6月某日
(2)
「貴女が嫌いな理由? 単純なことよ。貴女が慶一郎に愛されているから…それだけよ」
「生意気ね…こんな男の子みたいな身体の癖して慶一郎に愛されているなんてどういう了見なの? 貴女、一体彼の何?」
…この会話の前後に、首輪を美雪ちゃんにかけたてフェンスに固定して座り込めないようにしたんだっけか。
薬も使って意識朦朧な14歳の女の子に対して、パジャマの前を引き裂いて胸を甚振って…って私の中にあるの記憶ががこの言葉まで覚えてることも記憶結構凄いけど、あれかな?
19歳の女が14歳の女の子にするようなことじゃないと思うんだけど、嫉妬深い人って怖いっていう印象がずっとこびりついているからかも…等と私が思うのは。
「はい、南雲先生。あ〜ん」
「…止めてくれないか、本当に…!」
とびしま れいな
目の前で新婚カップルのように食事を取る南雲さんと飛島 鈴那(偽名)さんがいらっしゃるからだ。
ものすごい美人。
いや、本当スタイル抜群ですよ先生…!
そんな二人を見て御剣さんは嫌な顔していて、お父さんと一緒に時折私をチラ見してくる。
なぜだ。
今日は彼女が放課後くることになっていたから、池波●太郎先生の世界観にあふれた和食を、と思っていたが急遽中華に変更したからだろうか。
美雪ちゃんの空気はなぜか絶対零度で、南雲さんに対しても無関心状態に突入。
子猫たちはそんな美雪ちゃんの空気を察してか南雲さんたちに近寄ろうともしない。
なんで中華になったかというと、飛島さんが手伝ってくれて気がついたらこうなってたから。
私は苦笑いするしかなかった。
つい先日のこと。
彼女が何者かに襲われたところ南雲さんが助けて、ここで手当てと着替えをさせた(申し訳ないけれど、私の買った新品で)のが縁の始まり。
そんな彼女が教育実習生として南雲さんの職場である大門高にやってきたのが本日で、彼女のボディガードの依頼を南雲さんが引き受けたんだとか。
それもあるし…「ぜひ、お礼をさせてください!」ってあんなに言ってくれる娘さんを、ずっと無下に断るなんて出来ない。
そうそう、なんで彼女が偽名なのか知っているのは…勿論、としての情報で照らし合わせてだ。
そして…彼女が私、鬼塚が待ち望んでいた南雲慶一郎の若妻・烈一族の娘の飛鈴。
良かった、と思う反面、やっぱり胸は痛くなる。
お兄ちゃんを盗られる妹のような、そんな感覚…に近い。
……。
……。
それ以上は考えないようにしよう。うん。
私が待ち望んだ女の人が来たんだもの。
これでいいのだ。
ただこの人…ものすごい嫉妬深いのよねぇ。
美雪ちゃん曰く、手当てを受けたその後、背を向けた私を睨んでいたらしいし…。
の中の情報にあったような「美雪ちゃんの拉致」というのを無くさないといけないし、その為だったら私が身代わりになる気は充分あるけど…あんまり手荒い真似はされたくないのが本音なところだ。
「ご馳走様でした」
「あれ? もういいんですか? さん」は御剣さん。
「うん。皆はゆっくり食べててね?」
台所に持っていって、自分の分を片付けてしまう。
いや、本当なら私の食べ終わるのを南雲さんが待ってる、とかその逆とかがいつものことなんだけど、私が食べ終わるまでずっと新婚さんやられるのってつらいから。
南雲さんとどうこう、ということではなくて純粋にいたたまれなくなる。
飛島さん(偽名)のこともいろいろと対策を考えよう。
今よりももっと南雲さんと距離を開けないと。
とりあえず『神威の拳』のレクチャーはストップ。
あれを教えてもらうと、私は彼に抱きしめられなくてはならない。
マッサージも何かいい理由をつけて止めてもらわないと。
やっぱね、いい気分じゃないでしょう? お嫁さんは。
自分以外の女が旦那に触れられていると余計、嫉妬の炎は燃え上がるわ。
「、御剣と一緒にこの人も送ってくるから」
「はい、いってらっしゃい。南雲先生」
「この人だなんて呼ばないで、鈴那と呼んでください」
押し強いなぁ…さすが、お嫁さん。
・ ・
「……送っていくから、車に乗ってくれ。飛島さん。あ、御剣」
「……はい」
御剣さんの表情は暗い。
え? 何? なんで?
「み、御剣さん?」
私が声をかけるとばっと私の顔を見て何か言いかけ、そうして諦めたように溜息をついた。
「ご飯、ありがとうございました。お先に失礼します」
何があった、サムライガール…和食がそんなに恋しかったのかな?
「またね、御剣さん」
「お邪魔いたしました」
飛島さん(偽名)が頭を下げるので「また来てくださいね?」と言いながら頭を下げると「まぁ!」と喜ばれ、そしてなぜか御剣さんと南雲さんに睨まれた。
なんでだ…! ってか怖いんですけど、二人とも。
そうして三人が出て行く。
「叔母様」
「なぁに?」
「あの人も、またくると思う?」
「うん、たぶん。見ててわかんなかった? あの人南雲さんが好きだから」
「ふぅん」
美雪ちゃんにしては珍しい反応だ。
「なぁに? 美雪ちゃん」
「知らない」
ぷいっと美雪ちゃんはそう言って、食器を流しにおいた。
南雲さん、とられちゃって拗ねちゃってんのかなぁ。
後は二人で浴衣を縫う時間だ。
いや、結構昼間時間があるからちまちま、ちまちま私が縫っているので早い。
美雪ちゃんは南雲先生から「長期期間休んでいる生徒のためにテストがある」というのを聞いて、少しやる気を見せているけれど食後の1時間は二人でこうしてすごすのだ。
「叔母様、こう?」
「そうそう、美雪ちゃん。上手だねぇ」
しばらくしても南雲さんは帰ってこなかったので、今日ばかりはお先にお風呂に入ってから夜食を作る。
美雪ちゃんも大好きなきなこのお結びとお茶を用意して…それでも南雲さんは帰ってこなかった…のでお茶を飲みながら浴衣の続きを縫った。
だいぶ進んで、一区切りついたのでそれをしまってお茶を入れたときだ。
「ただいま…」
「お帰りなさい」
「」
心底ほっとしたような、そんな顔で南雲さんが帰ってきた。
…あんだけ美人に迫られてて、なんでそういう顔するのかなぁ。
「悪い、すぐに…」
あ、マッサージかな? 断らなきゃ。
「いえいえ、今夜はいいですよ。もう寝ます」
「…」
南雲さんは眉をハの字にして困ったように私を見た。
「神気の練り方も感覚つかめましたから、それやってみてから寝ますから大丈夫ですよ。南雲さんも今日一日、お疲れだったでしょう?」
また明日からも頑張ってくださいね? 奥さんからのらぶらぶアタックに。と、心の中で付け足しておく。
たぶん、行動はエスカレートしていくはずだ。
確か…教室で迫られたりとか、キスとか、まぁ性的に。
少しだけ、つきんと胸が痛くなったが、私はそれを無視する。
「その、説明させてくれないか。彼女のことで…」
「飛島さん?」
え、何をいまさら。
説明なんて、彼に聞かないでも私は知っているのだ。
「南雲さんがボディガードしてる方で、どう見ても南雲さんのことを男性として好きな方でしょう? いつからお付き合いはじめるんですか?」
「しない! あっちはそうでも、こっちはその気はないんだよ…!」
南雲さんは肩を落とす。
けど、私はこの先を知ってる人間だからこそ、彼に言った。
「その気はないって南雲さんはそう言いますけど…でもじゃあなんで南雲さんは強く反発できないんです? ボディガードだから? 職場の後輩になるだろう人だから? それとも他の先生方からのブーイングとかもでました? 彼女に好きだと言われて、どきどきしなかった? あ〜んとかされて恥かしくても嬉しくなかった? 可愛いって思わなかった? せまられて悪い気はしなかったでしょう?」
私が南雲さんを指指しながらそう言うと、うぐっ、と南雲さんが詰まる。
どれが図星なんだろう?
「…ね? 何が切欠で恋に堕ちるかはわからないんですか「恋なら堕ちてる」ら…ってえええっ!」
南雲さんの顔が赤い。
「だいぶ前から、その女に気がついたらもう堕とされてたから。だから彼女と堕ちるわけはないんだ」
「聞きますけど、そのお相手は飛島「違う」…そうですか…」
胸が少しだけ痛いのは無視しての情報を思い出す。
前からってことは昔から好きってことで…彼女と結婚したの7年前だから…うわ、その頃の彼女を好きなのかな?
…。
ロリコン? 確か13歳よね? 今の美雪ちゃんと同じぐらいの彼女よね?
…。
じゃあ、なんで…あぁ、成長したから『飛島さん』が彼女だとは判らないのかな?
確かそういう描写あったと思うし…。
…いや、いや、もしかしていまだに美咲姉さん?
確か南雲さん、美咲姉さんのこと、愛してたし…そうなのかなぁ。
でも姉さんのことが好きでも姉さんは旦那様がいたし…。
人の感情は間々ならないなぁ…。
「でもそのあたりのこと、ちゃんと南雲さん彼女にお話しました?」
「…いや、する暇が…」
「もしも、本当に万が一にも南雲さんがその気がなくて迷惑なら、ちゃんとそれを言うこと。そうじゃなきゃ、南雲さんのその『恋』のお相手にも彼女に対しても失礼ですよ」
それで逆に燃え上がるタイプだと思いますが。とは、言わない。
「言おう、言おうとはしてるんだがな…」
南雲さんは心底困った、という顔つきになった。
まぁ…うん、どっちにしろ彼は彼女に最終的には堕ちるんだろうけれど。
「…飛島さんも知的な方のようですし、きちんとお話すればわかってくださいますよ」
たぶん、彼女は彼を手に入れるまでは止まらないだろうけど。
「そうかな」
「えぇ、そうですよ」
私が頷くと、少し力なく彼は頷いた。
「…ところで」と南雲さんは咳払いした。
「俺の好きな女って誰か気にならないのか?」
「気にならない、というのは嘘になるけど…」
でも美咲姉さんか、飛鈴さんでしょう? とは言えないしなぁ。
「恋愛相談しなくても南雲さん、捉まえてきそうだし…」
南雲さんの昔の姿、というのは容易に思い出せる。
美咲姉さんと飛鈴さんの二人の存在を、仮にいなかったものと仮定して、ただ彼の気持ちで客観的に見てみる。
の記憶の中で、御剣涼子ちゃんが「現地妻いるんじゃないの?」と言った描写が有ったけど、もててて当たり前、みたいな感覚がある。
だって、本当この人当時からかっこいいんだもの。
美人に会う機会も多い、なんて言葉も出ていたはずだし…。
「…南雲さんなら、告白したらOKすぐにもらえそうな気がしますが」
「そうか?」
そうだよ、うん。
だって南雲さん、優しいし…料理は美味すぎるのが難点かもしれませんけど、そこも魅力の一つだと言われれば確かにそうでしょ?
一緒に料理できる男の人って貴重だもの。
身長高いし、包容力あるし、いざとなったら絶対守ってくれそうだよね。
スキンシップも結構自然にしてくるから、いいと思うし…と、とりあえず指折り数えてご本人の魅力を上げてみる。
「ん?」と気がついたら、南雲さんは少し居心地が悪そうに、だけどまんざらでもなさそうに顔を赤く染めていた。
…もしかしたら私、ちゃんと口に出してた…?
少し恥かしくなって、口をつぐんだ。
難を言えば、この人は常に『現在』しか考えていなくて、過去や未来をその人と共にありたいと考えるかは微妙ってところと、もうすでに妻帯者であること。
離婚が許されればその人と添い遂げられることも出来るだろうけど…どうなのかな、その辺り。
いやいや、想う人が飛鈴さんであれば円満に収まるか。
美咲姉さんの場合だと、かなり問題はあるけど。
「ともかく…南雲さんの気持ちをその人に言うべきですね。そうしないと、たぶん何も始まらないと思うから」
ちょっと自分の失恋の記憶を思い出す。
「言葉にしないと何も生まれないから」
言葉の力はすごい。
音だけで意味を相手に伝えて、そして考えて反応を作る力を持っている。
あぁ、そう教えてくれたのはその声に不思議な力を持ってた加路さんだ。
なんで今まで思い出さなかったんだろう。
「男の人って態度出してるんだし、考えたらわかるだろ? みたいなとこありますけど、女は言ってくれなきゃ判りませんよ。その人の気持ち」
そう言うと、なにやら意を決したらしい彼が何かを言おうとした瞬間、胸のペンダントが光り輝き、南雲さんは大慌てで「ちょっと用事ができた」とまた夜中に出て行った。
「こんな深夜に…ご苦労様です。南雲さん」
苦笑し、私は夜食にきなこのお結びとかをまた作ってテーブルにおいてから、お先に休ませていただきます、とメモだけ添えて眠りについた。
南雲さんの恋が成就するのは知ってるが、『兄』を思う『妹』としては少しだけ複雑かな。
…うん、でも彼の幸せは願うことは素直にできるから、いいよね?
ブラウザバックでお戻りください
完璧すれ違いになれてますか?
加路さんは「ゲッチュー〜」に出てくる、代々、神社を管理する家の次男坊で言葉に不思議な力を持っていて霊感もち。
話すと霊を呼びつけてしまうので無口て通してる人です。
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