猛獣使いは貴女という幸福をつかみたい


(7)







「直衛くん、気分転換に外に行こう」

そう言われて、僕はこちらの世界でも自分の世界でもいるような服装に着替える(着替えさせられた)とと一緒にとある場所まで歩いていくことになった。

彼女の家からほど近くに大きな建物が建っており、幼い頃の僕はドウブツエンやスイゾッカン等に行く前はあれがなんなのか知りたくて仕方がなかった。

幼い子供独特ゆえか、すでに興味は新しいものに移ってしまっていったのだが。

建物に入るにも金が入用らしかったのだが、無料券というものをは入手していたらしく、やすやすと入ることができた。

「博物館だよ」

ここの庭はとてもきれいで、最近になってようやく来れるようになった。と、は言いつつ先導してくれる。

建物の中に展示していたのはこちらの世界の歴史的に価値があるようなもの、であった。

面白いことに僕達の世界の昔、とほとんど同じような鎧兜も展示してあった。

違いはサーベルタイガーや龍たちがおらず、この世界はグランコードがなされていないということぐらいだろうか。

どうやら大きな部屋ごとに分かれて展示物を変えているらしく、物珍しいものも並んでいた。

もしかしたらアスローンや、僕の知らない国の昔のものかもしれない。

「次は外だよ」

が腕を引っ張った。

少し無理をしてるのがわかる。

僕の事を意識しているから、というのももちろんあるが。

僕が奏上…名目上とはいえ半神であられる主君に直接軍状報告をするということを彼女に教えたら…気がつかれてしまったのだ。

僕が、今から緊張していることに。

奏上をすると了承し、頷いたのは僕だ。

己で決めたことなのに。

いやはやなんとも…時折己の小心に苦い笑いが漏れてしまう。

その場所は、なるほど見事な部類に入る庭園だった。

の家の周辺は、民家や何かしらの施設が多く、自然の類はそうそう見られないのも手伝ってかひどくそれは美しく見えた。

「ほぉ」と小さく感嘆の声を出してしまう。

空は透き通るような青で、紅葉の赤もよく映えている。

いいな、確かに。

この美しさを凌駕する庭を、僕は一箇所知っているが。

「綺麗なものだ」

「あたしもそう思う」

僕達はゆっくりと時間を忘れてその庭園を散策した。

建物の敷地内にあるとはいえ、茶室もいくつか建てられていた。

「このお庭の解放は秋と春しかしないんだって」

そうですか、と答え、そうして目を細める。

「どうしたの?」

「え、いえ…僕もこういった造りに近い庭園を知っています。…ここよりも、と言ってはなんですが」

「そうなんだ。…国の施設か何か?」

僕はくっと小さく笑う。

「いいえ、国ではなく個人の駒城の大殿様の持ち物なのですが」

駒城上屋敷の庭園は。

「見てみたいなぁ」

どこかうっとりとした、その声音に僕の心臓がどきりと大きく波打った。

初めてじゃないか? 彼女が僕の世界のモノを具体的に見たがったのは。

話は聞いてくれるし、こちらの世界のことも教えてくれるし、さらには僕が勝手に彼女に教えることもあったが、こうあからさまに言葉には今までしなかった。

僕は己の願望を、口にする。

「それでしたら」

僕は己の願望を、口にする。

「いつか一緒に見てくださいますか? 僕と一緒に」

彼女が僕を見上げて、微笑んだ。

「写真を撮ってきてもらう、っていう手もあるのだけれど。その方が確実そう」

「…写真機よりも、貴女の目で見ていただきたいな」

「あたしが、直衛くんの世界にいけて、直衛くんの都合が良かったらね」

さらりとなんでもないようにそう言われて、僕は満面の笑顔になる。

あぁ、そんな夢のようなことがきたら。

そうしたら。







僕は、貴女を腕の中でも何でも閉じ込めて、決してこちらの、こちらの世界には帰さない。

親もわからず、自分がどこで生まれたかも正確にはわからない上に、血で汚れた俺の唯一無二の愛して愛される人。

僕の聖域。

そんな貴女と共に歩めるのならば、きっと僕は自分はマシな生き物なのだと思えるのだから。







「直衛くん?」

「はい?」

僕は己の思考を…への執着になる愛情…愛とも呼べるのだろうか? まぁ、そんなどろりとした粘着質な類の感情を押さえつけた。

「そのときは千早ちゃんもね」

嬉しいことを立て続けで言われた。

「えぇ」

「千早ちゃん、あたしのこと気に入ってくれると思う? 抱きついてもいいぐらいには」

勿論、と僕は頷く。

さきほどまで奏上を行うことで震えていたのが、嘘のようだ。

「じゃああたしと直衛くんと千早ちゃんで」

「えぇ、貴女と僕と千早とで」

それを実現するためには、奏上を成功させて、小うるさい連中をなんとか片付けてしまおうか。

うっすらと僕はそう思いながら、貴女の前で微笑んだ。




この数日後、皇主に僕は奏上を果たした。

それによって僕の周囲はまた血生臭く、また、きな臭くなるのだが。

だがそれ以上に大事が僕の上に降りてきた。

それは僕が長年思ったことの実現であり、それによって傷つく人間もいるのだろうが、それでも僕自身は幸せをこの手に掴んだと言えた瞬間だった。




そうして僕は、その幸福を抱き続け、感じ続けたいが為に戦争をすることになる。

それはまた、別の話。




 


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これにて終了。
お疲れ様でした。

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