「星は何でも知っている」
本当にそうなら、私の人生の全てを知っているのだろうか。
この私の今までを。
そして私のこれからを。
「オフコース!」
6月15日
(1)
その土曜日のお昼過ぎ…二時ぐらいになって私はようやく起き上がることが出来て、着替えることが出来た。
本当なら朝から気合の入れた食事を作って、美雪ちゃんを見送りたかったけれど…熱が出てしまった貧弱な私。
昨日、香港から非合法で帰国し、ようやく帰宅した私達は着替えてから今でお父さんと美雪ちゃんに話をした。
私の足はいまだに走ることは許されなくて、長い距離は勿論歩くのも駄目とのことだった。
とほほ。
治療のこともだけど、あちらで行われた私達の結婚に関してのこと。
結婚に関してはあちらの一族の一存でされたことだけど…告白、というかプロポーズされたし…私は私でそれに頷いたし…戸籍とかはまだ確認していないけれど、南雲さんの言葉を信じるなら、もうすでに私は南雲になっているはずだと。
何かしら聞かれるとは思っていたし、正直私はどう切り出すか私は迷ったのだけれど、私の治療の状態を伝えてから約束どおり南雲さんが口火を切った。
…。
いまだに『南雲さん』なのは、もうくせだ。
しょうがないよ。
おいおいと直していくので、脳内では当分の間は勘弁して欲しい。
少なくとも指輪を彼にはめてもらうまでは。
「先生」
「なんだ」
「を嫁に貰いました」
「そうか」
「おめでとうございます」
…。
…。
「え、えぇええっ、それで終わりなんですかーーー?!」
お父さんに反対はされないまでも、何かしら言われるんじゃないか、聞かれるんじゃないかなとか想像していた私の予想を覆し、美雪ちゃんもお父さんもただ話を聞いて「良かったね」「おめでとう」のそれだけで済んでしまった。
「なんだ、反対して欲しかったのか? 」
「そうではないんですが、急だったし、いつそんな仲になったのかとか…」
「わしの目は節穴ではない。慶一郎がお前に惚れていたのはわかっていた」
「…慶一郎さんから、聞いてたから」
…。
昨日の夜の「…言っとくが、俺の気持ちを知らなかったのはお前だけだ」の言葉は本当でした。
っていうか本人よりも美雪ちゃんの方が先に教えてもらってるのはなんでさ。
私が隣に座る南雲さんを見ると、いつもの照れくさそうなときにする頬をがりがりとかく仕草をしていた。
「な? 俺が言ったとおりだろ」
「え、何? 本当に、その」
「慶一郎がお前のこと想うておることなど、お前が病院から帰ってきてからの態度見れば誰もが想像つくわ」
お父さんは小さく溜息をついた。
「当人のお前だけが気がついてなかったというだけだ」
阿呆め、と小さく言われて何も言えなくなった私がいる。
すみません、そんな空気を察したら逃げてました。とは言えない。
お父さん曰く私と一緒に香港に残したのは、とりあえず私に拒否られようがなにしようが告白だけでもさせてやろうという武士の情けだったらしい。
美雪ちゃんもそれに同意した。
傍で見ている限り、南雲さんの気持ちは私には届いていなくてもどかしかったんだそうだ。
「気持ちを伝えるだけだろうと思っておったが、まさか結婚までしてしまうとはな…。お前に自分の気持ちを告げる前に手を出しかけたときは斬るつもりではいたが…つくづく惜しいことをした」
「…鉄斎先生?」
「お父さん?」
「で? これからどうするつもりだ? 二人でこの家を出るのか?」
南雲さんと私の動揺を他所にたんたんとお父さんは聞いてくる。
今の言葉はスルーしたほうがいいの?
「いや、俺たちはこのまま一緒に住みますよ」
南雲さんの言葉に私は大きく頷く。
別に南雲さんに私を養う甲斐性が無いってわけじゃない。
私も南雲さんも心配だし、愛しているから、だから一緒にいたいのだ。
鬼塚美雪と、そして鬼塚鉄斎の二人と。
そこまで口には出さなかったけれど、お父さんは「ほう」とだけ言って、ちらりと南雲さんを見て、それからまた私を見た。
「ま、良かろう」
それがお父さんの返事だった。
「ありがとうございます」は南雲さん。
そんな彼を見て、お父さんは何とはなしにこう言った。
「傍で見ておれば、が泣いたときにお前をすぐ様斬れるしな」
「ちょっ、お父さん」
「冗談だ」
面白くもなさそうにお父さんは小さくそれから鼻で笑った。
「慶一郎」
「はい」
「…できれば男の孫が欲しい。うちは女の比率が高すぎる」
…もう、どうしようこのわが道を行く父親…っ。
自分の要望をつきつけて、お父さんは「話は終わった」とばかりに立ち上がった。
美雪ちゃんも「赤ちゃん、抱っこしてみたい」とだけ希望を言ってから「お茶、入れてきます」と居間を出て行った。
「…」
「…」
「はい」
いや、もう呆然。
今二人とも、子供作れって催促したよね。
「期待されてるようなんだが」
「美雪ちゃんやお父さんが期待してても、なぐ…慶一郎さんが欲しがってくれないと意味ないでしょ」
はっとして自分の発言にびっくりして口を押さえ、それから隣で正座してた南雲さんを見たら、きょとんとした顔をして、それから「そうだな」と呟いた。
「」
「…はい」
「俺も、というか…。いや、違うな。言われたからじゃなくて…その。俺『が』欲しいんだ。お前との間に子供が」
南雲さんの顔も赤い。
「俺という人間が『父親』になれるかどうか手探りだけど、お前とならそうなれると思う」
私の顔も赤い。
「だから、その…出来たら産んでください」の言葉に私が「はい」というまで南雲さんは私の目を見つめていた。
…もう一度プロポーズを受けた気がした。
その後、あまりの恥かしさと嬉しさと、それから疲れも重なって熱を出しました。
自分が情けない…。
それが昨日のこと。
そして現在、今美雪ちゃんは追試の最中だろう。
熱でうとうとした午前中に、少し南雲さんとは会話はした。
「美雪ちゃんのこと、御願いします」
「任せとけ。お前はゆっくり…じゃなくて早急に身体治せ」とどこか命令口調でそう言って出て行ったのは覚えてる。
その後また小一時間眠った私は、寝汗をかいた身体が気持ち悪くなって、シャワーを浴びて着替えて、遅い昼食をとった。
三匹のにゃんこ達が私の後をつけてくる。
「起き上がっても平気か、」
「はい。ご心配かけました。お父さん」
私をちらりと見て、作務衣姿のお父さんは傍でお茶を飲む。
本当、お父さんには心配かけてばっかりで不肖の娘だ。
三年間寝っぱなしだし、そのおかげで身体は弱いし、…勝手に結婚したし…っていや事後承諾だけど最後のは別にいいかな…?
「役場に行って確認した。お前はすでに南雲家の嫁になっとる。お前はもう、南雲だ」
お父さんはお茶を一口飲んでから、そうして私に言った。
「こっちで式はどうする?」
「…もう少し落ち着いてからでも遅くないかなぁ、とか思ってます」
というか性急すぎな感じがする。
「なんだかお付き合い、とかそういうのすっ飛ばしていきなり結婚してしまってるわけで、そこに私達の感情も勿論あることはあるんですけど…」
私の恋愛の常識を超えた状態にいまある。
だって結婚式とは思わなかったんだもん。
その後確かにプロポーズされて嬉かったけどね?
「…ようはもう少し家族とかのしがらみなしで、いちゃつきたかったということか?」
「……そ、そうなのかなぁ…そうではないと思うんですが?」
父親と恋愛に関して話すってこと、今までなかったのでどう言っていいかわからないけれど、私がそう言うとお父さんは面白くなさそうにまた鼻で笑った。
「まあ、お前が幸せならそれでいい」
後片付けをして、掃除をしていると車の急停車の音がした。
お父さんは掃き掃除をする為に外に出ている。
「美雪ちゃーん?」
「あれ?」
南雲さんの声だ。
「、もう起き上がって平気なのか?」
「御帰りなさい、慶一郎さん」
私の呼び方に少し驚きながら、神矢くんが見てくる。
い、今まで「南雲さん」だったから、だよねぇ。
「こんにちは神矢くん」
そんな神矢くんの様子に気がつかない振りをしてご挨拶すると神矢くも頭を下げてくれる。
「こんにちは、さん。お体の方は、大丈夫ですか?」
えぇ、と頷いて焦っている南雲さんに問う。
「美雪ちゃんは?」
「学校で待ってたんだけど、居なくなっちゃったんだよ」
眉をハの字にして南雲さんが心底困ったという表情を作る。
「先に帰ってきたんじゃないかと思ったんですがね」は神矢くん。
「美雪ちゃんの方から連絡は?」
「ない」
全身で焦りを表現してる南雲さんがここにいる。
「どこかで遊んでるのかな。それにしても慶一郎さんが待ってることは知ってるはずだから、連絡しなくちゃおかしいけれど」
私がそう言うと神矢くんは南雲さんを見て苦笑いを浮かべた。
「ちょっと過保護すぎますよね、南雲先生」
「でも何にも連絡が来ないっていうのが心配ね」
「それはそうですが」
そのとき、南雲さんの携帯が鳴った。
「はい、南雲です」
電話の声は聞こえないけれど、次の瞬間南雲さんの雰囲気が変わった。
「誰だ、あんた」
私と神矢くんの目が南雲さんに向いて、何か一言二言言われたらしい。
「どうかされたんですか?」
ぷちん、と携帯電話を切って南雲さんは不機嫌そうに「美雪ちゃんを探しに行ってくる」と口にする。
「居場所がわかったんですか? 先生」
「…」
そこでなんで無言になるかなぁ、南雲さん。
しかも顔しかめてるし…。
「遅くなりそうなら、ご飯作っておきますよ?」
「あぁ、頼むよ」
「やれやれ、お付き合いしますよ」
「ありがとう、神矢くん」
「いいえ、どういたしまして」
本当にいい子だ、この子。
「いってらっしゃい。気をつけてくださいね」
「はーい」
神矢くんの良いお返事を聞いて、二人を見送った後、うちの黒電話が鳴った。
「はい、鬼塚ですが」
『南雲と呼んだほうがいいかい?』
「…あの、失礼ですが、どちら様ですか?」
フォーチュンテラー
『星は何でも知っている。――そうさな、<星詠み>と呼んでくれ』
笑いながら彼はそう言った。
ブラウザバックでお戻りください
原作第3巻最後の方の話に入りました。
EX02 の話が長すぎた。でもいいんだ。書いてる人間は満足してるから。
さてこのお話で預言者・右京さん登場。
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