「あぁ、ほんと、悪かったって。マジで」
「…っ」
「安心しろ、年下は好みじゃねぇ」
「…っ!!」
泣きそうになるなよ。
俺にどうしろってーんだ……!!

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 有り得ないなんてことは有り得ない



俺が都合四度目の人生を歩んでいる、と口にしたら他人からどう思われるだろうか?
おそらくは心の病にかかっていると思われるだろう。
だが、まぁ…事実は、事実なのだ。
嫌なことに。

一番最初は現代社会の日本での人生だ。
俺の魂の記憶と感覚で言うなら半世紀いくかいかないかの昔―俺は引きこもりがちな大学生だった。
親の脛をかじりまくって学校に行き、バイトで貯めたものでゲームを買い、女にもそこそこ興味はあるが告白するような勇気もなければ、手頃な女で発散するような度胸も根性もなかったから二次元で欲望―性欲も含めた―を発散させるしかない子供だったのを覚えている。
日本の田舎だが都会なのか中途半端な街で育った俺は、その日もいつものようにゲームを求めて中古ショップを巡っていた。
両親や祖父母等のその時の家族の記憶は、今となっては希薄であまり顔自体も思い出さないから、家族愛的な感情はそんなに強いものはなかったんだろうと思う。
家族の顔も名前もすっかりと忘れてしまっているからだ。
あるいはこのあとに起こる濃密な時間で記憶の全てが吹っ飛んでしまったか。
とにかく、俺が大元の自分の世界で覚えていることはと言えば…そう、誰かに呼び止められて振り返った。
その瞬間、俺の意識は刈り取られた。
ここで一度目の人生は強制終了されてしまった、と俺は考えている。

次に目覚めた時、俺は混乱した。

自分よりも大きなガタイの金髪、あるいは茶髪の外国人たちに囲まれて、英語での会話に四苦八苦した。
ようやく落ち着いた時に、自分が「頭脳は大人、身体は幼児」状態になっていることに気がついて発狂しそうになったのを覚えている。
容姿は俺の幼い頃にそっくりそのまま、黒目に黒髪のどこでもいそうな日本人だとわかったのは、しばらくしてからだ。
大人連中は、そんな俺を「シン国からの亡命者」あるいは「それに酷似した国から誘拐された上に記憶喪失になっている子供」と捉えてくれた。
しばらく混乱し、気が狂いそうになったがどうしたところで腹は空く。生理現象はこちらの都合に構わずやってくる。
俺は意識をとりあえず前向きにさせるように、自分を洗脳した。
とりあえず生きていけるように、言葉と文化を学べ。
自分がこの場所に来たのは何かしらの意味があるから、それが分るまで耐え忍べ、と。
それからしばらくして、ようやく日常会話以上の専門用語や、スラングさえも分かるようになったら今自分が生きている世界がどの世界か理解する。

『鋼の錬金術師』
二度もアニメ化し、ゲームもたくさん出たダークファンタジー漫画。
国名や錬金術の存在。
戦争があったことと、小競り合いがまだ小さくも続いているということを俺は知った。
それからの俺は目標を見つけた。
『鋼の錬金術師』の話の流れで、その死は必然だったかもしれないが読者としては失いたくなかった登場人物を助けよう、と。
その時の俺にはこの世界そのものが、アニメを基準にしているのか、それとも原作コミックを基準にしているのかの判断までは思いつかなかった。
本当の意味合いでの俺の世界での人生は、そこからはじまった。
幼児の俺は、周囲の大人や社会からの排斥を恐ながらも錬金術に手を伸ばした。
孤児院の大人たちは手に職をつけるという意味合いも持たせるつもりでか、ちゃんと知識としての錬金術を教えてくれる場所に通わせてくれた。
錬金術に手を伸ばす、ということはイコール行使する物質の構成や知識も頭に入れなくてはならないことをそこで初めて知った。
原作主人公や登場してきた国家錬金術師の連中は、これら全て頭にいれてるんだとわかった時には「あいつら、マジすげぇ」と思ったものだ。
高校・大学受験時よりも必死になって毎日、毎日勉強した。
子供らしくないと思われても困るので、そのあたりのさじ加減が難しかった。
錬金術を使うことに関しては、両手を合わせて身体で円に見立てて行うことが本当は最初からできていた。
だが、きちんとした錬成陣の作り方を知らないと「異常だ」と思われるのではないか、と。
良くある二次創作の主人公のように「真理と交渉していらない対価を差し出して錬金術使いたい放題!」や「すぐに住民たちに受け入れられてトントン拍子に話が進む」なんてことはなかった。
幼児になったから、その分多少は大人から優遇されるが人種差別的扱いもされたし、孤児であるということからいらない排斥もされた。
精神が大人のままだったから、歯がゆい思いもしたし自分としてはあまり他人に甘えることも良しとはしなかった。
それでも俺は突き進んだ。
知識を渇望し、学び、大人たちの顔色を伺い、同じ孤児相手の世話もした。
勉強の方を優先させたが、手のかからない子供のうちの一人だと認識されたものだ。

全ては、死ぬ運命にある存在たちを救うため。

その為だけに俺は何かに選ばれたのだと思い込んでいた。
正直に言わせてもらえばそう思いこまないと俺はこの世界でまともに生き続けるなんて無理だったのだ。
何かに言い訳させてもらえるとしたら家族も友人も、本来なら遊べる機材も何もない場所に放り投げられた迷子の俺の精神的なものを支えるのは、その思い込みしかなかった。
鋼の錬金術師この』世界の作中で死亡してしまうのは、ニーナ・カッターとその飼い犬、アレキサンダー。
本当ならばその母親さえも救わなくてはならなかったのに、俺は漫画原作を読んだ時の強烈な印象である彼女とアレキサンダー、そしてもう一人その死に涙してしまったマーズ・ヒューズ中佐だけを助けることしか頭になかった。
原作主人公達物語の中心人物達であるエルリック兄弟とウィンリィたちとも悪友のようなそんな関係になった。
そこにはミーハーな気持ちがなかったわけでもない。
その覚悟の強さに惹かれたというのも勿論あるが。
国家錬金術師とはいかないまでも、そこそこの医療系錬金術師としての地位を持った俺は彼らに付き合う形をとりながら原作運命の流れに乗った。
結果だけ言えば、俺は誰も救えなかった。
傲慢で思い上がりも甚だしい俺の努力は水泡に帰した。
元々俺のような、異物が原作運命を変えようなどと考えたこと自体が間違いだったのだろう。
…なんて傲慢。なんて思い上がり。
なんの資格も持ってない子供が、中途半端な正義感だけで他人を救おうなんて。
過去の己じゃなかったら、殺したい。
俺はニーナたちと共に合成獣キメラにされた。
俺の10数年間は俺自身の傲慢な欲の為に水泡に帰し、結果として誰も救えなかった。
…その後、ニーナ・アレキサンダーと共に俺も傷の男スカーに殺されたからだ。
俺は彼女たちの最後を見届けてから、俺とともに合成された獣と息絶えた。
俺の二度目の人生の最後は、後悔にまみれて血溜りの中で終了した。
俺の死がエドワードたちの傷にならないことを祈りながら。



そこで本当なら終わるはずだろうに、なぜだか続いてしまった。



気がついたら中世のような石畳の建物の近くで井戸水をくみ上げていた。
組み上げた井戸水が入ったその場所には、ありがたいことに俺しかいなかったことが幸いした。
鋼の錬金術師前世とも言うべきあの世界』までの記憶と経験、感情に今の自分の記憶が襲いかかった。
俺はこの少年自身だ。
何かの拍子に魂だけが 憑依してこの子供の人生を奪ったわけでもなんでもない。
精神的に死んでいたこの子供が、フラッシュバックを引き起こして『俺』という前世の記憶を取り戻してしまったのだ。
両親を含めた仲の良い村人たちを目の前で盗賊たちに殺害されて心が死んだ少年。
今、この場所でこうして息をしているのはその場所をたまたま通りかかった人間がいたからだ。
その人間の伝で、この少年は生かされていた。
人の生き死にを垣間見た時の光景と、自分と獣、そして何よりもニーナとアレキサンダーが殺されていくあの光景がダブって俺は近場の森の中で吐いた。
守れなかった最悪感。
傲慢だった自分への嫌悪感。
死ぬ勇気さえもなく、ただ生きていくことへの自分に対しての価値観が見いだせなくて、本当に途方に暮れて号泣した。
そんな俺に声をかけてくれたのは、子供の俺を助けてくれた男だった。
俺の不平不満、泣き言の全てをその男は受け止め、咀嚼し、そして彼なりの答えを導き出した。

「ならばその業も受け止め、背負って生きなさい。」

この世界での俺は失われた命を背負った子供だった。
そこにニーナとアレキサンダー、そして名もなき獣が入るだけだ、と彼は言った。
いくつもの失われた命の重さに耐えきって、歯を食いしばって生き抜いていけ。と。
後からすぐに思いついたのは、俺を励ますための言葉であったかもしれないが助けた男が俺に教え込んだ技術にはこうした「命の価値を、重さを背負う」ことで精神力を高める必要があったからともいえた。
男…俺の命の恩人はそのまま俺の養父となり師匠となった彼…は呪符魔術士スイレームだった。
呪符魔術の原動力は何かしらの意思―それが罪であれ―を背負うこと。それを『世界』に示すこと。
影 技シャドウスキル』の世界。
と、言ってもその漫画そのものの世界ではなく、その漫画のパラレルワールド的な世界なのだと思う。
最初は気がつかなかったが、微妙に俺が知っている設定と違う奴らがいたしな。
まぁ、どちらにせよ『鋼の錬金術師』の世界以上に簡単に人が死ぬことが日常茶飯事であり、たとえそれは呪符魔術という一種の魔法を使ってもある一定レベルの格闘技を使う連中が相手の場合は効かないか、あるいは力技で相殺されて終了になり得る「弱肉強食」「弱い奴は死ね」「隙を見せたほうが馬鹿」というのがすぐ隣にある世界だったのだ。
相手は何も人間同士だけではなく、所謂魔物モンスターと呼ばれるものだって存在するのだ。
頭で勝負、というよりも力技でゴリ押しができるのが、この世界の怖いところだ。
ニーナたちの罪を背負って生きていくには、まず強くなくてはならない。
ありがたいことに錬金術が使えたが、それは俺の切り札的な何かになった。
何を対価にしてこれが使えているのかは、未だに俺にはわからない。
その頃の俺の素直な感情としては、ニーナとアレクサンダー、そして俺に合成させられた名前が付かなかった獣が自分たちの死を忘れさせないために、あえて使えるようにしてくれたんじゃないかと本気で思っていた。
俺は師匠に教えをこいながら、ゆっくりと成長していった。
元の大学生時代や二度目の世界では比較できない身体能力を持ち、少年と青年の狭間の時間に殺人の経験と女を犯すことを覚えた。
日常生活の合間に、暴力と破壊と快楽が繰り返された青春時代。
呪符魔術士スイレームの本業が暗殺の類だったからとも言える。
その仕事の最中に、この世界の中心人物とも呼べる連中とも知り合った。
『英雄』と呼ばれるそいつらと気がついたら小競り合いを繰り返し、面白がられて奴らの特徴と破壊力抜群の技を文字通り身体で覚えさせられたりした。
修練闘士セヴァール
数千年の歴史の中で60人もいない、最強の存在達。
気が付けば友人になっていた。
気が付けば戦友になっていた。
…一度、標的になり、そして本気で殺し合いもした連中との関係は俺に正しく『力』を与えてくれた。
戦って、戦って、殺して、殺されそうになって、死にかけて。
あるいは死にかけた奴を救って。
惚れた女もできた。その好いた女と最後まで添い遂げることはできなかったけれど…この辺りは割愛しよう。
とにかく、この三度目の人生が一番殺伐として、血塗られた人生だったがその分充実したモノでもあった。
この人生の終焉は、やはり人の手にかかって殺されてしまったけれど。



そして現在、四度目の人生。



結局は最後まで他人を守り切れなかったという代償なのか、死に様が人間ではない、運命を定める何かにお気に召していただけなかったのか。
それとも、これまでの人生がすべて途中退場だったから、今回何かしらのサービスがあるのかと思えばまさかの赤ん坊プレイからの始まりだった。
好みじゃないのと母親とはいえ他人の女の乳を吸うのに抵抗があった俺は、良く泣く赤ん坊だったはずだ。
名前は
くしくも一番最初の人生と同じ世界観―日本で現代社会。化学がいくらか発達していたことにほっとしていたのも一瞬。
まったく神様運命ときたら俺をぬか喜びさせるのが上手い。
俺を挟んでの両親たちの会話の中の単語に何かしらの引っ掛かりを覚え、その情報を記憶の奥底から引っ張り上げたときだ。
一番最初…大学生であった頃の俺が大好きだったらライトノベルがある。
二次創作も読み漁っていたその小説は、アニメ化もしたその作品。
アニメも漫画の世界も繰り返したが、正直スポーツものが良かったのだがそうはならなかったようだ。
『鋼の錬金術師』がダークファンタジー、『影 技シャドウスキル』が格闘ファンタジーであるなら、この『風の聖痕』はエレメントアクションファンタジーと言えばいいか。
販売元のキャッチフレーズは確かそれだったはずだが。

『風の聖痕』

それがこの世界が小説化された時のタイトルだったはずだ。
世界の万物に宿り構成している精霊に呼びかけて魔術を行使できる世界。
なんというか、精霊に呼びかけて世界のシステムをハッキングして、魔術としての形を世界に示している。
一般人には秘匿されているが公的にオカルトが認知されている世界―だったはずだ。
記憶や感情の核である「かつて大学生だった俺」の記憶は、まだまだ失われていない。
と、いうか『鋼の錬金術師ハガレン』世界で限界以上に頑張って脳みそを使ったおかげで活性化したのか、記憶の奥底にしまいこんだ情報を引っ張り上げることは簡単になっていて重宝している。
…まぁ覚えてても失敗をしてしまうのはご愛嬌ってところ。
で、『風の聖痕この』世界で、一番幅を利かせているのは、精霊魔術師だ。
一系統…水なら水の精霊のみ…しか使用できないし、その精霊の特色を術に反映されてしまうがそれだけに強みも持つ。
物理法則だのなんだのにも精霊に干渉させられる、というのは強い。
ライトノベルの『風の聖痕』の物語ストーリーは火の精霊魔術師の一族、しかも古代に火の精霊王に認められた神凪一族にたった一人生まれた「火の精霊が使えない」青年が、一族を追放されて数年後に舞い戻るところから始まる。
両親の話を総合すると、俺はこの神凪一族の分家の一つに生まれてしまっていた。
…よりにも寄って、攻撃力に特化し、火の精霊王に認められた過去にしがみつき、火の精霊魔術至上主義に凝り固まった選民主義の一族に生まれてしまった俺は最初は悲観した。
両親は俺が火の精霊の加護を与えられたかの確認の為に、赤ん坊の俺に火を近づけて火傷を負ってマジ泣きしていることに驚き、悲嘆にくれてから医者に見せた。
俺に火の精霊の加護はない=精霊魔術は使えない。
両親と確執はこれで確定してしまったのだが…俺は医者に手当をしてもらいながら開き直ることにした。
どの道、俺という男が世界のシステムに干渉するとしたら、それは呪符魔術によって世界に俺の意志力を示すことだ。
そうでなければ『影 技シャドウスキル』世界であれだけ苦労を重ねて研磨した技術の全てが無駄になる。
これは避けたい。
精霊魔術以外にもこの世界には陰陽師や魔法使い、仙術使いの仙人が存在しているのは小説からの情報で分かっているのなら、それを踏まえたうえでこの世界で呪符魔術を構築してもおかしくはないだろう。
「己の一族こそが最強」
「全ての精霊術は火術の下」
そう思い込んでいる大人を、子供の俺が両親の性根を叩き直せるか?

無理無理無理無理。
無駄無駄無駄無駄。



成長したってあの二人にとって俺は「子供」であって人生の先輩でもないし、正直彼らに嘲笑される対象だ。
それがたとえ血を分けた我が子といえども変わりないのが、この世界の精霊魔術師一族の特徴だとも言える。
神凪一族だけではなく、小説内に登場した他の精霊魔術師の一族も概ねそんな感じだったのを俺は小説として読んで覚えている。
きっと話なんざ聞きやしないって。
これまでの世界前世を含めて生きたのは合計100年にも満たない若造の俺が、400年も一貫して同じ意志を植え付けられた両親の思想を変えることなどできるわけねぇだろ。
だから俺は彼らを勝手に見限った
そんな不毛なことに時間を費やすよりも自分が生き抜いて意志を示すためには、身体を鍛えるか勉強したほうが有意義だと。
両親を含めた神凪一族(分家含む)を、己惚れて力に酔いしれたままそのまま自滅させることにしたのだ。
…俺のような男が、誰かを救おうとか動くこと自体が間違いだったのだ。
前世までの経験でつくづく俺は思い知らされた。 そんな俺をよそに両親はもう少し年齢が上がるまで、とあえて火を近づけさせようとは思わなくなってくれた。
おかげで時間が稼げた。
言葉を話せるようになったら、俺は心身ともに鍛え始めた。
鋼の錬金術師ハガレン』世界で得た知識をこの世界でそのまま応用していいものか、図書館に行って大人に隠れながら調べた。
影 技シャドウスキル』世界で師匠に教えられた呪符魔術を行使できるかも確認したかったし、また血反吐はいて覚えさせられたクルダ流交殺法を忘れることだけは避けたかった。
忘れてしまう、ということはニーナたちを、そして背負った命たちの全てを無駄にするということだ。
神凪にかまけてて、そうなってしまうことだけを俺は恐れた。
両親は俺のすることに文句は言わす受け入れてくれた。これだけは素直にありがたかった。
もしかしたら「そうすることによって火の加護をきちんと得られるかもしれない」と思い込んでいたのかもしれないが、そんなことはもう確認できない。
今現在、年齢も上がって肉体的に大人に近づいてきている今、没交渉なので彼らがどんな思考をもっていたかなんて考えない。
風の噂では弟妹どちらかが生まれて、そちらがちゃんと火の精霊を扱えているらしいから、まぁよろしいんじゃないでしょうか。
俺に対しては早々に諦めてくれたようだが、世間を気にしてか最低限の生活費だけは出してくれているからありがたい。
寝起きはまだ未成年ということもあってか一族の敷地内から出られないが、寝起きする場所はちゃんと屋根のある場所だのだから文句はない。
本当にひどいのは赤ん坊時代に早々に見限った俺だからなぁ。
基本的スタンスは『風の聖痕この』世界の住人がどうなろうと知ったことじゃない、だ。
俺はもう原作物語がどうなろうと、好きに生きよう。
そう考えて生きてきた現在、俺の身体は『影 技シャドウスキル』の当時の年齢時代と比較したら若干劣っている程度まで鍛えることができている。
幼児の頃から図書館通いを続けた。
図書館通いと学校の成績もいいので、世間様には「頭が良くて運動神経もいい子供」になっているはずだ。
図書館の資料で得た知識も合わせて『鋼の錬金術師ハガレン』世界の錬金術の知識がそのまま使えることを確認した。
両手を合わせての錬金術も、錬成陣を書いての錬金術も使えたので安心した。
影 技シャドウスキル』時代も思ったことだが、意外に便利にできるように進化してくれて嬉しい。
分解の過程で、その物質の構成も頭に叩き込まれて理解でき、その情報はいつでも好きな時に思い出せるということ。
おかげで呪符を作るための材料もすぐに思い出したし、すんなり『影 技シャドウスキル』世界の呪符魔術の構築ができた。
符へのお伺いが成功したときは本当に嬉しかったっけな。
一番最初に作ったのは【耐火】と【治癒】。
同時に呪符を展開させて発動させる<同時発>も使えるようにするのにそうは時間はかからなかった。
小学校中学年の頃から【耐火】の呪符にはお世話になった。
なにせ神凪一族の同世代の子供達からイジメという名の殺し合いのお誘いがひっきりなしになったからだ。
最初は手加減すべきかと思って符を使わずにおいたのだが、ここでエスカレートして俺を殺したところでこの子供たちは罪悪感すら覚えないと思い直して反撃することにした。
影技シャドウスキル』世界までの俺の経験からして言わせていただければ、人間は痛い目を見ないと本当の意味合いで理解しあえないバカな生き物なのだ。
子供の時点で痛い目に見ていたら、大人になっても覚えてるだろ? あんな感じ。
火の精霊魔術の修行で一向に芽が出ない俺を標的にしようとしてくる連中との戦いに大いに役立ったのは言うまでもない。
呪符は元が紙だがその符に宿る意志力が炎の意思に勝てれば燃えない。
クルダ流交殺法(素手格闘術)の練習にもなったので、良しとしている。
手加減とかは一切しない。
だって火を使って俺を殺しに来ている相手に対して、なんで俺の方が加減をしなくちゃならないんだ?
同世代の連中は火が効かない俺に対して驚き、内心は火の精霊魔術が使えないからと見下しているが物理で負けるので表立っては言わなくなった。
「無能のくせに」とまるで俺が雨の日のマスタング大佐のような言い方をして突っかかってくる馬鹿相手は徹底的に痛めつけたりもした。
…いや、あの人無能なんかじゃなかったけど。
それが何年も続くと、こう鬱屈した意識を溜め込むようになって…高校入学してしばらくしたらそれが爆発し、その結果、原作主人公様が俺を訪ねてやってきたのだ。
怪我した身体を引きずって。
「手合わせしてくれ」と必死にすがりつくように言われ、まぁ美形は何しても似合うなぁとか思いながら相手をしたわけなんだが。

そしたら、まぁなんというか。
返し技でいいのをいれて、受身も取れてなかった相手の介抱するために念の為傷口見るために服に手をかけましたよ?
で…うん。
目の前に包帯に巻かれた胸があって、そこには二つの膨らみがあった。
頭の中に会ったはずのない、だけど知ってる人造人間ホムンクルスの言葉が駆け巡った。

「有り得ない。なんてことは、有り得ない」

その。
こいつ。
「うぅ…っ」
「ちょ、お前、泣くなよ」

…そいつの名前は神凪和麻。
この世界が俺が知っている【風の聖痕】とはよく似た、しかし全く違う【世界】だと理解したのはこの時が初めてだった。
てか、なんで主人公が女性化してんだ、てめーー!!(八つ当たり)


(Illegal move) 普通に指していたら有り得ない着手。

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