5月19日
(2)


「お前に働けというのもどだい無理な話なんだろうな…まぁ結局草g静馬という男は、一度やりかけた仕事を途中で放り出すような人間なわけだ」

昼食後、そんな慶一郎の言葉によって、畳の上で牛と化していた草g静馬が道場の掃除を再開した。

「草gくん、すごい可愛い…っ」

「可愛い…? 、今度目も見てもらうか? 医者に」

静馬の変わり様を見ていたは、小さく笑いながら台所へ食器を持って向かっていた。

隣にいるのは勿論、慶一郎だ。

美雪は大作と涼子を連れて、雑巾とバケツの新しいものを出して一緒に道場に向かっている。

「なんで、真顔で言うんですか」

「確かに今は操りがいのある奴ではあるが、『可愛い』はないだろう『可愛い』は」

皿を流しにおくとLLサイズのエプロンをつける。

「ほら、そっちの皿よこして」

「あ、はい。お願いします」

そう言いながらもエプロンをつける。

「美雪ちゃんの、いいお友達になってくれればいいんですけど」

「友達、というかどう反応してくれるのかが気になるんだがなぁ」

てきぱきと食器を洗っていく慶一郎の横に積み上げられたそれを、は水気をふき取っては棚に戻した。

「疲れたら、止めろよ?」

「はぁい」

(あ)

慶一郎はとの間に出来ていた微妙な心の距離が狭まった…というよりも元に戻ったのを感じ取った。

兄妹のように、家族のように思っている『空気』。


それで満足してたら、また盗られる。


ずくりと湧き上がる己の中の声に、慶一郎は洗い物をしながら問うた。

(誰に?)

そう慶一郎が思ったときにの携帯が鳴った。

慌てては布巾をおいて、ポケットの中に入れていたそれをぱかりと開ける。

「あれ?」

「どうした?」

「いや、知らない番号…間違い、かな?」

それでも律儀に出ようとするに苦笑し、慶一郎は水を止めた。

「はい、鬼塚です」

か!?」

近くにいた為に慶一郎の耳に入った男の声は、をひどく動揺させた。

「え…あ…、その、失礼ですが…」

の目が泳ぎ、そうしてつらそうにそのまま台所を離れていくその背中を見て、慶一郎は顔をしかめつつエプロンをはずした。

人に聞かせたくない会話だろうが、あんなに動揺した彼女をほおって置くという選択肢は彼にはなかった。

足音を立てずに気配を消して彼女の後ろにつく。

「あ、はい。お見舞いの言葉は、お友達から頂きました。お礼も出せずにごめんなさい」

は「友達」にあんな声で応対なんかしない)

電話の向こう側の人間は何か言って、さらにを動揺させた。

それでもは冷静に対処しようとはしてる。

「貴方のお友達という方が、入院中いらして…そう、ご結婚されたそうでおめでとうございます」

声が震えている。

慶一郎の眉間にしわがよった。

が入院中に来た友達」と「結婚の話題」といったら一つしかない。

の元婚約者だ。

「…ごめんなさい。もう会わないほうがいいかと思います。奥様とお子さんを大事にしてあげてくださいね?」

!」

の言葉に相手があせり、彼女の名前を呼ぶのが気に入らない。

「失礼します」

はそう言うとぷちりと電話を切った。

はぁ、と大きく息を吐き出す彼女の背中は、まだ震えているようにも見える。



名前を呼ばれたは「南雲さん…」と力なく笑った。

「その…」

すぐにの手の中にある携帯がまた鳴る。

慶一郎はそれを奪うとがあっけにとられている内にボタンを押した。

、俺だ。俺、お前とやり直したいんだ」

「…」

心の中に冷たいものが生まれるのを慶一郎は感じた。

「南雲さん」

困ったように眉をよせ、そうして手を伸ばして電話をとろうとした彼女を片手で抱きしめて、電話は渡さなかった。

「愛してるんだ…!」

慶一郎の顔が無表情になり、を抱きしめる力が強くなる。

「南雲さん?」

それと同時に持っていたの携帯がびしりと嫌な音を立てた。

? 聞いてるのかい?」

「あいにくとは聞いてない」

「っ」

電話の向こうの相手は慶一郎の声で押し黙った。

「これ以上、を困らせるようなことをするな」

一度でもからの愛情を受け止めていたくせに、どんな理由があろうともそれを捨てて違う女を選んだはずの男が彼女にまた「愛」を訴えることが気に入らない。

「貴方は…誰です?」

声で父親の鉄斎ではないのは気がついたのだろう。

の携帯に出てるんだ。それぐらい察して欲しいな」

慶一郎の腕の中でが慌てて抗議するように胸板を叩いてくるが、彼はそれを無視した。

「これは警告だ。二度とかけてくるな」

そう言ってから慶一郎は携帯を切った。

、着信拒否にはどうしたらいいんだ?」

「メニュー画面を開いてって…自分で出来ますよっ!」

は慶一郎の腕の中でもがく。

「何、してるの?」

「先生とさんはやっぱりそういうご関係でしたか」

「っ」

次の瞬間、は顔を真っ赤に染め上げ、まだ自分を片手で抱きしめてる男の足を思いっきり踏んだ。






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慶一郎さんと美雪ちゃんの愛情の示し方は、たぶん一緒。
原作の最後のほうで美雪ちゃんは「(慶一郎さんに)自分だけを見て可愛がって欲しい」という旨を日記に書いてて、
慶一郎さんは「愛情はよくわらからない。だが(飛鈴が拉致られ)あの写真を見て、お前を誰にも渡したくないと思った〜」ということを嫁に言ってます。
誰にでも惚れた相手に対して思う独占欲なんですが、
美雪ちゃんは一度全てを失った愛、慶一郎さんは最初から自分には与えられるはずもなかった愛をさんに見出してるので、
原作よりも多少、ヤンデレ気味になっちゃっていくような気もしないでもない…です。
いや、落ち着け、俺…。

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