結婚指輪はごてごてしたものよりも、シンプルなモノ。

こういう類のものは今まで買ったことがないが、これだけは他人の手を借りるわけにはいかない。

宝石店を梯子してようやく気に入ったそれを、今日になって買えた。

そこまでは良かったんだ。

いそいそとポケットに入れたその直後に俺はソルバニアに召喚されてしまい…。

まさか目の前に怪獣がいるなんて、誰が思うか…。

そいつがうなり声を上げ、刃と化した両手をふるってきたのを、俺は避けたと思ったら、そう甘くもなく。

…。

着ていた革ジャンはぼろぼろになり、俺達の指輪が転げ落ち。

「あーーーーーー!!」

ズゥンという地響きと同時に、それは怪獣の足の下になるなんて、誰が想像つくんだ。

「……よぉやく、買えたのに…」

もう今から倒して戻ったところで同じものはない。

店の店員が言っていた。

「イェネンの鬼神よ。戦ってください」

たまたまあったもので、取り寄せるのも多少時間がかかる。

ついてる小さな宝石が、の誕生石(店員に教えてもらった)で、それが一対しかなかった。

時間がかかる?

冗談じゃない。

一体何ヶ月、自分の『もの』だという意思表示を我慢してきたと思ってるんだ。

『式』は無理やりだった。
                             
おんな
プロポーズはその後で、確かに彼女は頷いて俺の 妻 になった。

けれどいまだに実感がわいていないから、だから俺の手で指輪を嵌めて。

そうすれば、きっと。

GYAAAAAAA!! と吠え立てる怪獣に向かって神気を練り上げる。

早く指輪をはめて『結婚した』と自覚を持たせて、俺という男から一生、繋いで、閉じ込めて…それが数日とはいえ遠のいた現実と怒りの矛先を見据える。

「…ケイ?」

<天覇龍鳳拳>!!」

          
幸せを
とりあえず、俺の恋路の邪魔する奴は俺に消されて死んでしまえ。



6月20日
(1)


「学校の様子が判ればいいんですけど」

そう言ったのはだ。

女性特有の月のもののせいで、見た瞬間に「今現在体調が悪いです」と看板を付けて歩いているような顔色をしている彼女は日本茶を一口飲む。

美雪との二人だけで何かを作ってる時間はすでに終わっている。

二人で何を作っているのかいまだに夫に教えていない妻は小さく息を吐いた。

結婚したことをを伝える報告葉書がテーブルの上にあって、慶一郎はその出来を確認してから妻に目をやった。

三年間休眠していた彼女の体は『女』の機能を取り戻しているが、それは不定期にいきなり襲いかかるらしく、慶一郎はつらそうな彼女。

病院に入院しているときから、半年程度は不定期になるだろうとは言い渡されていたそれは酷く重くのしかかっているようだ。

「そうだよな。担任の先生は当てにならないし…」

そう返した慶一郎は何か妙案はないかと首をかしげて見せた。

つらい時期に考え事をさせるのはどうかと思うが、この問題も早急に考えなければならない要件なのだ。

一連の『烈一族襲撃事件』が幕を下ろし、美雪の追試が終わった次の週のはじめ。

その月曜日は実に慌しく始まった。

美雪が「登校する」と学校に通う意欲を見せてくれたのだ。

慶一郎は、体調を悪化させた妻の代わりに彼女の弁当の仕上げをして中学に無事送り届けると、その足で職場である大門高に向かう。

自分にセクハラをしてくる校医の菱沼女史や、他の同僚達に指輪を目撃させて結婚したことを報告して職員室で祝福され、まんざらでもない様子で週の初めの授業をするべく教室に向かったのだ。

そこを出ると指にはめていたそれをレイハから貰ったペンダントトップがついた鎖に通して首にかけなおして授業を行って混乱を避けれた。

慶一郎が購入した指輪はソルバニアで怪獣に踏まれるアクシデントがあり、箱はへしゃげてしまったが指輪は無事だった。

それを見たレイハが由来を聞いて来るので、慶一郎が結婚した相手に贈る物なのだと伝えると彼女は、彼の記憶を魔法によって展開させてその「結婚する相手」の情報を映像で確認した。

その人物の重要性を理解したのか「指輪を改造する」と言って慶一郎からその指輪を手にすると、慶一郎が止める暇なく魔法のハンマーを繰り出して叩き壊して再構築したのが今、慶一郎の胸との左手の薬指に輝いているものだ。

叩き壊された時点で、慶一郎は生まれて初めて絶叫を上げたがレイハはどこ吹く風の様子で作業を続け、終わった後はなにやら「いい仕事しました」的な笑みをも浮かべていたようなのは彼の気のせいだろうか?

何はともあれ、出来上がった指輪は元になった指輪とほとんど同じで、ただ全体がの誕生石の色彩を放っているようだけにも見えた。

「女性のものは身につけている人間に対して、物理的攻撃が与えられた場合にフィールドを形成し守ります。ケイ。貴方が身につけているものは、常にもう片方の位置を把握できるようになります」

慶一郎はその指輪を見つめ、それが形は自分が選んだもののままだったので、受け取った。

通常の指輪では考えられない魔法的な効果が気に入ったのもある。

…勿論、は知らないが。

度重なる失踪…ソルバニアからの召喚…と実用的な英会話の言い回し…地域限定のスラング…を教えて脱線。

さらには今回は烈一族の襲撃と、その後始末でかなり学校を休んでしまった。

校長に報告し許可を得たのだから、多少は校長の手配で進めて欲しかったのだが神矢の話だと「校長自身から発せられる催眠音波攻撃のため全員眠ってしまうために一向に進んでいない」とのことだ。

内心「使えない」と思ったがそこは大人の対応として口には出さない。

要点だけ纏め上げて、あまり脱線しないように心がけると慶一郎は急ぎ足で授業を続けたものだ。

自分が結婚しているとわざわざ生徒に報告することではないので、ペンダントは服の下に隠せばいいことだけだ。…ただ大作は何かしら気がついているようだが。

また忙しいのはそれだけではない。

海外からわざわざ自分を倒しにやってくる格闘家との戦いもあるし、ソルバニアから相変わらず召喚されている。

格闘家云々に関してはに話しているが、ソルバニアのことは言えないのが慶一郎はほんの少し心苦しいが。

ただそのとき疲れていても、こうしてとまったりと過ごしていたり、あるいは彼女を胸に抱いて眠れば心身ともに疲れが癒えるから不思議なものだ。

彼女は月の痛みなどで触られることに抵抗があるようだが、慶一郎が望めば彼を抱きしめ、口付けをし返してくれる。

指輪を嵌めたその夜など彼女の口から今まで慶一郎が聞いたことのない『愛の言葉』をくれた。

彼女が女性特有の月のものになっていなければ、そして初めて自分を制止する彼女の言葉がなければ慶一郎は最後まで抱いていただろう。


それはともかく
閑話休題。


「四葉中って確か、授業参観に関しての校則項目がなかったはずですよね。だから、学校側に前もって連絡すれば保護者は授業参観できますけど…それにしたって一日の、しかも一時間程度でしょうし」

今彼らが話しているのは姪っ子の美雪のことだ。

数日しか経過していないが、美雪の態度はまったく以前と変わらない。

不登校の原因は彼女の精神的一面と、そしてのこともあるだろうが、それが全てではないだろうと慶一郎は呟いて、もしもそれが取り除くことが出来なければまた不登校になってしまうのではないかと心配しているのだ。

は少し考えるふりをして、脳内の記憶を思い出す。

の記憶の中の、二次元としての自分の世界を記したその記憶。

彼は彼女の夫になり、ほんの少しの未来…秋になるだろうその時期からは本当にどうなるかはわからないが、今現在の時間軸では何かの予測には使える。

「慶一郎さんは『南雲先生』としてどこかの学校に研修しました?」

「は?」

「いや、今現在の教職に就くに当たってどこかの学校に研修に行って、教室内の指導のあり方や子供たちとの距離の掴み方とか…」

「いや。ギアナ高地から呼び戻されて、すぐに書類のねつ…いや作成とかが多くてそういうのはなかったな」

(この人、捏造っていいかけたよね!!)

夫のうっかりをスルーすべきかは迷いながら、次の言葉を口にする。

(…私の看病もしてもらってたし、そんな時間はなかったと思おう)と思いながら。

「新任教師の研修ってことで大門高から四葉中のほうに連絡してもらって、それで何日間か中学のほうに出向って形はとれませんか?」

「あ」

の記憶の中にあった部分を、口にする。

確かそんな話があったはずなのだ。

高校教諭である南雲慶一郎が、中学に出向く『物語』が。

慶一郎は瞬きをして、そうして「そうか、そうすれば」と言い出した。

「そうすれば一日だけじゃなくて、一定期間は中学のほうに授業参観する名目はできると思いますよ。
あえて父兄参観ってことにしないで、仕事で来てるんだっていうポーズをとれば学校の先生方の美雪ちゃんに対する対応以外も見れるかと。
慶一郎さんと美雪ちゃんが親類ってことも担任の先生にお願いして黙っててもらえばベストでしょうね」

はそう言って眉をしかめた。

「でも…本当にこれは大門高の校長先生と慶一郎さんの交渉次第ですよ? …慶一郎さんの生徒さんたちへの配慮もしとかないと校長先生に突っぱねられるでしょう。
これは正直な話、私たちのわがままってことですから。
その辺りきちんと対策とっておかないと授業、遅れてらっしゃるんでしょう?
7月に入ったらすぐに期末テストですし…あぁ、そうそう。慶一郎さん、テストの作成とかは担当じゃないんですか?」

確かそんな描写があったような気もしないがそう言うと「期末…ってあの休み前にやるあの期末か?」と、まじまじと慶一郎はを見つめた。

「…それ以外になんの期末があるんですか」

は憮然として夫を見つめ返す。

「やめないかなぁ…。面倒くさいから

「うわっ、ぶっちゃけましたね。私も学生時代はそう思ったけど、先生がそういうこと言わないでくださいよ」

は小さく笑う。

「まぁ、生徒さんの授業や、その辺りの問題をクリアしないと流石に無理なのでは?」

「交渉は簡単なんだがなぁ…」

「できるだけ授業は英文法の要点と単語を指導して、応用テストを作っておく、とか。
一回目のテストは辞書や教科書を見てもかまわないから『調べる』ことを学ばせて、二回目のテストはそれをどれだけ覚えているかを見るとか。
そうすれば同じものをコピーすればいいことですから」

思いつく限りのことをは口にした。

「期末テストの問題も、そのテスト内から一つか二つは問題を入れればいいでしょうし…」

「へぇ、よく思いつくな。なんだかの方が先生みたいだ」

「…結構考えるだけなら楽しいですよー? だってテストを実際に作る労力は私じゃありませんもん」

ふふん、と笑って妻は夫に言った。

「テスト作るのも授業ちゃんとしなくちゃいけないのも、南雲先生です」

「…どこかに自動式でテストを作ってくれる人間いないか」
             
先生
「いません。そんな一職業にのみ都合のいい人。
…後は他の英語の先生方に聞いてみるとかも手ですよね。あるいは数年前のテストのデータを使って小テストしてみるとか」

「それを使おう」

慶一郎の即決には苦笑する。

「とりあえず慶一郎さんの残業は確定ですね」

の言葉に慶一郎は苦笑いを浮かべた。

「奥さん、旦那の癒しが足りない」

その言葉には少し顔を赤くする。

こういうときは、過剰なスキンシップをしてくるのだ。

彼女の夫は。

「あ、後で充電してください」

「今がいい」

その言葉には湯飲みを置く。

「い、癒しって…」

慶一郎は自分の膝の上を叩いた。

「ほら」

おいで、と言われては困ったように笑った。

「…部屋ですればいいのに…」

「いや、部屋でするとそれ以上にしたくなるから流石にまずいだろ。今は」

「〜〜〜〜〜っ」

「お前もつらそうだし、さするぐらいはできるぞ」

のそのそと彼女は慶一郎の膝に移動すると、腰掛けると太い腕が彼女の体を抱き寄せる。

「まだ御腹痛いか」

「はい」

その即答に大きな手を下腹部に当てる。

自然と二人は神気の循環をお互いにしはじめた。

慶一郎の主観からすれば、暖かく柔らかい春の日向のような彼女の神気に触れる。

「でもこの神威の拳って本当、不思議ですよね。怪我とか治しちゃうし…」

独特の呼吸法はもうすでに慣れたものだ。

「仙術気功闘法って言われてるが、まさしく仙術の類だからな。…俺もがこんなに早く身につけられるとは思ってなかったし…逆にこうして怪我とか治せるのだけなら、俺よりもすごいと思うぞ」

「え、そうなんですか?」

自分の御腹に手を当てている夫の言葉には顔を上げた。

「というか慶一郎さんにしか使ったことがないんですけど…その、こういう体勢しなくちゃいけないから…」

抱きかかえられたは困ったように笑う。

「その、他の人にも出来るものでしょうか?」

「俺専用だからな」

「は?」

「俺がマッサージしてる時みたいに、手を患部に当てて<神気>の放出をすれば出来るだろうけど、でも駄目だ」

きっぱりとした言い方には瞬きを繰り返した。

「いや、ありえないことだけど鉄斎先生や美雪ちゃんなら許すよ? 特別に」

後は駄目だ、と慶一郎は断言する。

「うちの嫁さんの力は基本、旦那の為だけだ」

後は許さんと言い切る夫に、妻は首を傾げる。

その首元にキスを落として慶一郎は、また彼女の体を抱きしめた。

二人の神気がやんわりと周囲を暖かくする。

(…がいる『ここ』が、この場所が…俺の、居場所だ)




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原作4巻目直前。先生が中学校に行く前の夫婦。
期末テスト云々は「どっかで読んだ会話」と思ったら原作5巻目で校長としてました。
よく覚えてたよ、私(笑)

あと、神威の拳に関してですが…治癒系統のシーンをナグモンのライバルさんの嫁さんが使うシーンがあったと記憶してます。
ただ、体内の不調を取り除くっていうだけだったような気もしないでもない。
あとその前に静馬が師匠に言われて冷たくなった女のこの体を神気「炎の虎」で温めて持ち直したりね。

とりあえず本人は気がついていませんがさんは現在はナグモン専門ですが、外傷なども癒せる「神気」の持ち主となってます。

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