れんきん†むそう
(イマ、ナントオッシャガリヤリマシタカ、コノビショウジョハ?)
少女の口から出てきた単語にたいして、の思考回路は以上をきたしていた。
殆どの日本人が知っているであろう中国の武将の名前が出てきて、それが本人だというのだ。
一美刀に視線を向けると、彼女も思考回路がきたしているようだ。
深呼吸を2、3度行い、若干の落ち着きを取り戻し、もう一度尋ねることにした。
「ゴメン、風ノセイデチョット聞キ取レナカッタ。モウ一度イイカナ?」
「そうでしたか。ならば、もう一度名乗りましょう。我が名は、関羽。字は雲長。あなた様方をお迎えに参りました」
やはり、答えは同じであった。
「一美刀、俺ノ耳ガオカシクナッタノカナ?俺ニハ彼女ガ自分ガ関羽ダト言ッテルヨウニ聞コエルンダガ?」
「サン、私モソウ聞コエマス」
二人して、そう聞こえることに諦めが付いたのか、は落ち着きを取り戻すが、一美刀はそうもいかなかったようだ。
「ま、待ってください。名前が関羽って、どおいうことなんですか!?」
「どおいうこととは?」
関羽は、小首をかしげる。
「私も関羽って人のことは多少なりと知ってますけど、その人は大昔の中国の武将ですよ。もしかして、関羽に憧れてつけたとか?」
まくし立てるように、言葉を続ける。
「けど、関羽といったら、まったく日本人っぽい感じがしませんけど・・・・ここって日本でしょ?どうして、そんな名前で・・・」
一美刀の言葉を関羽が遮る。
「ちょっと待ってください。【にほん】とは何ですか?」
関羽の言葉に、一美刀の勢いがそがれる。
「気づいてなかったのか?ここは日本ではなく中国だぞ?」
「へぁ?」
思わぬところから合いの手が入り間抜けな声が出る。
振り返るとそこには、何言ってんだこいつみたいな顔をしただった。
「あなた方のおられた天のことを、【にほん】や【ちゅうごく】というのですか?」
「ちょっと待って下さい。ここは日本じゃないんですか?」
「ここは幽州啄郡。遠方の稜線にそびえる五行山を見ていただいても分かる通りです。これより西に少し進んだ所に村があり・・・・・・・どうかいたしましたか?」
一美刀が混乱している一方で、は一人納得しているようだ。
「さん、一人だけ納得してるんですか!?」
「まぁ、落ち着け。後で、説明してやるよ・・・・・・覚えてたら」
そういって、がぽんと頭をなでてやると、一美刀の顔が少しばかり朱に染まる。
「そういえばこっちの自己紹介が、まだだったな。性は、名は。宜しく」
関羽に左手を差し出すと、戸惑いながらも関羽は握り返す。
「確かに、自己紹介がまだでしたね。私は、性は北郷、名は一美刀と言います。助けてくれて、ありがとうございました」
関羽はと同様に戸惑いながらも握手をして、言葉を続ける。
「いえ、礼には及びません。天の御遣いであるあなた方をお守りするのは、我が使命です」
凛とした声で答え、「一真様には必要ないかもしれませんが」と困ったように言葉を続ける。
「いんや、そんなことはないさ。ありがと」と、が笑顔と答えると、関羽の顔を朱に染まる。
その空気に気を悪くしたのか、一美刀は少しばかりむすっとした表情で、疑問を口にする。
「それで、【てんのみつかい】というのは、何なんですか?」
それに、ワタワタとしながらも関羽はすぐさま答える。
「はい。先日、この戦乱の世を治めるために天より遣わされた方々が、落ちてくると管輅という占い師が言ってた場所はまさにここ。そして私はあなた方とであった・・・・・。あなた方以外に誰が天の誰が天の御遣いだというのですか。それ以外にも、一美刀殿がお召しになってる陽光を反射して煌めきを放つ服や、殿が纏われてらっしゃるただならない者の気配が、あなた方が天の御遣いであること雄弁に物語っている・・・・・・そうでありましょう?」
「この服は、ポリエステルだから光を反射してるだけなんですけど」
「俺って、そんなにやばいか?」
関羽が発した言葉に少しばかりへこむ。
自分は普通のつもりだったのにと。
「ぽりえすてる・・・・・天の言葉とは珍妙なものが多いモノが多いのです」
「じゃあ、ポリエステル並みに俺は珍妙なのか」
の精神はネガティブ方向に向かってるようだ。
「い、いえ、殿が珍妙というわけでは」
あわててフォローをする関羽に、少しばかり立ち直りを見せる。
その中、一美刀が天の御遣いを否定しようとすると遠くから声が近づいてくる。
「姉者ーーーーーーーーーーっ!」
遠くから土煙を巻き上げながら、小さな少女が駆け寄ってきた。
「おおっ、鈴々。やっと追いついたな」
「ひどいのだーっ!鈴々を置いていくなんてー!」
「何を言っている。お主が子犬と戯れているから悪いのではないか」
「むーそれはそうだけど」
鈴々という少女は、たちに気が付いたようだ。
「このお兄ちゃんとお姉ちゃん誰ー?」
慌てて鈴々を諌める関羽。
「こら、失礼な言い方をするな。この方々こそ、私達が捜し求めていた天の御遣いの方々なのだぞ」
「へーっ、お兄ちゃんとお姉ちゃんが天の御遣いの人なんだ」
一美刀が、否定しようとするが、それを聞かずに言葉を続ける。
「じゃあ、自己紹介なのだ。鈴々はねー、性は張、名は飛!字は翼徳!真名は鈴々なのだ!」
「張飛って、あの張飛?」
「まぁ、予想は付いてたがな」
驚く一美刀に、あきらめの入る。
「よくわかんないけどそうなのだ!」
「こら、鈴々。でたらめを言うな。お前が一体どの張飛だというのだ」
「にゃははは♪もしかしたら鈴々ってば、知らない間に有名になってるのかもーって」
ケタケタと無邪気に笑う張飛を見ながら感慨にふけるに、どこかに飛んでしまっている一美刀。
「さん、何でそんなに落ち着いていられるんですか!?」
「まぁ、慣れたというか・・・・・なんと言うか・・・・・・・」
の人生(?)は、まさに波乱万丈。
タイムスリップ?それがどうした。時代どころか、世界を移動しているわ!!
男女反転?上等だ!!和麻が和美で、貴明が貴子だこらぁ!!と言った感じで、何でもどんと来いといった感じだろう。
背中が、煤けて見える。
の背にある影に、少しばかり引く一美刀。
ここは、確かに自分がいた世界では違う。
しかし、を見ていると、小さい事なのかなぁ〜?と思ってしまうほどだった。
「認めるしかないのかなぁ」
「一美刀、いい事を教えてやる。諦めが肝心。楽しんじまえ」
が、親指を立てて、一美刀にさわやかに笑いかける。
それは、本当にさわやかな笑顔だった。
諦めの境地に達した者の笑顔だろう。
あぁ、いつも大変なことに巻き込まれてるんだろうなぁ。と何も知らない一美刀さえ、思ってしまうほどだった。
それを知ってかし知らずか、二人に声をかける二人の少女。
「おおっ!認めてくださいますか!」
「ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん♪」
「へっ?」
虚を衝かれた一美刀だった。
「我らが主となり、戦乱渦巻くこの乱世を治めるために、戦ってくださるのですね」
「戦うって・・・・えええ!?」
「そーなのだ♪お兄ちゃん達は鈴々達のご主人様になって弱い人たちを助けるのだ」
「そうです。ご主人様!四人で戦乱に立ち向かい、弱き庶民達の為に戦いましょう」
「なら、【天の御遣い】は、一美刀一人と言うことにしておこう。二人もいたんではな」
「そうですね」
関羽は、が言わんとすることがわかるようだ。
こんな言い方をするのは何だが、【天の御遣い】が二人もいたのでは、民の心にもありがたみがうせるであろう。
確かに“二人もいる”と言う捕らえ方はあるだろうが、何でも少ないほうがありがたみが増すというものだろう。
言い方は、かなり悪いが。
「それなら、さんがなってください。私なんて・・・・・」
「いや、俺には無理だ。客観的に見てだが、俺よりか一美刀のほうが、人々の心をつかみやすいし、俺は武の方で働く方が性にあってる」
「で、でも」
そこで、関羽が悲しそうにうつむいたのに気が付く。
「どうしたんですか?」
「・・・・・私は戦乱に苦しむ庶人を助けたい為、鈴々と共に郷里を離れ、仰ぐべき主君・・・・・ひいてはこの乱世を鎮める力を持った方を探しておりました。ですがそんな間に戦火は拡大し、戦う力のない人たちが次々と死んでいったのです。悔しかった、悲しかった」
希望に満ちた表情になる。
「そんな中、管輅と出会い、そのお告げを聞き、私はようやく人々を助けることが出来ると。そう思っていたのです」
また、悲しそうな顔になる。
「一美刀、俺達が【天の御遣い】かどうかなんて分からない。しかしだ、お前一人に押し付けるようになってすまないが、一美刀が【天の御遣い】となることによって、助けられる人々がいることは間違いない」
「う〜〜〜〜わかりました(さんの方が良いと思うのにぃ)」
膨れながらも、納得したようだ。
「大丈夫、。皆でフォローするさ」
一美刀は、意を決しここに誓う。
「関羽さん、張飛さん。私達は【天の御遣い】ではないかもしれません。もしかしたら、あなた達の求める【天の御遣い】ではないのかもしれません。でも、【天の御遣い】を名乗ることで一人でも多くの人々を助けることが出来るのなら、たとえ汚名を浴びようとも貫いて見せましょう。その汚名はあなた達に及ぶかもしれません。それしか、私があなた達に対して唯一出来ることです。それでもかまいませんか」
「一美刀、そのときは俺も一緒だ」
四人の瞳が、交差する。
「「主等よ、我ら二人の命、あなた方にお預けします」」
ここに、誓いは果たされる。
2008.12.24 UP
冬眠様から第二話いただきました!!
いやー、もう途中でさんがネガティブホロウを食らっている姿が笑える(笑)。
名前変換の都合上、某二人の変換が出来ません。申し訳ありません。
どうも有難うございます、冬眠様!!
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