守護者の夢


(4)



「軍人さんになっちゃったんなら、規則とかで外泊とか出来ないんじゃないのかな…。その、大丈夫?」

「ここに来れたのも強制ですし、何より明日は休みでしたから別段構いません」

「…と、いうかもう直衛くんにはどうにもならないものねぇ」

二人で乾いた笑いをしたのは、彼女…の部屋に戻ってきてお茶を頂いた時だ。





夕暮れ時も過ぎ、二人分の食事の用意をするの後姿を見つつ、僕は買っていただいた細巻の一つと真新しいマッチを取り出す。

聞こえてくるのは穏やかな、彼女の鼻歌と料理の音。

あ、うずく。

箱を、かたん、かたんとテーブルの上で動かし、結局僕はその欲求に負けた。

、さん」

とってつけたさん付けで名前を呼ぶと「んー、なぁに?」と返ってくるのが嬉しくて、しかし小心な僕はほんの少し足踏みをした。



駄目かな、駄目だろ。

いやいや、笑って許してくれるかもしれん。



後ろまでやってきて、「えぇい、ままよ」とばかりに後ろから抱きついた。

「うひゃああ」

女らしからぬ悲鳴に、くつくつと笑いがもれる。

「直衛君、危ないでしょう」

「大丈夫です」

大丈夫じゃない、とか言いつつ動きが止まる。

「直衛君っ」

「はい」

暖かな彼女の身体。

軍から遠い場所にある家庭の空気。

「その、体勢はとてもあたしが恥ずかしいんですが」

「僕はそうでもありません」

しれっとそう耳に囁くと、面白いように顔を紅くする。

僕に反応してくれるそれにくつくつと笑うと後ろから抱きしめた。

「ちょっ、まっ、直衛くんっ?!」

なんともまぁ、初々しい反応だ。

「今日の夕飯はなんですか?」

彼女の肩に顎を乗せて手元を覗き込む。

今までに会えなかった反動もあって、僕はまるで千早が僕に匂いをつけるかのように彼女の身体を求めてしまう。

…性的な意味合いもそれは確かに欲しいが、そんなにせいてしまっては彼女に申し訳が無いし、せいては事を仕損じるとも言う。

そう考えながらどこかで欲望がうずくのを感じるが、おくびにも出さない。

幼い頃のときと同じ時間を彼女と過ごせるのならば、まだ多少の時間はあるだろう。

それまでは、あの頃のように甘えたい、じゃれつきたいと思ってしまう僕がいる。

が僕を振りほどかないのは、恥ずかしくて思うように体が動かないことと、子供の頃の僕の様子を知っているから拒絶できないのだ。

それはそれで、今の僕にとっては好都合。

「んー、直衛くん、猫みたいねー」

強張っていた身体が力を抜くのが判る。

照れてはいるが、徐々に慣れてきたのだろうか?

テレながらそう言う彼女に「それはいいですね」と僕は答えた。

猫。

まあ、この僕はただの猫ではない。

いうなれば、僕は彼女の剣牙虎(ねこ)だ。

』という安らぎをただ懐に入れ、それ以外に牙をむく。

小心者で臆病な僕は、が誰かにとられてしまわないかとびくびくしているから、周囲はきっと大迷惑だろうがそんなものは僕の知ったことじゃない。

その牙に血をつけることもいとわずに。

その爪を立てて、彼女に近づく一切を切り伏せようか。

それはそれは楽しいだろうなぁ、と思いながら、僕は彼女の首筋に頬を寄せた。


「うわぁっ!」と彼女が慌てて包丁をがちゃんとまな板に落としたのはご愛嬌。








食事が終わって、いろいろと話をすることができた。

は僕が会えなくなってしまった12歳ぐらいな頃から、今までの16年間を聞きたがったがの耳に入れて楽しい話題はほとんどない。

私生活の方でかなり荒れたあの時のことを告白する度胸はない。

軍に関しては機密扱いだし…それにから…それに伴い僕が助からない味方を殺してしまったことなどは話さなくてよろしい。

口に上ったのは、義姉に女の子が生まれて初姫と呼ばれていることや、猫の話題。

悪友たちの話で、多少女子に話しても差し支えない程度に包んで話をする。

「じゃあ、直衛くんは叔父さんになったわけだ」

おじさん。

「…まぁ、確かに初姫にとっては叔父ですね。血は繋がってませんが」

でも貴女にそう言われると一気に老けた気がする。

そう呟くと、小さく笑われた。

「女の子かぁ。そうしたら、直衛君の服を持って帰って貰っても着られないねぇ」

「…持って帰れるかどうかが問題ですが」

幼い頃は着ていた服はいつの間にかこちらに来るときに着ていた物に変わっていたし、持ち物の類も同様だった…気がする。

「でもお菓子とかは持って帰ってたと思うよ」

「そうでしたっけ?」

「そうだよ」

お茶を差し出されて、頂きますとそれに口をつける。

暖かな空間と、空気と、どこか甘い場所。

「大きなぺろりんキャンディ持って帰ったじゃない」

あ、思い出した。

「千早に飛びつかれて半分取られました」

「千早ちゃんはおてんばさんだねぇ…ってあれからどれだけ大きくなったの? 千早ちゃん」

この人と一緒に居られるそれだけが、おそらくは僕の幸福というヤツなんだろう。

彼女と一緒に安穏と暮らしたい。

いやいや、千早も一緒だ。

駒城の家ではなくて、どこか小さくでもいいから家を買って、そこで二人と一匹で暮らしたい。




そうが見つめるのは僕だけで、が触れるのは僕だけで、が笑いかけるのも頼るのも全て僕だけ。




ぞくり、と興奮した。

僕は終始、微笑み、というか笑っていたと思う。




独占欲と支配欲、いもしない、あるいはいるかもしれない存在への嫉妬。



千早の大きさや、剣虎兵隊の猫たちの様子を教えてから僕は聞いてみた。

「貴女のほうはどうですか?」

「ま、それなりに」

にっと笑う。

彼女は僕が幼い頃からこの場所に一人で住んでいた。

女の一人暮らしは物騒なので、友達に来てもらうか、と言っていたのを思い出し…。

「…そういえば、僕が来てしまっても大丈夫、ですか?」

「え?」

「…その…好いた人とかは…」

ふいに脳裏に泣いていた彼女の姿が思い浮かべた。

彼女の目の先に、一組の男女の姿があった、ような気がする。

妙にいらついた。

自然と目が据わる。

「ん、大丈夫」

それは居るという意味でか、それとも恋人などいないという意味でか。

そうは思っても口に出さない。

男になれていない、とは言ってもそれで男がいないという補償はないではないか。

彼女も妙齢なのだから。

「今は、いないよ。だからそんなに不安そうにしないの」

上目使いで見ていたらしい。

子供の頃の僕が同じようにすねていたのだろうか?

まるで子供に言い聞かせるような口調で言ってから、はっと気がつき、彼女は唇を尖らせる。

「悪かったね、今独り身でっ」

「何も言ってませんよ」

逆に一人でよかった。

一人がよかった。

その方が貴女を手に入れやすくなる。

そう思わず呟こうとする口をつぐみ、僕はお茶をまた一口飲んだ。

「こ、恋人の一人や二人や三人はちゃんと作るんだからね!」

「恋人は一人にしなさい。三人もいりません」

僕の様子に年上であったという矜持がくすぐられたのか、恐ろしいことを言い出してきたに僕はきちんと諭した。

過去の僕の所業? そんなものは棚の上だ。





全く…貴女がそんなことを言うものだから、僕の中の何かは貴女を壊したいと思ってしまうじゃないか。

僕以外の人間を見るな、触れるな、想うな。

貴女には僕がいて、他には何もいらないのだ、と。






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猫の習性として、「こめかみと口元、尻尾の付け根には、特別なにおいを出すところがあって、
それをすりつけることで自分の匂いをつけると同時に相手の匂いをつけて、そこが自分の匂いがするとろが安全な場所と認識する」というのがあるそうです。

千早たちもそんな感じでGO。

そして新城さんが甘えてみました。猫系で。

皆さんの妄想で、漫画版のあの人がすりすりしてるのを想像してください。

オイラは結構可愛いと思うんだが、どーよ。(真顔)

またいらない設定ですが。

ヒロインさんは子供の頃の新城さんが来てた時に失恋したっていう設定です。

新城さんが見たことがある、彼女が泣いていたシーンは失恋を自覚して一人で泣いてた彼女を、新城さんが慰めたというところ。

隠し設定ですが、どう慰めていいかわからなかったので、とりあえず義姉に慰められたときの言葉を使ってみたのですよ、新城さん。

で、今までの彼氏とは本番まではしなくておさわりとかキスばっかりみたいな。

それに恋人にじられて振られた、みたいな感じですかね。

ちょうど子供(新城さん)が来ていまして邪魔してましたからしょうがないといえばしょうがないか。

けっこう男の人には好かれるタイプなんですが、どうしても「お友達」の感覚が抜けなかった、というかなんというか。

それがまぁ、高校生時代?

それから大人になっても、新城さんがきてましたからいちゃいちゃできないから、男のほうから離れていって。

んで、今現在まだフリーなところに大人になった新城さんが到来です。

…うん、ヒロインさんはあれだよ。たぶん、もう彼氏できない。(不憫な)

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