その言葉に横島は「どういたしまして」と笑い返した。

横島としての第一印象は「ぽっちゃり系の子やな」というところだった。

にしてみれば「どこかで見たことある? 人だな」というところだった。

お互い同じ中学の制服なのに気がついた。

(がり勉なんか?)

横島は広げられている教科書のページに自然に目をやってしまって、そうしてその箇所で首をかしげた。

「そこ、もう授業は終わってるだろ? 復習?」

「え?」

瞬きをが繰り返して、そうしてもごもごと口を動かした。

「…そうなんだけど、まだあたしは習ってないっていうか…」

なるべく周囲にはばかっては会話を続ける。

勿論、深い家庭の事情は話さないが。

その内容に、はっきりと言ってしまえば横島は彼女に同情した。

急な引越しで友達もまだいない、というところは自分の小学校時代を思い出させた。

あと一年はあるが、もうすでに高校受験を考えなければ行けない時期なのは横島も判っている。

だというのに、前の学校の授業自体が遅れていた為に今の学校の授業についてこれないのでいるのだ。

(野郎やったら「ほな、がんばれや」ですますんやけどな…)

だが目の前にいるのは女の子だ。

「…俺、わかる所、教えようか?」

横島の口はそう動いていた。

は「悪いから」とそう困ったように言ったが、横島は少し考えて「俺も復習になるし…全部っていうわけもいかんけど」と返した。

「えぇっと…」

「俺、横島忠夫」

(ナンパ目的以外で声をかけるのなんて初めてやのー)とか思っていることなど、彼女には判らない。

横島がクラス名を言うと、七海はそれが少しだけ離れたクラスだというこを知って、それを口にすると横島は納得した。

このところ霊能力関係でいっぱいいっぱいだった横島は、己のクラスにばかりかまけていて隣なら兎も角、その次のクラスまで遠征して女の子を見ることをしていなかった。

それに女性からしてみれば酷い話だが、同じクラスの男子から「デブで可愛げがない」とかそういう話しか聞いておらず、横島はその時点で記憶から消去していた。

(あいつらの目、節穴だろ)

横島はクラスの男連中を軽く罵る。

「…あたし、。…本当に大丈夫?」

自分を気遣うように見上げてくる彼女は、ものすごく美人と言うわけではないが可愛い系に入る女の子だ。

ぎゃんぎゃん五月蝿いおんなじクラスの女どもよりも可愛いではないか。

少なくとも今はそう思った。

「俺も用事があってきたから、それしながらだけど」

その言葉には少し考えてから、そうして嬉しそうに彼に笑顔を浮かべた。

「ありがとう、横島君」

「…」

その笑顔と感謝の言葉に横島は、思わず頬を染めた。





これが後々、タイガーや愛子に聞かれて「べたすぎじゃのー」だの「それも青春よね!」など感想を言われる二人の出会いの顛末であった。

また、はこの後小一時間横島に勉強を教えてもらってから、家路に着き、家事全般をして一人でゆったりと出来る入浴の時間に彼が自身が知るあの【横島忠夫】その人ではないかと思い出すのだが…それはまた別の話である。




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リハビリ用ねたです。

関西弁書くの下手になった自分がいるのに気がつきました。



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